機動戦士ガンダムUC(OVA)_宇宙世紀のたな卸し的作品【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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宇宙
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(2010年 日本)
過去作品に配慮した設定及びメカデザイン、壮絶な人間ドラマ、圧巻の戦闘シーンとファンを喜ばせる要素が非常に多く、さらには、20年以上に渡って無視の状態が続いてきた『ΖΖ』を正史に引き戻した功績も大きく、一連の宇宙世紀ものの締め括りとしては、これ以上のものは望めない程の作品だったと思います。

各話レビュー

episode 1 ユニコーンの日(7点/10点満点中)

冒頭、クィン・マンサの流れを汲むクシャトリアと、ロンドベル所属のジェガンが交戦した時点で燃えました。

不評のあまりほぼなかったことにされてきた『ΖΖ』系のMSと、一方で実質的な正史として扱われてきた『逆襲のシャア』系のMSが同時に登場し、今まで水と油だったふたつの物語が本作で融合した、それだけでも見る価値ありです。

またMS戦のスピード感や迫力も充分で、素晴らしい掴みだったと思います。

本編は恐ろしく流れが速く、仮にテレビシリーズでやれば5~6話を費やす内容を第1話で一気にやっつけます。

バナージとオードリーの出会いや、ビスト財団とバナージの関係、ユニコーンガンダムのデストロイモードへの変身等、通常であれば回を跨ぐであろう展開を一気に見せて出し惜しみなし。これだけ盛り込みながらも、脚本の出来が良いためか消化不良を起こしていない点はさすがでした。

まだ始まったばかりの物語ではありますが、脚本・演出・作画・音楽・デザインのすべてが高いレベルでまとまっており、他のアニメとは次元が違うという堂々たる風格をすでに漂わせています。

1時間をきっちり楽しませ、次回作への期待感を煽る。素晴らしい序章だったと思います。

episode 2 赤い彗星 (7点/10点満点中)

冒頭からユニコーンガンダムとクシャトリアの戦闘という美味しい見せ場で、今回も出し惜しみなし。ユニコーンの圧倒的な強さ、バナージの潜在能力の高さ、ガンダム出現に驚くオーディエンスと、必要なものが的確に描写されていることには感心しました。

当エピソードのタイトルロールであるフルフロンタル登場からのシナンジュ無双は、その冒頭をも上回るテンションの高さで、さらに興奮させられました。名機サザビーをより洗練させたようなシナンジュのルックス、その異常なまでの強さ、「高速機の3倍の動き」という煽り、すべて最高でした。

続くシナンジュとネェルアーガマの交渉では、フルフロンタルが抜群の交渉力を披露しますが、彼はただの戦闘機乗りではなく、恐ろしく頭がキレる策士であることがここでわかります。

ミネバ・ザビを人質にとられて内心では焦っていたのかもしれないが、交渉においては終始平静を装い、「それがどうした。ミネバ本人という確証もない状況で譲歩はできない」と言ってネェルアーガマの要求を一蹴し、それどころかラプラスの箱に係るすべての回収物を引き渡せと要求します。

こういうギリギリの交渉では焦りを見せた方が負け。「お願いです、殺さないでください」との懇願はもっての外であり、その基本を押さえていたフルフロンタルは、一方明らかに動揺していたネェルアーガマを終始圧倒します。

また、あえて過大な要求を出すことで交渉のハードルを上げ、最終的な妥協点を自分に有利な位置にまで引き寄せるという交渉テクニックも見事なもので、この場面は見ていて特に楽しめました。

他方、交渉の材料とされたミネバは、ジオンのお姫様として生きてきた人間としての強靭な精神力を見せます。

幼少期より、彼女は常に政争の具として利用されてきました。自分の思い通りに人生は進まない、世情によっては自分に落ち度がなくても殺される場合がありうるという理不尽な運命を飲み込めており、その可凜なルックスとは裏腹に、常人離れした腹の座り方をしています。それは銃を持った職業軍人をも怯ませるほどでした。

今回は各キャラクターの個性が活かされたドラマがハイライトであり、またしてもクォリティの高い作品として仕上がっています。

episode 3 ラプラスの亡霊 (8点/10点満点中)

