ワールド・ウォーZ_竜頭蛇尾とはこのこと【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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終末
終末

(2013年 アメリカ)
モブパニックと大都市破壊の描写は凄まじく、とても良いものが見れる映画です。さすがは2億ドルもかけただけのことはあります。ただし物語に力強さがないし、主人公の行動にも不合理な部分があって、映画として面白かったかと言われると微妙です。

作品解説

原作者はメル・ブルックスの息子

本作は小説『ワールド・ウォーZ』(2006年)を原作としているのですが、その作者はメル・ブルックスとアン・バックロフトの息子のマックス・ブルックスでした。

マックス・ブルックスによる原作は出版されるや話題となり、レオナルド・ディカプリオの製作会社アッピアン・ウェイとブラッド・ピットの製作会社プランBが映画化権獲得に乗り出し、2007年にプランBがこれを獲得しました。

脚本の変遷

原作はゾンビ戦争後の世界を舞台に、後世にて同じ失敗を繰り返さぬよう世界各地の様子を調査するという建付けとなっており、多様な登場人物達の種々雑多なエピソードにより構成されていました。

この脚色のために雇われたのはテレビシリーズ『バビロン5』のマイケル・J・ストラジンスキーであり、彼は原作にあった社会考察的な部分を生かしたいと考えていました。

そして監督には『007/慰めの報酬』(2008年)のマーク・フォスターがブラピ直々の指名により選ばれたのですが、娯楽大作を志向していたフォスターはストラジンスキーと対立。結果、ストラジンスキーは降板しました。

その後雇われたのは『大いなる陰謀』(2007年)や『消されたヘッドライン』(2009年)など社会派エンターテイメントを得意とするマシュー・マイケル・カーナハンで、彼はフォスターの意向を全面的にくみ取る形で作品を冒険アクションに変更し、視点も映画オリジナルのキャラクター ジェリー・レーンに絞り込みました。

これにより原作とはほぼ無関係な話になったのですが、カーナハンの脚本の出来に感心したブラピが主演を承諾し、大スターの看板を得たことでプロジェクトは大きく前進しました。

トラブル続きの現場

2011年に撮影が開始され、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)、『宇宙戦争』(2005年)、『アバター』(2009年)などのベテランプロデューサー コリン・ウィルソンが現場の指揮を執っていました。

そんな中、マルタ島での大規模な撮影を終えて引き上げる際に、数百万ドル分の未精算の発注書の束がドサっと出てくるという、経理をやったことのある人間なら背筋の凍り付くようなトラブルが発生。

現場管理の杜撰さの責任を問われたウィルソンはプロデューサーを降板し、現場を仕切る人間が一時的にいなくなりました。

後任として現場に送り込まれたのはイアン・ブライスで、『プライベート・ライアン』(1998年)や『トランスフォーマー』(2007年)でパラマウントからの信頼の厚いプロデューサーでした。

ブライス体制で製作が再開されたのですが、今度はVFXのトップが監督により解任されるというトラブルが発生。

『グラディエーター』(2000年)や『アイアンマン』(2008年)のジョン・ネルソンが当初のVFX監督だったのですが、個人的な相性を理由にフォスターはネルソンを解任したのでした。

さらに追い打ちをかけるように、ロケ地のブダペストで使うための武器を空港税関で押収されるというトラブルも発生。トラブルそのものの悪影響もさることながら、全世界で報道されたことから作品自体にネガティブな印象が付いてしまいました。

2000万ドルかけて再撮影

そんなこんながありつつも2011年11月に撮影終了。2012年2月にディレクターズ・カットの編集を終えたフォスターがパラマウントで上映会を行ったのですが、そこでの評価は芳しくありませんでした。

第二班監督のサイモン・クレーンによると、このバージョンの終盤はキャラクター主導ではなくなっており、ラストの大アクションが完全に浮いていたとのことです。

その終盤がどんな内容だったのかと言うと、主人公を乗せた旅客機はモスクワに到着するのですが、そこで男達は強制的に兵士として徴用され、ゾンビ軍団との戦闘を行うというものでした。戦闘場面にこそ興味を惹かれるものの、確かに訳の分からん終わり方です。

第三幕を直すことは必要である。しかしどう直せば面白くなるのか皆目見当もつかない。

そんな中で呼ばれたのがデイモン・リンデロフでした。彼はテレビシリーズ『LOST』のショーランナーであり、パラマウントで『スタートレック』のリブートを成功させた人物でした。

