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ダーマー_猟奇事件に短絡的な答えはない【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

(2022年 アメリカ)
実在の連続殺人犯をテーマにしたリミテッドシリーズだが、結論を一つに絞り込むのではなく、可能な限り多面的な分析を試みている点が好印象だった。連続ドラマの特性を生かし切った良作。

感想

ネトフリ久々の収穫

1970年代から90年代にかけて17人を殺害した実在のシリアルキラーのジェフリー・ダーマーの生涯を描くドラマ。

なんだけど、猟奇性にクローズアップしたホラーテイストでもなければ、シリアルキラーをアイコン化するわけでも、人道面で厳しく糾弾するわけでもない。

最終話、摘出されたダーマーの脳を大学で研究するのか、それとも故人の遺言通り火葬するのかの裁判が行われるのだが、その判決で裁判官が述べた一言が、本作のテーマを如実に示している。

故人のような人物を考える時、明確な結論を出したいという誘惑にかられます。しかしこれは非常に危険なことです。なぜなら、簡単な答えなどないからです。

この言葉どおり、ジェフリー・ダーマーの生い立ちに始まり、加害者、被害者双方の視点、時には隣人のドラマも織り込みつつ、その時何が起こったのかを多面的に検証しようとする。

全10話をかけて膨大な考察がなされるのであるが、その情報量の多さや、個別論点の掘り下げ方には舌を巻いた。

通常、私はネットフリックスのドラマを一気見するのだが、本作に関しては情報量があまりに多すぎて、1日1話ずつ見ていくしかなかった。

視点も年代もあっちこっちへ移動するのでなかなか頭を使わされるし、個々の考察も深いので、一話一話しっかりと立ち止まる必要がある。

こんなドラマはかつてなかった。

しばし低迷の続いてきたネットフリックスだが、本作は久々のヒットと言えるのではなかろうか。

なんだかんだ家庭の影響は大きい

と、結論は一つに絞り込めないと言った後に言うのもなんだが、全話鑑賞後には、何だかんだで家庭の影響は大きいという感想を持った。

ジェフリーが育ったダーマー家は崩壊していた。

母ジョイス(ペネローペ・アン・ミラー)は情緒不安定なうえ、UFOを本心から信じるなど判断力もアレな人で、同じ家庭にいるとさぞかし大変だろうという印象を持った。ジェフリーは実の母親にすら心を開くことができなかった。

一方父ライオネル(リチャード・ジェンキンス)は家庭に対して無関心。正念場と思われる場面では責任回避的な言動が目立つので、やはり息子を受け止めきれていない。

この二人の最大の失敗は、1978年の夏に長期間にわたって家を空けてしまったことだ。

たった一人残されたジェフリーはアルコールを覚え、ここで初めての殺人も犯してしまう。

もしもこの夏に大人の目が利いていれば、ジェフリーはある程度社会の枠内に踏みとどまり、殺人衝動を解放することなく人生を終えたかもしれない。

そしてまた、そのような生育環境の影響でジェフリーが愛情表現を苦手としたことも、問題を大きくしたように思う。

第6話では聾啞の犠牲者トニーにスポットが当てられる。

最初は獲物のつもりでトニーに接近したジェフリーだが、そのうち二人は相思相愛の関係となる。

ネクロフィリア的な性的嗜好を持つジェフリーが、生身の人間を愛したのは初めてのことだったようで、この時期のジェフリーのメンタルや生活態度は非常に安定するのだが、問題はその維持だった。

トニーが自分から離れていくのではないかという疑心暗鬼にかられたジェフリーは、結局トニーを殺してしまう。

これはとりわけ辛いエピソードだったのだが、殺されたトニーのみならず、人を愛する方法を知らないジェフリーがどうしていいのか分からなくなって愛する人に手をかけてしまう様には、物の憐れを感じた。

そしてジェフリーがなぜそうなったのかというと、愛がない家庭に育ち、他人とのリレーション構築を不得意にしてしまったことが大きく影響しているだろう。

ジェフリーの内面には殺人者の芽があった。恐らくそれは先天的なものだったのだが、その芽を育てたのは後天的な周辺環境だった。

ジェフリーという人格を正しく導けなかった家庭環境の問題には、対岸の火事とは言い切れない怖さがある。

果たして自分は子供を正しく育てられているかと自民自答をさせられるような迫真性があった。

言わんドラゴ

脱サラして公認会計士資格をとったものの、組織人であるうちはサラリーマンと大差なく、かといって独立開業する踏ん切りもつかないハンパ者です。 映画館には話題作を見に足を運ぶ程度で、その他の映画はもっぱら動画配信サービスが主たる鑑賞方法となっています。利用しているのはNetflixとAmazonプライムビデオですが、ほぼNetflixに寄っていますね。

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言わんドラゴ