序盤のパラオ攻略戦は第一次ネオジオン戦争時のMSオンパレードであり、『ΖΖ』も好きな私としては嬉しい描写が続きました。同時に、連邦の最新鋭MS部隊を迎え撃つのが10年以上前の旧式MSであることからネオジオンの厳しい台所事情も窺え、MSを通して設定が語られている点でも感心しました。

前回はこの世界の中心人物達の物語でしたが、一方今回は、組織の歯車として戦争に従事する兵士たちにスポットが当てられます。

マリーダは噛ませ犬として味方から見捨てられますが、命がけの戦闘の過程で、その凄惨な生い立ちが明かされます。彼女と同型のエルピー・プルを知っていれば、あの少女が過酷な運命を辿ってきたことに衝撃を受けます。

少女時代のマリーダを苦しめたのがジオン残党に対する連邦の不寛容であったとすれば、残党刈りの急先鋒であるエコーズこそがその権化。

しかし、エコーズもまた人から成る組織であり、その構成員にもドラマがあります。

前回までは堅物の軍人という印象だったダグザ中佐が、今回は男気キャラ化。序盤のパラオ攻略戦は、民間人であるバナージを戦いに巻き込んでしまった彼なりの責任の取り方でした。

また彼は、きっかけは自発的なものではないにせよ、この争いの中心に立ってしまった以上、バナージが多くの人に対して責任を負っていると説きます。バナージには逃げる自由も残されてはいるが、それでも「知らない」で済まされる立場ではないことを肝に銘じて身の振りを考えよと言うのです。

民間人の主人公がガンダムに乗り続けねばならないことの意義がここまではっきりと説明された作品はなく、これは視聴者にとっても意義のあるやりとりでした。

その後、ダグザは軍人としての役割を果たし、バナージに道を示した後にフルフロンタルの手にかかって絶命しますが、その散り際のかっこよさには感動しました。

ダグザの死に怒ったバナージはフルフロンタルを追い込み、その結果、フルフロンタルを救出しにきたギルボアを誤って殺してしまいます。フルフロンタルがダグザに対してしたことを、バナージはギルボアに対してやってしまったわけです。

本意ではないにせよ、バナージは彼の息子達から良き父親を奪ってしまった。息子達はバナージを恨み続けるでしょう。こうして憎しみは増幅していくのです。

戦争とはまさに地獄であり、単純な善悪では割り切れない業で溢れていることが描かれた傑作回だったと思います。

episode 4 重力の井戸の底で (8点/10点満点中)

ミネバと食堂のオヤジの会話、バナージとジンネマンの会話。

これらは連邦とジオン双方の立場をよく理解できる内容であった上に、人類が起こす争い事を総括するような普遍性もあって、思わず聞き入るほどの素晴らしいものでした。

ここを起点として、ガンダムUCは敵・味方、善・悪のボーダーレス化が本格的になりますが、この壮大なアクション大作の転換点がMS戦ではなく含蓄ある会話であったという点に、ガンダムシリーズが長く愛される理由があります。

そして、地球に潜伏していたジオン残党の一斉蜂起が本作のハイライトとなりますが、デザートザク、ザクキャノン、ドワッジ、緑にペイントされたズゴックにマラサイと、懐かしいのが続々出てきて感動しました。また、隊長機がザクⅠなんですが、これがスナイパー仕様にカスタマイズされてて死ぬほどカッコいい。

パラオ攻略戦ではハマーン戦争時の旧式MSが多数登場しましたが、地上のジオンはもっと古い一年戦争時のMSを現役で使っており、彼らがいかに逼迫した状況で生きてきたかが窺えます。

そんな残党たちが「積年の恨み!」って感じでジムⅡやネモをなぎ倒して回る様には興奮しました。

しかも、ジオンに襲撃されるのがトリントン基地なんですね。『0083』でコウ・ウラキがいたあの基地ですよ。そんな舞台設定も気が利いていたし、MSは宇宙よりも地上戦の方が映えるし、今まで見てきたすべてのガンダムシリーズの中でも最高とも言えるほどの見せ場となっています。