って、先ほどのイアン・ブライスと言い、プロジェクトが行き詰まる度にパラマウントは最高の人材を提供しており、本作にかける期待がいかに大きかったかが分かりますね。

そして当時のリンデロフは『プロメテウス』(2012年)や『スタートレック/イントゥ・ダークネス』(2013年)も抱えて超多忙だったことから、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)のドリュー・ゴダードも雇われました。

リンデロフとゴダードは主人公がイスラエルを飛び立って以降の物語をすべて書き直し、彼が当初のミッションをやり遂げる内容にしました。

実に30-40分もの新規フッテージを追加する大規模な変更となり、見積もられたコストは2000万ドル。リンデロフからの説明を受けたパラマウント幹部たちは凍り付いたのですが、もうやるしかない。2012年10月に7週間もかけての再撮影が行われました。

ブラピ史上最大ヒット作

2007年の映画化権取得から6年間もの苦労を経て、2013年6月21日に全米公開。

『モンスターズ・ユニバース』(2013年)に敗れて初登場1位は獲れなかったものの、興行成績は6641万ドルと上々の滑り出し。その後も好調を維持して全米トータルグロスは2億235万ドルに達しました。

国際マーケットでも同じく好調であり、全世界トータルグロスは5億4000万ドル。これは『トロイ』(2004年)を越えてブラピ史上最大ヒット作となりました。

感想

ゾンビ雪崩に大興奮

恐らくは史上最高額の製作費が投入されたゾンビ大作。

その成果は見せ場に現れていて、モブパニックと都市破壊が組み合わされた見せ場の連続には大興奮でした。

白眉はエルサレムの場面で、人口密集地にゾンビが入り込んだ瞬間に猛烈な勢いで感染が拡大していく様を、圧巻のビジュアルで見せます。

狭い路地をゾンビがドドドっと移動する異様な光景は、もはやゾンビ雪崩。そして異常な密度のゾンビに対して銃弾の雨を降らせる軍隊という構図に燃えない人はいないのではないでしょうか。

本作の見せ場は素晴らしいレベルに達しており、私は大満足できました。見せ場だけは良かったんですよ…。

主人公の調査活動が無駄でしかない

本作の主人公は元国連調査員のジェリー(ブラッド・ピット)。国連調査員が一体何をする人達なのかはよく存じ上げないのですが、全世界の紛争地域を経験しているのでサバイバル能力が高く、観察眼も鋭い人達だというフワっとした説明が劇中でなされます。

ゾンビ騒動解決のためのワクチン作りにあたっては感染源を調査する必要があるとのことで、ジェリーはウィルス学者の補佐としてその調査に同行することとなります。

なお、ジェリーは国連を退職済みなので気乗りはしないのですが、「ここは働かざる者食うべからずの場であり、仕事をする気がないのなら君ら一家には安全な場所から出てってもらうよ」と言われ、妻子のためにジェリーはこの役を引き受けます。

任務に当たってのジェリーの動機を簡潔に説明したこの導入部は好きです。

そう考えると、日本の配給会社が作った宣伝文句「その時 守るのは家族か、世界か?」は的外れにも程があるんですが。家族の安全を確保するため世界を救う公務に出ていくお父さんの話なので、ふたつの目的にトレードオフの関係は発生していませんからね。

まぁいいか。

アメリカが把握している情報で最も早い感染者報告が上がっていた韓国へと飛ぶ一行ですが、到着するや学者が滑って転んで持ってた銃で自分の頭を吹っ飛ばしてしまい、早々に計画は崩壊します。

常識的に考えれば調査はここで終わっているのですが、「じゃあ俺がやる」と言って調査を引き継ぐジェリー。彼にワクチン開発ができるのでしょうか?

