キャシアン・アンドー_宇宙のスパイゲーム【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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宇宙
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(2022年 アメリカ)
1~3話までを一気に見たが、期待以上に良かった。名も無き者の戦い、組織の駒同士の殺し合いという『ローグワン』のテーマを継承・発展できており、実に興味深い内容となっている。作りに不親切な部分があるので子供にはちと厳しいだろうが、大人の鑑賞に堪えうるスターウォーズではある。

感想

『ローグ・ワン』のスピンオフドラマ

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)はシリーズに新風を巻き起こした革命的作品だった。

スカイウォーカー家という特別な血筋を離れ、歴史の闇に消えていった名もなき戦士たちを主人公とすることで、シリーズの奥行きは広がった。

捨て身の作戦に乗り出す直前、反乱軍戦士のキャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)は言う。

スパイ、破壊工作、暗殺、すべて反乱軍のためだった。後ろ暗い任務を終える度に、大義のためと自分に言い聞かせてきた

それまで光と闇、善と悪という単純な二元論で描かれてきたスターウォーズだったが、その最前線では両軍ともに血みどろの争いを繰り広げてきたということが初めて言及されたのである。

「悲しいけどこれ戦争なのよね」(©スレッガー・ロウ中尉)を地で行く世界観に、私は震えた。

本作『キャシアン・アンドー』は『ローグワン』のスピンオフであり、ローグワンでは脇役として登場したキャシアンにスポットが当てられる。

製作と脚本を務めるのは『ボーン・アイデンティティ』(2002年)のトニー・ギルロイ。

『ローグワン』では脚本家としてクレジットされていたが、実はギルロイこそが『ローグワン』の実質的な監督だった。

表面上の監督としてクレジットされているギャレス・エドワーズが完成させたバージョンにディズニーは納得せず、公開まで半年という切羽詰まった時期に本編の50%近くを撮り直すという凄まじい意思決定を下した。

その撮り直しと再編集を指揮したのがトニー・ギルロイであり、ほとんど破綻していた現場を立て直し、大方失敗作になるだろうと思われていた作品を傑作に変えたのだから、『ローグワン』はギルロイの作品だと考えて間違いない。

この交代劇に味をしめたディズニーは、続く『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019年)でも当初決まっていた監督のクビを切るということをしたが、いずれもうまくはいかなかった。

この通り、『ローグワン』で際立った働きを見せたトニー・ギルロイが指揮を執ったことで、本作も際立ったドラマとなっている。

9/22に配信開始された1~3話を見たが、終始、ダーティで重苦しく泥臭い。

戦いの大義とか善悪なんてものは描かれず、ある状況においてたまたま反乱軍側にいたキャシアンが、ほとんど選択の余地もなくその戦士になるという、何とも殺伐とした物語となっている。

全体の語り口は複雑かつ不親切であり、説明的なセリフなどは皆無。キャシアンを始めとした登場人物は過去にいろいろあったようなのだが、その背景や人物同士の関係性は追い追い説明していくというスタンスなので、1~2話は正直何が何だかわからなかった。

話が一気に動き出す第3話からは面白くなってくるが、だからと言ってスターウォーズらしい派手なドンパチやVFXを多用したスケールの大きな見せ場があるわけではない。

廃工場での撃ちあいや路地裏でのチェイスなどがメインなので、やはり地味という言葉が頭をよぎる。

じっくりと腰を据えて臨むべきドラマなので、好き嫌いはかなり分かれると思う。少なくとも子供が楽しめる作品ではないだろう。

その一方で多面的な要素を持つ複雑な物語を楽しみたい大人の視聴者の要求には十分すぎるほど対応しており、『ローグワン』で示されたテーマの深堀りもできているので、頑固なファンは納得するんじゃないだろうか。

宇宙のスパイゲーム

労働者のキャシアン(ディエゴ・ルナ)は酒場でのトラブルでタチの悪い酔っ払いに絡まれ、本意ではないが二人を殺してしまう。

追われる身となったキャシアンは、逃走資金を稼ぐために帝国軍の最新デバイスを闇ルートを通じて売り捌こうとするのだが、それを買いに来たルーセン(ステラン・スカルスガルド)という男から「こんなものを入手できるなんて、君は良い腕してるねぇ」と言われて、スパイのスカウトを受ける。

ルーセンの正体は反乱軍の工作員で、その目的はデバイスではなく新人の勧誘。帝国軍の最新テクノロジーを盗める奴なら、きっとスパイとしても使えるだろうと思って来たのである。

一方キャシアンはというと、明確な思想があるわけでもないので反乱軍に参加したいとも思えず、回答に躊躇する。しかし追っ手がすぐそこにまで迫ってきており、準備していた逃走ルートに逃げ込むことはもはや不可能。

ルーセンと一緒に逃げるしか手立てがないので、ほとんど選択の余地なくそのオファーを引き受ける。

ここからスパイの師匠と弟子という関係性でドラマの本筋が始まるのだが、才能はあるが勢い任せの弟子に対し、周到な準備で危機を切り抜ける師匠という構図は、ブラッド・ピットとロバート・レッドフォードが師弟を演じた『スパイゲーム』(2001年)のようだった。

『スパイゲーム』は人命を犠牲にせざるを得ない諜報活動の闇に迫った物語でもあり、爽快感よりも痛みにスポットライトを当てるという作風だった。その点においても本作に通じるものがある。

追っ手はサラリーマン

そしてキャシアンを追跡する側の設定もまたユニーク。帝国軍ではなく、民間企業の公安部隊が彼を追ってくるのである。

舞台となる惑星モーラーナ1で工場を経営し、星全体を管理する立場にもある民間企業が、キャシアンの犯した殺人事件の捜査に当たる。

ただし担当するのは軍人や刑事ではなくサラリーマンなので、基本的にやる気がない。

「殺されたのは嫌われてた野郎だし、たぶんこいつが何かしたんだろう」と言って真剣に取り合わないし、治安が悪化すると帝国軍による介入→お取り潰しって事態もありうるので、本件は事件として認識するなということになる。

公安責任者のおっさんは「適当に処理しとけ」とだけ言い残して出張に出てしまうのだが、一方留守を任された若手は「そういうわけにもいかんでしょ」と勝手に思いつめ、事件の捜査に乗り出す。

この若手キャラも絶妙で、本社から田舎の支社に配属されてきた若手総合職という風情を持っている。

いかにも青二才という感じなので周囲からの敬意は得られておらず、「捜査するぞ!」と現場に向かって檄を飛ばしても、部下たちからは「はい、はい」という反応しか返ってこない。1名を除いては。

現場職員の中の太ったおっさんだけは若手総合職に思いっきりすり寄り、「おっしゃる通りです!」「しっかり取り締まらんといかんですよ!」と言ってどんどん乗せていく。

将来偉くなることがほぼ確実な若手総合職に取り入っておきたいという魂胆が見え隠れするが、このキャラもまたサラリーマン的で面白かった。

そして彼らの設定は本作や『ローグワン』の精神を如実に反映している。

彼らは主人公を憎んだり、特定思想に染まっているわけでもなく、ただただ与えられた役割をこなしているのみ

戦争とはそういった目的のない者同士の殺し合いであるという現実社会の一側面が鋭く切り取られており、その批評性にも驚かされた。

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コメント

  1. より:

    netflixの「ダーマー」で記事お願いします
    面白いですよ