しかし所詮は旧型。現代戦に第二次大戦時の装備で乗り込むようなもので、ラー・カイラムの最新鋭MS部隊(米特殊部隊をイメージしたデザイン)が駆けつけたところで残党軍は総崩れとなります。

命運尽きたことを悟ったカークス隊長は自害しようとするも、それすら果たせず討ち死にするという悲惨な最後を遂げ、その散りっぷりが泣かせました。

そのカークスが最後に叫んだのは、ロニが戦争の狂気に飲まれないことでしたが、そんな願いとは裏腹に、ロニは私怨の塊となって暴走します。

ロニの操縦するシャンブロとユニコーンの攻防戦がクライマックスとなりますが、ここでのやりとりの緊張感と熱量には圧倒されました。ロニを個人的に知っているバナージは説得可能と判断してギリギリまで交渉を続けるが、一方リディは虐殺マシーンと化したシャンブロを一刻も早く破壊しようとする。

どちらの考え方にも一理あるだけに、悲劇的な結末が余計に引き立ちます。

episode 5 黒いユニコーン (7点/10点満点中)

前回に引き続きバナージは不殺モード。ギルボアの死やジンネマンとの会話といった前フリの効いていたEP4ではそれほど気にならなかったものの、本作になると不殺にもいよいよ弊害が出始めています。

不殺だと戦闘シーンは盛り上がりに欠けます。敵に対する怒りや、負けるかも知れないというドキドキ感よりも先に、事ここに至っても本気を出さない主人公へのイライラが先に来てしまうのです。

ガルダを戦場としてアッシマーの改良型が飛び交うというファンには堪らないシチュエーションを準備し、しかも素晴らしい作画で目を楽しませながら、メインの戦闘シーンには今ひとつ熱が足りていません。

ユニコーンモード、しかも武器も使わない状態で、一方デストロイモードで襲いかかってくるバンシィと互角にやり合うのだから、相対的にバンシィが弱く見えてしまいます。前回のラストで華々しく登場したのも束の間、魅力的なライバル機ポジションが早くも危うくなっているのはマズイと思います。

そもそも、全力で戦わないことは味方に対する裏切りにはならないのでしょうか。今回は勝ったからいいものの、仮にユニコーンが負けていれば作戦は失敗に終わり、みんなで必死に守ろうとしてきたものが失われます。

勝負は時の運と言いますが、作戦の要となる者が全力で戦わないために負けるとなれば、それはまた別の話。

戦場での殺し・殺されはお互い様であるにも関わらず、自分を殺す気で襲いかかってきた敵に場違いな善意をかけ、その結果、仲間や大義を危険にさらすことは正義ではないでしょう。

「君は大勢に対して責任を負っている」というダグザ中佐の言葉はどこへいってしまったのでしょうか。今回のバナージには感情移入して見ることができませんでした。

人殺しに後ろめたさを覚えつつも、いざ戦場に出れば容赦なく敵機を撃墜し、「無駄な殺生をまたさせる!」と事後的に言い訳していたカミーユを見習って欲しいところでした。


そんなわけで途中までは「ん~」って感じだったのですが、ゼネラル・レビル介入からの怒涛の展開には度肝を抜かれました。

切羽詰まったネェルアーガマの前に突如現れるローゼン・ズールの異常な強さ。からの~、シナンジュ再登場。

絶体絶命の危機において、忘れかけていた第三者の救援によりギリギリで難を逃れるという展開は娯楽作品にありがちですが、ここまで完璧なタイミングで見せられたのは久しぶりで気持ち良くなりました。

episode 6 宇宙と地球と (8点/10点満点中)

当初は全6話と予定されていたシリーズが途中から7話構成へと拡張されたため、当エピソードは戦況の説明や、各キャラの思考を整理することに費やされています。

目立ったMS戦はなくビジュアル的にはかなり地味な回なのですが、これがつまらないどころか、シリーズ中でも屈指の激アツ回となっており、壮絶な人間ドラマこそがガンダムの真骨頂ということを再認識させられました。