学者が死亡してからのジェリーの活動がすべて馬鹿馬鹿しく感じられて、話に集中できませんでした。

電話を使おうよ

しかも韓国ではほとんど何も分からず、気の狂ったCIA工作員(デビッド・モース)から聞いた「いち早く情報を掴んでいたイスラエルはゾンビ対策に成功しているらしい」という伝聞情報を元に、今度はエルサレムを目指します。

伝聞…

伝聞に頼るのであればいきなり現地調査などせず、各地に電話して情報収集し、そこから候補地を絞り込んで動けばいいんじゃないかと思うわけです。ジェリーが持っている衛星電話は専ら家族との通話目的でのみ使用されますが、こういうことにこそ使うべきでしょう。

その場でできる確認をせず現地へ行きたがるジェリーは、すぐに出張したがる営業マンみたいでした。

で、エルサレムに行っても「我々はインドの通信を傍受してゾンビ騒動を知った」という、これまた電話で聞けば済むような情報しか得られず、またしても感染源の特定には至りませんでした。結果から振り返ると無駄足でしかなかったわけです。

その後、エルサレムを命からがら脱出したジェリーは「ゾンビ達は疾患持ちを避けて通っていた」ということに気付き、それが解決策に繋がるのではと考えてウェールズにあるWHOの研究所を目指します。

これもまたジェリーがわざわざ行って説明するまでもなく、電話で教えてあげれば済む話だと思うのですが。

地味にも程があるクライマックス

そんなこんなでWHOの研究所にやってきたジェリーですが、なんとその研究所はワクチンを開発済みでした。「ワクチンを作るためには感染源の調査がー」という当初の話は一体どこへ行ってしまったんでしょうか。

ただし研究所はワクチンの使用方法を間違えており、ゾンビに打っても効果はなかったので開発は失敗だと判断していたのですが、ジェリーは人間にこそ打つべきだと主張します。

ゾンビは疾患持ちを避けて通るというジェリーの知見がようやく活きた場面なのですが、問題は、ゾンビに占拠されている別棟にそのワクチンが貯蔵されているということでした。

どれだけうっかりさんばかりなんだよという感じなのですが、ともかくワクチンを取りに行くという実に地味な見せ場がクライマックスとなります。

それまでありえない人数のゾンビが走ってくるという強烈な見せ場を腹いっぱいになるくらい見せられてきたのに、いきなり昔ながらのゾンビとのかくれんぼに切り替わるという落差。そして、どれが目当てのワクチンなのかを事前に聞いていなかったので迷うという地味にも程がある危機。

このクライマックスの盛り上がらなさ加減には壮絶なものがありました。竜頭蛇尾とはまさにこれですね。

「戦いは始まったばかりだ」という連載打ち切りになった少年漫画の最終回みたいなラストのナレーションに哀愁が漂っています。

余談

続編の企画と頓挫

批評面での微妙な反応はともかくヒットはしたので、早々に続編企画が立ち上がりました。原作には映画未使用のエピソードがまだまだ残ってるし。

2013年12月にはスペイン人のフアン・アントニオ・バヨナが監督就任と発表。『インポッシブル』(2013年)でスペクタクルとドラマの折衷に成功した実績を持ち、主人公ジェリーの家族愛を前面に出したい本作続編の企画にはうってつけの人材でした。

そして2015年には『イースタン・プロミス』(2007年)のスティーヴン・ナイトが脚本家として雇われて、2017年6月の公開に向けて動き出しました。

そんな最中の2016年4月、監督のフアン・アントニオ・バヨナが『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018年)に引き抜かれるという事態が発生。

監督が引き抜かれたのでこちらの企画がダメになったのか、こちらの企画がダメになりかけていたので監督が『ジュラシック・ワールド』に移ったのかは定かではありませんが、ともかくこの引き抜き劇の直後に『ワールド・ウォーZ』続編企画は延期となりました。

その後、2018年10月にプランBはデヴィッド・フィンチャーが監督に就任と発表。ここに来てブラピは最高のカードを切ってきたわけで、「デヴィッド・フィンチャーのゾンビ映画なんて見たいに決まっとるやんけ!!」と世界中の映画ファンは沸きました。

ただし第一作での予算超過がトラウマになっていたのかパラマウントとフィンチャーとの間で金額面での合意形成ができなかったようで、パラマウントは『ミッション:インポッシブル』シリーズと『トランスフォーマー』シリーズに経営リソースを集中することに決定。

ゾンビ映画は中国での配給網に乗らないという懸念も、この意思決定には影響したようです。現在のハリウッドは中国マーケット向けの映画を製作していますからね。

2019年2月に企画中止が発表されました。

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コメント

  1. ブラッド より:

    最後にブラピが打ったのはワクチンじゃなくて何かの病原菌ですよ
    開発したワクチンは失敗したので、ブラピ案の人間側に病原菌をうってカモフラージュするワクチンを作る為、病原菌サンプルを取りにB棟に行きました