【凡作】トゥルー・クライム_万事うまくいきすぎで起伏に欠ける(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1999年 アメリカ)
死刑執行当日に死刑囚の冤罪を証明するために奔走する記者の物語なのですが、事前に設けられたハードルの高さに対して物語は意外とスムーズに進捗していき、サスペンス映画としての盛り上がりどころを逃しているように感じました。

あらすじ

新聞記者のエベレット(クリント・イーストウッド)は、かつてNYの花形記者として活躍していたが、現在は西海岸の地方新聞社で閑職に甘んじている。

ある日、同僚の若手記者が交通事故死したことから、彼女が行く予定だった死刑囚ビーチャム(イザイア・ワシントン)の死刑執行日における最後の取材を引き継ぐこととなった。取材資料に目を通したところ不自然さを感じたエベレットは、有罪の決め手となる証言をした目撃者と面会し、ビーチャムの冤罪を確信。残されたわずかな時間でエベレットはビーチャムの死刑を止めようと奔走する。

スタッフ・キャスト

監督・主演はクリント・イーストウッド

1930年生まれ。学生時代には運動能力と音楽の才能を評価されていた一方で、学業の方は全然ダメだったらしく、高校を卒業できたのかどうかは定かではありません(伝記作家が調査したものの、守秘義務の壁に阻まれて解明できなかったようです)。

当時の友人たちによると、彼は学校にもまともに来ておらず、恐らく卒業はしていないとのことです。

1949年から工場勤めを開始し、1951年より2年間の兵役を務めました。『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』(1988年)、『グラン・トリノ』(2008年)、『運び屋』(2018年)などで朝鮮戦争に従軍した老人役を演じるのは彼自身のこの履歴によるものですが、彼の勤務地はカリフォルニア州のフォート・オード基地であり、戦場に出たことはありません。

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従軍中に映画関係者とのコネができ、特にアーサー・ルビンという映画監督が長身イケメンのイーストウッドを買っていたことから、1954年にユニバーサルとの契約を結びました。ただしオーディションを受けても落ちまくり、来る仕事はアーサー・ルビン関係のものばかりだったことから、1955年にはユニバーサルを解雇されました。

1958年からスタートしたテレビドラマ『ローハイド』の主演で人気を博し、1964年には当時ほぼ無名だったイタリアの映画監督セルジオ・レオーネからの依頼を受け出演した『荒野の用心棒』が大ヒット。続く『夕陽のガンマン』(1965年)、『続・夕陽のガンマン』(1966年)も世界的にヒットし、イーストウッドは俳優としての地位と豊富な資金を得ました。そこで設立したのが自身の製作会社・マルパソ・プロダクションであり、2020年現在に至るまでイーストウッドはこのプロダクションを活動拠点としています。

ストーカーという言葉もなかった時代に作られた先進的なストーカー映画『恐怖のメロディ』(1971年)より監督業にも進出。ただし大作や賞レースに絡むような目立った作品を手掛けることはなく、どちらかと言えばB級と言えるレベルの作品群でマイペースに実績を積み上げていきました。

流れが変わったのが『許されざる者』(1992年)であり、同作でアカデミー作品賞と監督賞を受賞し、以降は文芸性の高い映画も手掛けるようになりました。『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)で再びアカデミー作品賞と監督賞を受賞。同作では74歳という史上最年長受賞の記録も出しました。

その他、『ミスティック・リバー』(2003年)、『硫黄島からの手紙』(2006年)、『アメリカン・スナイパー』(2014年)の3作品で作品賞・監督賞にノミネートされています。

脚色は『コマンドー』のラリー・グロス

ウォルター・ヒル監督作品の常連であり、『48時間』(1982年)、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)、『48時間PART2/帰って来たふたり』(1990年)、『ジェロニモ』(1993年)などの脚本に参加しています。

アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『コマンドー』(1985年)の脚色をした脚本家の一人であり、元は老兵が死力を尽くす硬派なアクションだった『コマンドー』の初期脚本を、荒唐無稽なアクション大作に書き換えるという良い仕事をしました。

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感想

全体としては満足感よりも不満の方が大きかった映画なのですが、午後のロードショーで見たので本来は127分ある作品が正味92分にまでカットされており、もしかしたら本来は作品中にあった描写を私が見られなかっただけなのかもしれません。

あくまで午後ローで見たという前提でこのレビューを読んでください。

イーストウッドの年齢がキャラクターと合っていない

本作の主人公は記者のエベレット。エベレットは4歳の女の子の父親であるにも関わらず、若い女性記者や同僚の妻にも躊躇なく手を出す遊び人でもあります。

これを演じるのは私生活でもプレイボーイのクリント・イーストウッドなのですが、公開時69歳のイーストウッドでは高齢すぎました。4歳の娘なんて孫にしか見えないし。

出てくる娘役はイーストウッドの実娘なので設定通りと言えなくもないのですが、60過ぎても子作りを続けているイーストウッド個人が極めて特殊なケースなのであって、これを敷衍してキャラクターの設定として受け入れろと言うには無理があります。

職場である出版社ではジェームズ・ウッズ(当時52歳)やデニス・リアリー(当時42歳)が上司役でイーストウッドにあーだこーだ言うのですが、これもまたイーストウッドの方が格上にしか見えないので違和感しかありませんでした。

当初、ワーナーは本作をジョージ・クルーニー主演で考えていたようなのですが、断られてイーストウッド自身が演じることになったようです。当時のジョージ・クルーニーであればしっくりきたんですけどね。

サスペンス映画としての面白みに欠ける

主人公のキャラ設定に加えて、物語の基本設定にも無理を感じました。

死刑執行当日に冤罪に気付いたエベレットが、死刑囚釈放のために奔走する一日を描いた物語。もともとこの取材は別の若い記者が進めていたものだったのですが、前日に飲酒運転で事故死したためにエベレットが引き継ぐことになったというわけです。

死刑囚への最後の取材という重要な仕事が翌日に控えていたにも関わらず、バーで深酒をする若い記者って一体どうなんだろうかと思うし、エベレットが即座に冤罪に気付いた案件に対して、若い記者は何度も死刑囚との面会や周辺への取材をしていたにも関わらず有罪判決を疑っていなかったことも不自然でした。

裏取りに奔走するエベレットは事件関係者などに次々と面会を取り付けていって証拠を固めていくのですが、こちらはあまりにとんとん拍子に行き過ぎて面白みを損なっているような気がしました。

エベレットには冤罪と確信した強姦魔の釈放運動を大々的に行ったが見込み違いだったという過去があり、その経歴が本件を難しくするのかなと思って見ていたのですが、意外とこれが障害にもならないし。

同僚の妻との不倫や家族との関係悪化で人物評がガタ落ちという背景についても同じくで、エベレットに対して周囲が抱く不信感が死刑囚釈放という本筋とうまく絡んでおらず、事態を複雑化させるために置かれたと思われる設定が大して意味を為していません。

その結果、エベレットの捜査が思いのほか順調に進んでいき、大した障害もなく目的を達成するという起伏に欠けるサスペンス映画となっています。 その一方で、終盤では知事に対して有力な真犯人情報を伝えるために複数台のパトカーを巻き込んだカーチェイスを行うのですが、あの場面は電話をすれば良かったんじゃないのと思います。

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