【駄作】目撃_国家権力が泥棒を追い込む話…にしないんかい!(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1997年 アメリカ)
一流のスタッフ・キャストが集まった作品なのに、驚くほど面白くない話でした。本作を脚色する際、イーストウッドはゴールドマンに「観客に気に入られるキャラクターは殺さないでくれ」という指示を出し、その結果、大幅な書き直しとなったようなのですが、その改変が悪い方向へと振り切れたのではないかと思います。

©Warner Bros.

あらすじ

泥棒のルーサーは豪邸に忍び込んだが、盗みの最中に家主のクリスティ・サリヴァンと、現職の大統領であるアラン・リッチモンドの不倫現場に出くわした。情事はやがて暴力沙汰へと発展し、最終的にクリスティがシークレットサービスに射殺されるという結末を迎えた。目撃者となったルーサーは現場から証拠のナイフを持ち去り、事件の隠蔽を図るシークレットサービスが彼を追う。

スタッフ・キャスト

オスカー常連者が複数参加

  • クリント・イーストウッド:『許されざる者』(1992年)と『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)でアカデミー作品賞と監督賞を受賞。なお、『ミリオンダラー・ベイビー』では74歳という史上最年長受賞の記録も出しました。その他、『ミスティック・リバー』(2003年)、『硫黄島からの手紙』(2006年)、『アメリカン・スナイパー』(2014年)の3作品は作品賞・監督賞にノミネートされており、どんだけ傑作ばっか撮ってるんだという人です。
  • ジーン・ハックマン:『フレンチ・コネクション』(1971年)でアカデミー主演男優賞受賞、『許されざる者』(1992年)でアカデミー助演男優賞を受賞。また『俺たちに明日はない』(1967年)、『父の肖像』(1970年)でアカデミー助演男優賞ノミネート、『ミシシッピー・バーニング』(1988年)でアカデミー主演男優賞ノミネート。
  • エド・ハリス:『ポロック 2人だけのアトリエ』(2000年)でアカデミー主演男優賞ノミネート。『アポロ13』(1995年)、『トゥルーマン・ショー』(1998年)、『めぐりあう時間たち』(2002年)でアカデミー助演男優賞ノミネート。
  • ジュディ・デイヴィス:『インドへの道』(1984年)でアカデミー主演女優賞ノミネート。『夫たち、妻たち』(1992年)でアカデミー助演女優賞ノミネート。
  • ローラ・リニー:『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』(2000年)と『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』(2007年)でアカデミー主演女優賞ノミネート。『愛についてのキンゼイ・レポート』(2004年)でアカデミー助演女優賞ノミネート。
  • リチャード・ジェンキンス:『扉をたたく人』(2008年)でアカデミー主演男優賞ノミネート、『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)でアカデミー助演男優賞ノミネート。

脚本は大物脚本家のウィリアム・ゴールドマン

1931年生まれ。小説や戯曲を手掛けた後に映画の脚本家となり、『明日に向かって撃て!』(1969年)と『大統領の陰謀』(1976年)でアカデミー脚本賞を受賞しています。他に、『動く標的』(1966年)、『華麗なるヒコーキ野郎』(1975年)、『マラソンマン』(1976年)、『遠すぎた橋』(1977年)などを手掛けており、その全盛期である70年代にはハリウッドトップの脚本家でした。

登場人物

ホイットニー親子

  • ルーサー・ホイットニー(クリント・イーストウッド):世界でも屈指のレベルの腕前を持つ泥棒だが、非常に慎重で捜査機関に対しては数十年間に渡って尻尾を掴ませていない。また義賊的な犯罪者であり、殺人等の倫理を逸脱した犯罪には手を染めない。朝鮮戦争の従軍歴があって、多くの勲章を受けている。
  • ケイト・ホイットニー(ローラ・リニー):ルーサーの娘で、弁護士。幼少期にはルーサーは服役中で母親の手により育てられたため、ルーサーと疎遠になっている。

