クズとブスとゲス_えらいものを見てしまった【8点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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サイコパス
サイコパス

(2016年 日本)
恐ろしく異常で突き抜けた映画で、何やら社会に怒っている監督の熱量に圧倒されました。インディーズ映画にはこれくらいの勢いが欲しいという、ある意味で理想的な作品となっています。しかもただ異常なものを見せるだけではなく、一般人との間の共感の接点も意識的に作られており、その周到さにも恐れ入りました。

感想

怒涛のインパクトとヤバさ加減

もともと知らない映画だったのですが、Amazonプライムで何を見ようかと探していたところ、まもなく配信終了ページにて発見。

「クズとブスとゲス」というポリコレ完全無視のタイトルにまず目が留まり、スキンヘッドでヤバい目付きの男の画像のインパクトも十分。街ですれ違った場合、まかり間違っても目を合わさないよう細心の注意を払う部類の男です。

しかも上映時間が141分。限りなく自主映画に近い作品では異例の長さで、一体どんな内容なんだと気になったので、とりあえず再生してみました。

するとタイトルとルックスのインパクトを越えるほど内容もヤバい。

衝撃を通り越して、これを作った人間は本当に頭がおかしいんじゃないかと不安になる映画と出会うことがごく稀にあるのですが、本作はまさにそれでした(褒めてます)。

ジャケットでもフィーチャーされているスキンヘッドの男、前科ありのリーゼントの男、そしてリーゼントの彼女が本作の主人公。彼らがそれぞれクズとブスとゲスを担っています(リーゼントの彼女は一般的には美人の顔立ちだと思うので、ブスは言い過ぎじゃないのと思いましたが)。

スキンヘッドはナンパした女性に薬を盛って裸の写真を撮り、それをネタに脅迫して金を払わせるというクズ中のクズで、いくら暴力映画とはいえ、こんな奴を映して大丈夫なのかと心配になるほどのレベルでした。

うっかりヤクザの店の女を誘拐してしまったスキンヘッドは弁償を要求されており、困ったスキンヘッドはたまたまバーで出会った(というか一方的に絡んでいった)女を風俗に沈めるのですが、その彼氏がリーゼントだったのでクズvsゲスの戦いが始まるというのがざっくりとしたあらすじ。

どうですか、このアングラ感。すべての要素がヤバさ全開です。

ただしこれが絵空事ではなく、都会の片隅にはこうした社会が存在しているのかもしれないという妙なリアリティも感じさせるので、インパクトオンリーではなく確かな演出に裏打ちされた作品なのだろうと思います。

で、あらすじを見る限り、リーゼントはヒーローっぽい立ち位置にいるのですが、こいつはこいつでキています。

彼の初登場は採用面接の場面なのですが、採用担当者に対して志望理由は金が欲しいからだの、自分は暴行と違法薬物で前科持ちだの、父親をヤクザに殺されただのと、言う必要のないことを言い、タバコを吸い始めます。

はっきりと相手を威嚇しているわけで、俗世間に馴染むつもりはない、俺より弱そうな奴に上から目線で来られるのはムカつくという態度を全開にしています。これはこれでお近づきになりたくはないタイプの人種です。

ド底辺の怒り

ここまで常人から敬遠される人種ばかりを登場させる映画というのは凄いのですが、これで141分の長尺を持たせているというのも凄い。

その原動力って一体何なのって言うと、前述したとおりの確かな演出力に加えて、監督が持っている熱というものが画面越しにもはっきりと伝わってくることにあります。

スキンヘッドとリーゼントはみんなが目を背けるタイプの人種だし、リーゼントの彼女は表向き普通に働いているのですが、コミュニケーションが下手で職場では黙々と仕事をこなすタイプ。

三者すべてが社会的に尊重されていない、存在していないかのように扱われている点で共通しており、いわゆるド底辺というやつです。

そして社会から無視され蔑ろにされていることへの怒りみたいなものが画面からほとばしっているので、最後まで飽きずに見ることができました。

ここで私の体験談ですが、ブログのタイトルにもある通り現在は公認会計士として食べているのですが、学生時代に資格を取ったわけではなく、いったんサラリーマンを退職して受験したため、受験勉強中は無職でした。

