(2023年 アメリカ)
全人類の夢にニコラスケイジが登場するという奇抜な映画で、前半は面白い。ただしトリッキーな題材が災いして面白さを保つことには失敗しており、終盤は猛烈に退屈した。
感想
Netflixにあがっていたのを寝る前に鑑賞。
独創的で見ごたえのある映画だったけど、出来にはムラがあって、終盤は眠気との戦いだった。
主人公ポール(ニコラス・ケイジ)はしがない大学教授で、特筆すべき論文などの成果もなければ、講義が人気を集めているでもない。
このまま研究者としては平凡に終わろうとしていることに不満がないわけでもないが、そこそこ良い生まれと思われる奥さん(ジュリアンヌ・ニコルソン)と結婚したことで生活にはゆとりがあり、人生そのものへの不平は少なそうだ。
そんなある日、全人類が夢にポールの姿を見るという怪現象が起こり、一躍時の人になるというのが、ざっくりとしたあらすじ。
ネットなどを見ると、これはSNSやキャンセルカルチャーを風刺した映画ではないかとの考察が多数派を占めていた。
そうした要素は確かに内包されているが、私は名声というものに対する一般的な考察ではないかと思った。
ポールは生物学の教授で、アリやシマウマといった群れで生活する動物を主に扱ってきた。
シマウマの模様について語った序盤の講義場面で、作品の主題はほぼ説明されていると思う。
なぜシマウマはあんなに目立つ模様をしているのか?
天敵である肉食動物は個体のみを狙い、群れの中に突っ込んでいくことはしない。
縞模様があれば群れの中に紛れることができ、個体として識別されづらくなるので、肉食動物に襲われるリスクが減るというのが、ポールの唱える学説だ。
また群れの中では、目立つことで生殖の可能性も高くなるという副産物もある。
いずれにせよ、シマウマの縞模様は「群れの中にいること」が前提になっており、もしも個体でサバンナに放り出されれば、見るも無残なことになってしまう。
全人類の夢に登場して一躍時の人となったことで、ポールは群れの中で目立つことの恩恵を享受する。
どこに行っても「夢のおじさんだ!」とチヤホヤされるし、若くて美人の子とやれそうになったりもする。
ポール自身が特に何かしたでもなく、本当に棚ぼた的に名声を得たのだが、この名声は一夜にして悪名へと転じる。
ポールの登場する夢がトラウマ級の悪夢に転じる怪現象が、これまた全人類的に発生。
「あなたの顔が目に入ると不快なのでレストランから出て行ってください」「子供たちが不安になるのでお子さんの学芸会には来ないでください」と世にもあんまりな扱いを受けるポール。何もしていないのに。
群れから切り離され、目立つ模様でポツンとサバンナに放り出されたシマウマ状態だ。
どこに行ってもウザい消えろと言われ、時に暴力を振るわれ、涙ながらの謝罪動画をSNSで流しても(何に対して謝っているのかは不明だが)、「何あれ?そういうことじゃないんだけど」と実の娘たちからも言われる始末。
最終的には愛する家族からも離れて暮らさざるを得なくなのだが、ポールは何もしていないのである。
この哀れな中年男に、ニコラス・ケイジが完全にはまっている。
ちょっとした虚栄心を持ち、世間から持ち上げられれば戸惑いつつもまんざらではない表情を見せ、一転して叩かれ始めるとひたすらに惨めったらしい顔をして、絡んでくる相手を余計に刺激してしまう。
この小市民演技が実に素晴らしく、ゴールデングローブ賞ノミネートにも大いに納得なのである。
またニコラス・ケイジのお顔もちょうどいい塩梅だ。
一見すると普通のおじさんなんだが、目鼻立ちに特徴があるので全人類的に記憶されやすくもある。ポールの設定にピッタリの顔立ちをしていると言えるだろう。
加えて、毀誉褒貶の激しいキャリアもまた、ポールのドラマとシンクロしている。
演技派として世に出て、『リービング・ラスベガス』(1995年)でアカデミー主演男優賞を受賞。
その直後にジェリー・ブラッカイマー製作のアクション映画に出るようになって世界的な知名度を獲得したのだが、若手時代に共演したショーン・ペンからは、「あいつはもう俳優じゃない」などと酷い言われ方をした。
アクション映画だって楽なものではなく、肉体を酷使しつつ出演していただろう。それなのにあの言い方はあんまりじゃないか。
また異常な浪費癖が祟って2009年には債務不履行で銀行から訴えられた。一本2000万ドルとも言われたギャラを溶かしきる浪費って一体何なんだとも思うが、ともかく財政面で窮地に陥ったケイジは出演作を選べる立場ではなくなり、B級映画にせっせと出演するようになった。
そのなりふり構わぬ姿勢により俳優としての評価は地に落ち、半ばネタキャラ化したのだが、本人は経済的苦境に真剣に向き合っていただけだ。
年に4本もの主演作を抱えるという尋常ではないリリーススケジュールに、10年以上も耐え抜いて借金を完済した。
もしもこれが普通のお父さんなら涙さえ誘っているところだが、ケイジは世界中から笑われた。
演技派と称された若手時代も、国際的なスターとなったアクション俳優期も、ひたすら量をこなしたVシネ期も、ケイジは一貫して目の前の仕事に全力で向き合っているだけだったが、その時々で世間は彼を持ち上げたり落としたりした。
こうしたケイジの持つ深みまで込められているので、ポールは実に味わい深い人物となっている。
問題は、映画の出来なり密度なりにやたらムラがあることだ。
前半は凄く面白いのに、後半は退屈する。
そして終盤ではポール現象に着想を得て夢で商売をするベンチャー企業も現れるのだが、これがまったくの蛇足だった。
前例のないトリッキーな題材なので、2時間にわたって面白さを一定に維持することは難しいのは分かる。
分かるけど、面白くなかったのは事実なので、ちょっと辛めの評価をせざるを得ない。


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