ホワイトハウス

  • アラン・リッチモンド(ジーン・ハックマン):合衆国大統領で極度のドS。支援者であるウォルター・サリヴァンの若い配偶者であるクリスティと不倫関係になりかけて持ち前のドSスイッチが入ったところ、あまりの荒っぽいプレイをクリスティに拒絶され、抵抗されたことが、彼女の死の直接の原因となった。演じるジーン・ハックマンは『追いつめられて』(1987年)でも勢い余って殺してしまった愛人の死を部下と共に偽装する大物政治家を演じており、狼狽する演技などは同作とまったく同じでした。
  • グロリア・ラッセル(ジュディ・デイヴィス):リッチモンドの主席補佐官で、クリスティの死を泥棒による犯行と偽装するよう指示を出した。
  • ビル・バートン(スコット・グレン):シークレットサービスで、リッチモンドと揉み合いになったクリスティを射殺した。事件直後には警察への通報を提案したものの、大統領をスキャンダルには晒せないというグロリアに押し切られて偽装に加担した。前職の州警察時代にはその名を広く知られていたほどの腕利き捜査官で、現在でも当時と変わらぬ正義感を持っているため、殺人の偽装を後悔している。演じるスコット・グレンは、若手時代にイーストウッドによく似ていると言われていた。
  • ティム・コリン(デニス・ヘイスバート):シークレットサービス。ビルとは違い、事件の偽装や関係者の口封じに対して躊躇をしていない。演じるヘイスバートは後に『24 -TWENTY FOUR-』で大統領役を演じる人。

ニューヨーク市警

  • セス・フランク(エド・ハリス):NYPDの捜査官で、クリスティ殺害事件の担当者。盗みの手口から本件の容疑者としてルーサーに辿り着いたが、ルーサーの前歴や現場の状況から、殺人犯はルーサー以外にいることも見抜いた。ケイトに気があり、彼女の前では自分は独身であるということをやたらアピールする。

サリヴァン家

  • ウォルター・サリヴァン(E・G・マーシャル):慈善事業に熱心な老人で、政界の大物。リッチモンドの主要な支援者であり、彼からは政治の父とも呼ばれている。前妻に先立たれたショックから、配偶者の死に目に二度と遭うことのないようにと若いクリスティと再婚したが、年齢的にクリスティを満足させることはできないことから、彼女の奔放な性生活を容認していた。
  • クリスティ・サリヴァン(メロラ・ハーディン):ウォルター・サヴァバンの若い妻。風邪を理由に夫との旅行をキャンセルし、リッチモンドとの不倫に及んだが、あまりにドSなリッチモンドの性癖を受け入れることができずに抵抗。リッチモンドと揉み合いになって手近にあったナイフを掴んだところを、シークレットサービスに撃たれて死亡した。
  • マイケル・マッカーティ(リチャード・ジェンキンス):妻の死に怒ったウォルターが高額報酬で雇った腕利きの探偵。

感想

設定がまったく活かされていない

原題の” Absolute Power”とは絶対権力という意味であり、「もしも大統領が殺人を犯し、国家権力を行使して全力で隠蔽したらどうなるのか?」という仮定の物語としての面白さがあったはずなのですが、その点はまったく深掘りされていません。大統領、首席補佐官、シークレットサービス2名の合計4名が右往左往しているだけで、権力の行使というものに及ばないのです。この題材であれば、担当刑事が真相に辿り着きそうになったところでおかしな妨害が入るとか、関係者が不可解な死に方をしてもまともに捜査すらされないといった展開があるべきだったと思うのですが。

また、「国でもっとも発言力のある大統領vs誰からも言い分を信じてもらえない犯罪者」という図式も生かせていません。主人公ルーサーが何を言っても信用してもらえず、やむなく地下に潜って一人で戦わざるをえないという話がそこにあるべきだったはずなのに、劇中では刑事も娘も意外とすんなりとルーサーの潔白を信じてくれるので、ドラマやサスペンスというものがほぼ死んでいます。

間抜けが多すぎる

大統領も関わった殺人現場の偽装という大変なことをしているのに、凶器のナイフを置き忘れてくるという尋常ではないミスを犯すシークレットサービス。この冒頭の時点から嫌な予感はしていたのですが、案の定、本編もこのレベルで進んでいきました。

リッチモンドがサリヴァン夫人の死を悼むフリをする際に、「夫人は風邪で旅行に行けなかった」と夫婦間でしか知らない情報をポロっと言ってしまったり、ついに姿を現したルーサーをシークレットサービスが狙撃し損ねたり、ケイトの口封じをする際に銃や刃物を使って確実に仕留めるのではなく、彼女の乗った車を崖(さほど高くない)から突き落とすという不確実性の高い方法を取ったりと、まぁ間抜けが多すぎるのです。

隠蔽する側のレベルが高く、それをもすり抜けるルーサーすげぇ!となるべき内容だったのに、ルーサーが普通にしていればシークレットサービス側がどんどんボロを出していくという話は、一体どうなんだって感じでした。

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