ヘルボーイ(2004年)_キャラ造形で力尽きた【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2004年 アメリカ)
ギレルモ・デル・トロらしいキャラクター愛に溢れた作品で好感は持てるのですが、アクション映画としての大きな流れを作れておらず、劇中で起こっていることの深刻性にも関わらず観客が手に汗握らないという状況が発生しています。加えて従前の人間関係の説明がないまま、いきなり現在のドラマが始まるために、感情移入が難しいという問題も起こっていました。

©Columbia Pictures

あらすじ

1944年。ナチスは怪僧ラスプーチンを使って魔界の扉を開けたが、アメリカ軍の突撃によってその試みは中断された。しかし赤い小さな悪魔がこちらの世界に迷い込んでいた。ブルーム教授(ジョン・ハート)はこの悪魔をヘルボーイと名付け、自分の子として育てることにした。

60年後、成人したヘルボーイ(ロン・パールマン)はアメリカ政府のエージェントとして超常現象と戦っていた。博物館に出現した強力な悪魔サマエルとの戦いをきっかけに、復活したラスプーチンによる壮大な陰謀を追いかけることになる。

スタッフ・キャスト

監督・脚本は『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ

1964年メキシコ出身。90年代より一貫してモンスターを題材にした映画を撮り続けており、『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)でアカデミー作品賞・監督賞を受賞しました。日本のアニメや怪獣映画にも造詣が深く、『パシフィック・リム』(2012年)はその愛が炸裂した力作でした。

主演はロン・パールマン

1950年ニューヨーク出身。『人類創生』(1981年)でデビューし、一度見ると忘れられない容姿がジャン=ピエール・ジュネやギレルモ・デル・トロらに気に入られて、彼らの映画の常連となりました。

本作『ヘルボーイ』の製作にあたりスタジオはジョン・トラボルタの起用を望んだのですが、デル・トロはパールマン以外考えられないとして、製作費を減らしてまでパールマン主演を通しました。

作品概要

原作『ヘルボーイ』とは

マイク・ミニョーラが1994年にダークホースコミックから出版したコミックシリーズ。ナチに召喚された悪魔の子がアメリカ人に育てられ、『メン・イン・ブラック』(1997年)のような超常現象対策捜査官になるということがその概要です。

原作と映画版の大きな違いはヘルボーイの境遇であり、映画版ではヘルボーイの存在は秘匿されており、特殊な施設で育ったことになっていましたが、原作ではアメリカの普通の家庭で育てられ、人々はヘルボーイを見てもそれほど驚かないという設定になっています。

なお、原作者のミニョーラは本実写化企画でもモンスターや背景など多数のデザインを行っています。

感想

キャラクター愛に満ちた映画

異形の者の描写を得意とするギレルモ・デル・トロは、本作のキャラクター達を実に魅力的に描いています。

ヘルボーイは屈折した部分があり、ふてぶてしい態度もとるが、根は真っすぐで良い奴であるということが伝わってきます。いざ戦闘となれば人外ならではの圧倒的なパワーを披露するのですが、その描写も実によくできています。

そして敵対するクロエネンですよ。ガスマスクをかぶりナチスのコートを着た異様な姿に、二刀流を振り回す様のかっこよさ。そしてカメラに向かってキメポーズも撮るという歌舞伎野郎で、いくらでも見ていたいほど最高なキャラでした。

クロエネンのかっこよさ!

魔物を倒す際のルールが不明確

本作に登場する魔物たちは生死という概念を超越したものとして描かれています。

サマエルは倒すと2体に分裂するという『新世紀エヴァンゲリオン』の第7使徒イスラフェルのような仕様だし、クロエネンは銃弾を受けても痛がりもせず、ヘルボーイの拠点に潜入する際には自身を仮死状態に置くこともできました。

これらの描写より魔物たちは物理攻撃が通用しない相手のように感じたのですが、その後、サマエルはリズの炎で全滅させられたし、クロエネンは杭で串刺しにされて絶命しました。

特にクロエネンは冒頭でも杭に刺さるという同様の描写があったのに、なぜクライマックスのみダメージを受けたのかが分かりません。

極め付きはラストのイカ。一時的に開いた魔界の扉から侵入してきた化け物であり、この世に生息するサマエルなどとはランクの違う強敵だと推測されるのですが、実際戦ってみると体内で炸裂した爆弾でアッサリ死ぬという激安仕様で拍子抜けでした。

どうすれば倒せる敵なのかという明確なルールがなく、まだ死なれては困るという前半ではおおよそ倒す手段の見当たらない強敵として現れ、そろそろ死んでくれないと話を終われないという後半ではアッサリ死ぬというお手軽加減では盛り上がりませんよ。

ドラマ性が高そうで高くない

個人的にガッカリしたのがこれでした。

冒頭で「人格を決めるのは生まれなのか育ちなのか」という問いかけがあり、このテーマは本編中で繰り返し提示されます。

ならば、魔界の生まれでありながら人類を守ることに全力を尽くすヘルボーイの葛藤が当然描かれるべきなのですが、当のヘルボーイに悩んでいる様子がないという困ったことになっています。

クライマックス、ヘルボーイはその大きな右手で魔界の鍵を開け、その直後に自分の角を折って魔界の扉を閉じます。これこそが作品を貫くテーマを如実に物語る展開であり、もっとも盛り上がるべき場面だったはずなのですが、残念ながらそこには躊躇も葛藤も描かれていないので、特に感じるものがありませんでした。

他にも、ヘルボーイは育ての親であるブルーム教授と仲違いしているようなのですが、従前の二人の関係がどのようなもので、何がこじれて仲違いしているのかも分からないので、両者の和解にも感動がありませんでした。

リズとヘルボーイの関係も同じくです。二人は元同僚で、今でも思い合っているにも関わらずリズがチームを出て行ったという背景があるのですが、従前の関係性の説明がない状態で、いきなり未練タラタラのヘルボーイに姿が描かれるので、観客が置いてけぼりを喰らっています。

敵の動機が不明

またラスプーチンやクロエネンが一体何がしたくて、悪事に対して異様な執念を燃やしているのかが見えてきません。

世界征服とか人類皆殺しのような、やり遂げることに物凄い労力がかかりそうな壮大な目標を掲げている敵に限って、それをやることに一体何の得があるのかを説明できないという矛盾がヒーローものではよく発生します。本作も、まさにその罠にかかっているというわけです。

例えば、ラスプーチンとクロエネンは魔物に精神を支配されており、その版図拡大に利用されているでもいいのです。何かしら納得できる背景があれば物語に専念できるのですが、何の説明もなしとなると動機が気になって余計な雑念となってしまいます。

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コメント

  1. 山ちゃん より:

    確かに見返してみるとドラマの出来は悪く感じましたが、個人的にはブルーム教授とヘルボーイのやり取りは深みがあってよくできていると感じました。原作だとその描写は全く無く、ブルーム教授は序盤であっさり殺されてしまったので、この辺りは良改変だと思います。