一時的に呉越同舟状態となったネェルアーガマ内での主導権争いは、娯楽作としての面白さに満ちていました。ネオジオン総帥たるフルフロンタルが直々に乗り込み、いちいちグゥの音も出ない正論を言ってくるため、当初ネェルアーガマクルーは押され気味。

しかし、中間管理職っぽくて頼りなかったオットー艦長が「あんたらは軍人じゃない。やはりテロリストだ。テロリストとは交渉せん!」とフルフロンタルを一喝したところからネェルアーガマの反撃がはじまるという場面の高揚感は素晴らしく、「うぉ~!」と声をあげそうになるほど興奮しました。

また理念と理念の衝突も描かれます。

長く続く地球連邦との争いへの現実的な対応策を披露するフルフロンタルに対して、その方法ではアースノイドとスペースノイドの立場が逆転するだけで、人類はまた同じ過ちを繰り返すのではないかと主張するミネバ。

単純な善悪のぶつかり合いではなく、双方の主張に一定の合理性がある中で、どちらの道を選択すべきかを観客にも考えさせることが良い作品の条件のひとつだと私は考えているのですが、その点で言えば、この熱いやりとりは完璧なものでした。

また、この争いに絡んでくるジンネマンの主張も見所です。彼は前向きなミネバの考えを正しいとしつつも、家族を惨殺されたことへの怒りは消しようがなく、連邦をねじ伏せてやりたいという欲求に抗うことはできないとして、強いリーダー・フルフロンタル側につきます。

終始冷静で、苦しみを乗り越えたような雰囲気すら覗かせていたジンネマンが、ここに来てついに感情を露わにするのですが、その主張の切実さには心打たれました。

彼は好戦的な軍人でもなければ、修羅の道に堕ちた狂人でもありません。

人情に厚い男が、それでも戦わなければやってられないと涙ながらに訴える姿にこそ、戦争の難しさがあります。さらに、そんな彼の姿勢を熔解させたマリーダとのやりとりは感動的であり、本作のドラマ性の高さには目を見張ります。

episode 7 虹の彼方に (6点/10点満点中)

前話から一転し、今回は序盤から圧倒的な密度とテンションの戦闘が繰り広げられ、そのパワーには圧倒されました。

ついに明らかになったラプラスの箱の正体も拍子抜けするようなものではなく、長い長い前振りに耐えるだけのオチを準備した発想力、正体を暴く際の絶妙なタイミング、その内容に対する登場人物達による考察等、どれもが素晴らしかったと思います。

また最終決戦を前にしてバナージとリディが共闘関係を結ぶという少年漫画定番の展開にもかなりの高揚感があり、中盤までは素晴らしいテンションで推移していました。

ただし最終決戦時のネオジオングのハリボテぶりにはガッカリでした。登場場面こそ仰々しかったものの、いざ決戦に入るとユニコーンの手刀でバキバキに壊されまくり、最終的にはボディが灰のように崩れ去り、規格外の巨体がほぼ活かされないまま終わります。

そしてネオジオング体最大の武器は、パイロットの脳内イメージを具現化するサイコシャード発生器というオカルト兵器なのですが、これではすでに巨体である必要性もありません。巨大な図体のMSというコンセプトのみが独り歩きした残念な結果に終わっています。

また、クライマックスではサイコフレームがあれば何でもあり状態になっている点も残念でした。ユニコーンは兵器の域を超え、もはやエヴァ初号機みたいな存在となっています。

ネオジオングのサイコシャード発生器と共鳴し、時間旅行までやってしまう(本当にタイムスリップしているのではなく、宇宙の記憶を辿っているだけらしいですが)オカルトぶりには、もうお手上げ。

その後もコロニーレーザーを受け止めるわ、その際に受けたボディの損傷を自然治癒してしまうわと、やりたい放題。ガンダムに求めているのは、そういうものではないのですが。

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公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント

  1. 匿名 より:

    「高速機の3倍の動き」 ではなく「後続機(アンジェロら親衛隊機)の3倍」ですね

    この時隕石やデブリを蹴って加速しているのは じつはシャア専用ザクのバーニアは通常のザクと同じ性能であり 撃破した戦艦等を蹴って次の目標に向かうので3倍くらい速かったという設定の再現です