【良作】身代金(1996年)_荒唐無稽さと緻密さの両立(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1996年 アメリカ)
息子に身代金をかけられた父親が「絶対に払わん!身代金はお前らの首の懸賞金に替える!」と言って誘拐犯を脅すというかなり荒唐無稽な物語ではあるのですが、ロン・ハワードの地道な演出によって見ている間は違和感を感じませんでした。

豪華メンバー集結

『リーサル・ウェポン3』で息の合ったところを見せたメル・ギブソンとレネ・ルッソの再共演作であり、監督は前年の『アポロ13』でメル・ギブソン監督作品『ブレイブ・ハート』とアカデミー作品賞を争ったロン・ハワード。

また、ロン・ハワードとレネ・ルッソは高校時代のクラスメイトでもあるようです。さらに当時のハリウッドトップにいたスコット・ルーディンとブライアン・グレイザーが共同でプロデュースに当たっており、まさにハリウッド頂点の人物が結集した超豪華な映画となっています。

加えて、後に有名になるリーヴ・シュレイバーとドニー・ウォルバーグが犯人グループの兄弟役で出演しており、当時のトップ人材と若手の有望株の組み合わせ方も実にスマートでした。

意外性ある展開に驚かされるサスペンス映画

1956年のオリジナルは未見なので本作のオリジナリティがどの程度なのかは分かりませんが、身代金を懸賞金に変えて犯人を脅迫するという斬新な展開には心底驚きました。もちろん現実的にはありえない話なのですが、監督や脚本家の手腕の成果か本作はウソのつき方が非常にうまく、この父親の行動はそれなりにスジが通っています。

第一回の身代金受け渡しの際に父親は犯人とじっくり会話する機会を得るのですが、その際にこの父親は犯人の人格を理解しました。大胆な犯行を企てる度胸とFBIをも煙に巻く知能があり、同時に金持ちを逆恨みするパラノイア的な一面もある。百戦錬磨の実業家であり、ライバルとのやりとりにも長けた父親は、犯人の人格を知ることで相手がとるであろう次の一手を本能的に感じ取ります。「頭がキレ、同時に異常な倫理観を持つこの男ならば、目的を達成した途端に生きた証拠である息子を処分するだろう」。犯人の定めたレールに乗っかっていれば最終的に殺される。犯人を撹乱し、そのレールには決して乗らないことこそが、息子を助け出す唯一の道だと悟ったのです。

サスペンスを援護射撃する秀逸なドラマ

また、登場人物達の葛藤をリアルに描いてみせたドラマによる援護射撃が、本作を単なるユニークなサスペンス映画に留めず、説得力のある物語にしています。本来は同じ立ち位置にいて同じ結果を目指しているはずなのに、選択する手法の違いから被害者・加害者の両陣営において不協和音が発生する過程が簡潔ながら的確に描かれており、両陣営のドラマにも見応えがありました。

ロン・ハワードによる安定した演出

息子の命を挟んでの父親と誘拐犯との駆け引きがはじまると物語は急激に熱くなりますが、そのエスカレートぶりが「これぞ娯楽!」といった感じで本当に心地よい。ロン・ハワードの確実な演出力を味わうことができます。メルギブとゲイリー・シニーズは適材適所のキャスティングだったし、無能なFBI捜査官というある意味での難役を演じたデルロイ・リンドーの演技力も評価できます。

ディレクターズ・カット版について

懐かしのレーザーディスクの時代には18分長いディレクターズ・カット版がリリースされており、私はそのバージョンのディスクも一時期所有していました。どのシーンが削除されたのかは現行のBlu-rayの未公開場面集でも見ることができるのですが、そのバージョンは劇場公開版に比べて劇的な変化はなく、情報量も印象もほとんど変えることなく尺を18分も縮めてみせた劇場版がいかに出来の良いバージョンであったかを示す材料に留まっていました。

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コメント

  1. 半生 より:

    プロレスのような頬パンチばかりのハリウッド映画において、
    ゲイリー・シニーズが喉へ一撃決めるという珍しいアクションシーンだけ覚えており、
    あれがドニー・ウォールバーグだったんだとwikiを見て感慨深い気分になりました

    • b-movie より:

      もう一人の犯人は若いころのリーヴ・シュレイバーだったし、今から振り返るとポンコツ誘拐団も豪華だったんですよね