レベルムーン ディレクターズ・カット版_よりハードに、より残酷に【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2024年 アメリカ)
ザック・スナイダー恒例のディレクターズ・カット版。ストーリー自体に変更はないものの、R指定上等の残酷描写により作品の色合いは大きく変わっているし、何人かのキャラクターが深掘りされたことで、通常版よりも格段に面白くなっている。前後編併せて6時間越えの上映時間ゆえに、容易には手を付けられないのが難点か。

感想

DCEUは打ち切り、『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年)の続編は製作中止と、ここんところ踏んだり蹴ったりのザック・スナイダー監督が、渾身の思いで放った『レベルムーン』のディレクターズ・カット版(以下、DC版)。

ザック・スナイダー監督作品においてはDC版を後だしすることが恒例行事になってきている。

「最初っから良いバージョンを出せよ」と思わなくもないが、本作については前後編で合計1億6600万ドルもの予算がかけられた超大型プロジェクトであり、視聴者数が制限されるR指定版を唯一のバージョンにするという道はありえなかったことが、スナイダー自身の口から語られている。

撮影時点よりDC版の派生を想定して製作が進められており、スタジオvsクリエイターの攻防戦の末に生まれた副産物ではなく、同一素材から派生した連産品のようなものだと理解するのが良さそうだ。

上映時間はPART1で+72分、PART2で+51分と大幅に増加し、タイトルも改められた。スナイダーはこのDC版を完全に”別物”として捉えているということである。

通常版DC版
Part1炎の子”A Child of Fire”
133分
血の聖杯”Chalice of Blood”
205分
Part2傷跡を刻む者”The Scargiver”
122分
赦しの呪い”Curse of Forgiveness”
173分

果たしてその出来映えやいかにと言うと、スナイダーが考えているほど劇的な変化は感じられなかった。ストーリーは通常版通りなのだ。なので人によっては「2時間で説明できた話を3時間に引き延ばしただけ」と感じるかもしれない。

増加した上映時間の大半は、キャラクターの深掘りに費やされている。通常版にもあった場面がやや引き延ばされているなど、全体としてのディティールアップに努めているのだ。

そんな中でも劇的に変わったキャラが3名いる。帝国を裏切って反乱軍側についたアリス二等兵、帝国の指揮官アティカス・ノーブル提督(エド・スクライン)、かつて王の警護をしていたロボット ジミー(アンソニー・ホプキンス)である。彼らに関する描写が大幅に増えたことで、キャラクターへの認識は一変した。

まず冒頭部分。通常版では巨大戦艦を背景にナレーションベースで世界観の説明がなされるというスペースオペラとしては定番の入りだったところ、DC版においてはノーブル提督率いる帝国軍が、征服した星へと進駐する場面から始まる。

捕らえられた王族は自分たちの運命を観念しているが、ノーブルは彼らに対して死よりも過酷な仕打ちを与える。

王子の手で父王を処刑させるのだ。家族の助命と引き換えだったため王子は泣く泣く父王を手にかけるが、肝心の助命の約束も空手形であり、王子を除く家族は帝国軍により処刑される。

この王子こそ、後のアリス二等兵である。

通常版では組織に染まりきっていない新兵程度の扱いだったが、彼が帝国軍やノーブル提督に対して抱く憎悪や、彼自身が並みの出ではないということが本ver.でようやく明らかになった。

加えてアリス二等兵と村人との交流も丹念に描かれ、このサーガの第二の主人公ともいえる立ち位置にまで昇格した。

また冒頭の変更によってノーブル提督に対する認識も一変した。

通常版では上司からの命令で動き、組織内での評価を気にする小役人程度の印象だったが、本ver.では異様な悪意をまき散らす巨悪となっているのだ。

冒頭場面の背景では、全裸にされた尼さんたちが焼き印を押されている。このような所業をヘラヘラと笑いながら遂行できる異常者として描かれたことで、「何をしでかすか分からない人間」という予断が観客の脳内で走るようになり、結果、ノーブルが登場するすべての場面に緊張感が走るようになった。

そしてロボット ジミーである。

通常版では遠の昔に盛りを過ぎたポンコツロボ程度の扱いだったが、本来の彼は高貴な戦士「メカニカル・ナイト」であり、王家の滅亡によって生きる意欲もプライドも失ったという背景が鮮明となった。

その結果、ジミーが再起を果たす物語としてこのサーガが機能するようになったので、これまた当ver.の優位性が発揮されたと言える。

その他、全体的に描写はドぎつくなっている。

執拗なまでに人体破壊が繰り返され、もはやホラー映画の領域へと突入している。

性的描写と相まって、生きることへの執念を燃やす人々のドラマとしての力強さも付加された。

私はこのver.を全力で支持したいのだが、それにしても上映時間は長すぎるよね。合計6時間越えは、さすがに繰り返し見られるボリュームではないと思う。

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コメント

  1. […] 2024年8月に見たザック・スナイダー監督の『レベルムーン/ディレクターズカット』の出来があまりにすんばらしすぎて、その余韻の中でついに本作を見てしまったのだが、こちらは相変わらずのネトフリクォリティで全然ダメだった。 […]