(2026年 アメリカ)
殺人マシーンが死体の山を築く系の話かと思いきや、主人公は意外と苦戦するし、肝心な場面でPTSD発症して苦しみ出すしと、この手のジャンルに求められる醍醐味をことごとく外している。2004年に公開されたトニー・スコット版が良かっただけに、本作の不出来が余計に目立ってしまう。
感想
A・J・クィネルの小説『炎の男』、三度目の映像化。
全てに絶望して酒に溺れた傭兵が富豪の娘のボディガードの仕事を通じて人間性を回復させるも、その娘を誘拐され凌辱されたことで、関わった者全員の血の雨を降らせるという、実にハードなバイオレンス作品だ。
過去2度の映像化のうち有名なのは『マイ・ボディガード』(2004年)で、アクション映画界随一の職人トニー・スコット監督が、気心の知れたデンゼル・ワシントンを主演に迎えて製作した。
シンプルな原作を、高度な演出と演技によって力強く見せた同作は復讐ものとして非常に良質で、世界中のアクション映画ファンたちを虜にしたのだった。
例にもれず私もトニー・スコット版の大ファンなので、22年の時を経ての今回の再映像化には大いに興味があったのだが、期待する内容とは全然違ったので失望の方が大きかったかな。
何せ、本作は復讐ものではないのだ。
主人公ジョン・クリーシー(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、任務の失敗で仲間を失ったことでPTSDを患い、今は倉庫労働者の身になっている。
そこに元上司がやってきて、ブラジルで請け負った大仕事にお前の手伝いが必要だと言ってくる(この辺りは『ランボー』みたいでちょっと好き)。
大統領選を控えたブラジルで、2選目を目指す現職が過激派に狙われているらしいということで、その警護を請け負っているのが元上官なんだけど、その上官が住んでいる高級マンションが爆破テロに遭ってしまう。
唯一、生き残ったのが夜遊びに出かけていた上官の長女ポーで、クリーシーは彼女と共に身を隠しつつ、単身、爆破テロの真相に迫ろうとするというのが、本作のざっくりとしたあらすじだ。
全7話で構成されているだけあって、クリーシーが黒幕を突き止めて終わりという単純な話ではなく、物語は二転も三点もするのだが、それが「サプライズのためのサプライズ」という感じで、陰謀の真相には説得力を感じなかった。
結果から振り返ると、組織からの助け舟に乗らず単独行動を選んだクリーシーの判断は正しかったと言えるのだけれど、物語序盤でクリーシーにそこまでの判断材料が与えられていたわけでもなく、「なぜクリーシーはさっさとポーを当局に引き渡さないんだ」とイライラしてしまった。
またPTSDを患うクリーシーのサポートとして、劇中では様々な協力者が現れるんだけど、彼ら・彼女らが、なぜそこまでしてクリーシーにかまうのか、またド素人がプロの諜報戦で機能できるのかといった点も違和感として残る。
例えば、クリーシー最大の協力者となるヴァレリア(アリス・ブラガ)という女性は、事件前夜にクリーシーがたまたま使ったタクシーの運転手だ。
そんな薄い接点の女性が、国家規模のテロに巻き込まれたクリーシーに協力するとかありえないし、またクリーシーサイドからしても、保護を申し出るブラジル政府や古巣CIAからの助け舟を拒んでまで彼女に掛ける意味が分からない。
ヴァレリアつながりで、ファベーラの気のいいあんちゃんや、おとなしめのボクなどもクリーシー陣営に参加するのだけれど、何度も言うが、そんな気軽に参加するような案件でもないし、クリーシーからしても、素人を気軽に巻き込んでいい案件でもないだろう。
最終的には、イワンという謎の富豪がクリーシーに全面協力をしてくれるんだけれど、こいつに至ってはどういう背景があって、どんな理由があってクリーシーに協力するのかという説明が一切割愛されており、最初から最後まで何者なのかさっぱりわからんかった(オルガルヒの道楽息子っぽいが)。
このイワンが金と伝手だけ提供するならともかく、最終的には自らも現場に出て汗をかき始める。
クリーシーとの昔のご縁という説明だけでは納得できないほどの献身ぶりである。
また陰謀の正体にも魅力を感じなかったし、結論から振り返ると、前半のクリーシーは濡れ衣を着せられていた側に暴力を振るっていたということになる。
騙された側だったとは言え、主人公が真犯人以外を懲らしめていたという展開は、アクションに求められる爽快感を奪う原因となっている。
爽快感で言えば、主人公が敵をなぎ倒すような爽快感も追及されておらず、やたら危機に陥る展開も好みではなかった。
そしてヒロインに教えた護身術が最後の危機で生かされるというありがちな伏線回収はもういいって。
『炎の男』に求められるのは、キレてキレて制御の効かなくなった殺人マシーンが薄汚い悪党どもを過剰な暴力で成敗する物語なのだ。制作陣にはそこを分かってほしかった。
ドラマは、次のミッションを匂わせて終了するが、シーズン1がこの出来だとシリーズ化は厳しいんじゃないかな。


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