U・ボート(劇場公開版)_史上最高の潜水艦映画【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(1981年 西ドイツ)
1941年秋。Uボート「U96」は連合国護送船団への攻撃のためにナチス占領下のフランス、ラ・ロシェル港を出航した。

 Bavaria Film – © 1981

スタッフ

脚本・監督はウォルフガング・ペーターゼン

1941年ドイツ出身。1960年代には舞台演出に関わり、1966年から1970年にかけてドイツ映画・テレビアカデミーに在籍して演出方法などを学びました。70年代より西ドイツのテレビ映画を手掛けるようになり、1979年より本作『U・ボート』の製作を開始。1984年には製作費2700万ドルの大作『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984年)を監督。これは西ドイツ映画史上最大というだけでなく、巨大マーケットを持つハリウッドと、国策として映画を製作していたソ連以外の国の映画としては史上最大規模という勝負作だったのですが、これが全世界で1億ドルを稼ぐ大ヒットとなり、ペーターゼンはこの博打に勝ったのでした。

その後、ハリウッドに進出して『第5惑星』(1985年)を監督。同作の評価は芳しいものではなかったものの、以降はハリウッドを代表する職人監督となり、『ザ・シークレット・サービス』(1993年)、『アウトブレイク』(1995年)、『エアフォース・ワン』(1997年)、『パーフェクト・ストーム』(2000年)、『トロイ』(2004年)といくつもの大プロジェクトを手掛けました。

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撮影は名カメラマンのヨスト・ヴァカーノ

1934年西ドイツ出身。1960年代初頭から西ドイツテレビ界で撮影に携わってきたベテランで、『娼婦ケティ』(1975年)からポール・バーホーベン作品の常連となり、関係は『インビジブル』(2000年)まで続きました。批評的にも興行的にも苦戦した『インビジブル』は関係者にとって苦い経験となったようで、バーホーベンはオランダに帰国し、ヴァカーノは『インビジブル』以降、2019年現在に至るまで新規の仕事をしていません。

本作では狭い艦内を猛スピードで動き回る独特なカメラワークが評価されてアカデミー撮影賞にノミネートされました。そして、西ドイツ映画史上最大の大作『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984年)でもウォルフガング・ペーターセンと再度のタッグを組みました。

登場人物

  • 艦長(ユルゲン・プロホノフ):U96艦長。常に冷静で水兵達を束ねる男の中の男。ナチシンパではなく上層部に対する皮肉も言うが、命令には忠実な職人気質の軍人。設定上は30歳らしいが、どう見ても40代半ばの貫禄を持つ。
  • ヴェルナー少尉(ヘルベルト・グレーネマイヤー):軍報道部の記者で、水兵ではないが取材のためにUボートに乗り込んだ。守ってくれる家族のいない過酷な現場に一度身を置いてみたいという冒険心からUボート乗艦を志願したが、ジブラルタルで海底に沈んで死を覚悟せねばならない場面に至って、軽い気持ちで乗り込んだことを後悔した。
  • 機関長(クラウス・ヴェンネマン):艦長とは7度一緒に出撃した頼れる部下。奥さんが臨月らしいが、病院との連絡がつかず無事出産したのかどうかも分からないまま出航した。
  • 副長(フーベルトゥス・ベンクシュ):真面目一筋の堅物で、乗艦前の水兵達のバカ騒ぎに嫌悪感を示す。ヒゲ伸び放題の船内でも、唯一ヒゲを剃って身だしなみを維持し続けている。通常の映画であれば人望も実力もない人物として描かれがちなキャラだが、本作では艦の危機に対して陣頭指揮を執る有能な一面も見せる。
  • ヨハン(アーウィン・レダー):機関兵曹長。機関室から出ることが少なく幽霊と呼ばれるほどのベテランだが、敵の爆雷攻撃のストレスで一時的に錯乱状態となった。後のジブラルタル突破では艦内の浸水を止め、全乗組員の命を救った。
  • ウルマン(マルティン・マイ):少尉候補生。花屋のフランス人と婚約しており、艦内で届かない恋文を書き続けるというベタな行動をとる。船団攻撃で右腕を負傷する。
  • トムゼン(オットー・ザンダー):U96出撃前日に帰港し、叙勲を受けた艦長。スピーチではヒトラーに対する複雑な感情を表した。

プロダクション

原作は実際にUボートに乗り組んだ従軍記者ロタール=ギュンター・ブーフハイムの体験を綴ったノンフィクションで、1973年に出版されて16か国語に翻訳され、世界中で200万分以上の売上を記録しました。

1976年にはブーフハイム自身がシナリオ化し、ドイツの映画会社パヴァリア・アトリエが映画化権を取得。当初はアメリカの製作会社と共同制作するつもりでジョン・スタージェス監督&ロバート・レッドフォード主演や、ドン・シーゲル監督&ポール・ニューマン主演などが考慮されていたのですが、月並みなハリウッド映画にされることをブーフハイムが危惧して、結局はドイツ人のみで製作することにしたのでした。そして、当時のパヴァリエ・アトリエの社長ギュンター・ロールバッハは、テレビ時代の弟子筋だったウォルフガング・ペーターゼンに本作の話を持ち掛けて製作が本格始動。