無職と言えども完全に無収入というわけにもいかないので単発バイトなどはしていたわけで、ちょっと前まで自分が働いていたようなオフィスビルへのデスクの搬入作業などをしていたのですが、いい年をしてそうした仕事をしている人間に対して、オフィスで働く人たちは全く目を合わせないという現象は私も経験しています。

あれはちょっと切なかったし、いわゆるド底辺に居ると社会的には透明人間のように扱われるんだということを身に染みて理解できました。

で、この監督はそうしたことに対する異議申し立てを、可能な限りの露悪的描写でやってるのかなと思います。徹底的に不快なものを見せて、ド底辺を軽んじてる奴らに嫌な思いをさせてやろうという。

その本気度がまた常軌を逸していて、暴力場面では本当に殴り合いをしているし、血糊も使っていません。

スキンヘッドが頭でビール瓶を割る場面なんて、本当に出血しているのでドン引きでしたよ。その反応が欲しくてそこまでやってるのでしょうが。

暴力野郎達にも慎ましい私生活がある

そんな壮絶な内容ではあるのですが、併せて描かれる暴力野郎達の家の中の様子は随分と趣が異なっており、これはこれで見所となっています。

社会に対して強気のリーゼントと弱気の彼女は、プライベートだと逆転。リーゼントは彼女に気を使いまくりで、彼女の方がリーゼントの態度に怒ったりします。

スキンヘッドを脅すヤクザは子分の運転するベンツに乗って、公営住宅のような質素な我が家に帰宅。そこには高校生くらいの息子がいるのですが、反抗期の息子に対して何も言えない小心な父親ぶりを披露します。

息子が社会でトラブルを起こした際にもヤクザらしい恫喝はせず、平謝りをして平凡な父親に徹します。

すべてのキャラクターを繋ぐポジションにいるバーのマスターは、店に立っている時には常連客から善き相談相手として慕われているのに対し、家に帰るとヒステリックな奥さんの言いなりです。

社会で演じるキャラクターと家の中でのポジションは違う、近寄りがたい暴力野郎も家に帰ればみなさんと同じですよという描写となっており、この辺りが観客との共管の接点になっています。この辺りの計算もよく出来ています。

暴力映画で分かる食育の重要性

もうひとつ本作の表現方法で独特だなと感じたのが、食に対する態度でキャラクターのバックグラウンドを描いているということです。

スキンヘッドは冷蔵庫から取り出した野菜を丸かじり。調理という概念すら持っていない様子であり、ほぼネグレクト状態のまともな家庭環境ではなかったことが伺えます。彼が女性をモノのように扱うのも、そうした家庭環境に起因するのかなと思います。

それと対照的なのがリーゼントの彼女で、鍋の具材を丁寧に飾り切りします。「お母さんに教えられた」というセリフからも、彼女が良い家庭環境で大事に育てられたことが見えてきます。

彼女と一緒に野菜を刻むリーゼントは、「男の料理だ」と言って結構雑な切り方をします。雑ではあっても一緒に調理をすること、一緒に食べることの喜びを知っているので、きっと愛情のある家庭で育てられたのだろうということは伺えます。

ヤクザは息子との夕食に牛丼を買って帰ります。また子分への差し入れはカップラーメンで、調理はせず出来あいで済ませるという姿勢から、人間関係の希薄さが見えてきます。

それと対照的なのがヤク中の男で、表向きはどうしようもない廃人ではあるのですが、訪ねてきたリーゼントに手作りのハンバーグを振る舞うなど、食に対するこだわりや人に対する礼節がしっかりとしており、ハイクラス出身で高いレベルのマナーと教養を身につけているのだが、何らかの理由で今の状態になったということが伺えます。

この通り、とんでもない暴力映画でありながらも、食育の重要性という一般的なテーマを扱っていることも本作の何とも言えない味となっています。

とにかくユニークで見所だらけの映画となっています。必見。

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