プロダクションは1979年から1981年の2年半にも渡り、撮影にほぼ1年を要するほどの労作となりました。製作費は1850万ドル(当時の為替レート)と戦後の西ドイツ映画では最大規模となり、ドイツ映画史全体を見てもフリッツ・ラング監督の歴史的傑作『メトロポリス』(1927年)以来の大作となりました。映画の後半で俳優達が疲れ切った顔をしているのは、演技というよりも本当にくたびれているからなのだろうと思います。

複数のバージョンについて

本作は映画とテレビドラマの二つの構想が並走していたらしく、まず1981年に135分の劇場版が公開。作品は全世界で大ヒットし、おまけにアカデミー賞6部門ノミネート(監督、撮影、視覚・音響効果、編集、音響、脚色)という批評面での成功も収めました。

1985年にテレビシリーズ版が放映。全6話、合計313分の大作で、本国ドイツでは48%~60%という驚異の視聴率を叩き出しました。1997年、ハリウッドの大物監督となったウォルフガング・ペーターゼンが208分のディレクターズ・カット版をリリース。このバージョンでは画質の向上や音声の5.1ch化がなされ、その後のソフト化ではディレクターズ・カット版が主流となりました。

他方で一番扱いが悪いのが劇場公開版であり、Blu-rayでのリリースはなし。DVDでも2005年の『U・ボート パーフェクト・コレクション DVD-BOX』に収録されたもののみしか出ておらず、単品でのリリースはなし。TVシリーズ完全版ですら後に単品が出たのに、なぜアカデミー賞にノミネートされた劇場公開版が販売されていないのかはよく分かりませんが、私が親しんだのは金曜ロードショーで放映されたこの劇場公開版なので、以降のレビューも劇場公開版のものとさせていただきます。

感想

リアリティの醸成

前述した通り巨費がかけられた作品なのですが、劇中のほとんどの場面が潜水艦内で製作資源をUボート関係に集中投下できたのか、その内装等のリアリティは群を抜いています。私は軍事オタクというほどでもないので実物と同じなのかどうかまでは判別できないのですが、少なくとも素人目には「多分実物もこんな感じだったんだろう」と思わせるような説得力がありました。

加えて、『レッドオクトーバーを追え!』(1990年)や『U-571』(2000年)など映画における潜水艦内部は妙な広さを感じさせられることが多いのですが、本作のみ、大人ひとりがやっと通行可能な通路や、すし詰め状態の居室など、潜水艦内の狭っ苦しさというものがうまく表現できています。これは美術のみならず、撮影や演技がきちんと空間を表現できていたことの成果だと言えます。

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余談ですが、私の地元の広島にはてつのくじら館といって、除籍になった実物の潜水艦がそのまんま資料館になっていて内部に入ることができるという完全に常軌を逸した施設があるのですが、実際に入ってみると本物の潜水艦はビックリするほど狭いです。船員用のベッドなどは子供でも狭いと感じるほどで、こんな狭いスペースに大人の男が何人もすし詰め状態だと、さぞかしむさっ苦しいんだろうなと感じました。そんな息苦しさを見事に表現できた潜水艦映画は本作がおそらく唯一であり、リアリティの醸成は驚異のレベルに達しています。

てつのくじら館
©呉観光協会

定番の展開がビシっとハマっていく気持ちよさ

冒頭のパーティにおける水兵達のヤケクソのようなバカ騒ぎや、U96と入れ違いで帰港したトムゼン艦長のヨレヨレ加減、また複雑な表情でU96の出航を見送るトムゼンなど、「彼らはこれからヤバイところに行きますよ」という煽りは戦争映画の定番なのですが、こうした定番が気持ちよくハマっていく気持ちよさがありました。

病院との連絡が取れず奥さんが無事出産したのかどうかの確認もできないまま陸を離れた機関長、婚約者に届かぬ恋文を書き続けるウルマンのドラマなどもベタだし、一時的に錯乱状態になって艦内に迷惑をかけたヨハンが、後半で全員の危機を救うという展開もありがちなのですが、これらもまた教科書通りにきっちりと盛り上がっていくので、うまい人が作ったうまい映画だなと感心させられました。

堅物のようでサービス精神旺盛

先ほど「リアリティの醸成がすごい」と書いたのですが、他方で映画的なウソの付き方がうまいことも本作の特徴です。顕著なのが深海の水圧でボルトが飛ぶ場面であり、このまま船が壊れてしまうんじゃないかと乗員と観客を恐怖のどん底に突き落とすような見事な効果を上げているのですが、実際のUボートは電気溶接がなされていて、リベット止めはされていなかったようです。樋口真嗣監督は『ローレライ』(2005年)を撮る際にボルトが吹っ飛ぶ場面を採り入れようとしていたのですが、考証的に無理があるということで断念したと言います。本作には、そんなウソをリアルだと思わせるような巧さがあるのです。

クライマックスでの空襲も同様です。この場面は戦争の虚しさを描くというドラマ面での意義があったと同時に、戦争スペクタクルとして観客の目を楽しませる機能も果たしていたのですが、潜水艦アクションで観客をお腹いっぱいにした後で、劇中最大のスペクタクルを放り込んでくるという見せ場の配置のし方には唸らされました。

まとめ

ドラマ性の高さと同時に高い娯楽性も維持された理想的な戦争映画であり、非英語圏の作品としては例外的にアカデミー賞の主要部門にノミネートされたという高評価にも納得がいきました。本作にはいろんなバージョンがあるのですが、コンパクトにまとめられ、展開にスピード感のある劇場公開版がもっともおすすめです。

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