(2016年 ドイツ)
90年代にハリウッドを席捲した監督ウォルフガング・ペーターゼンの実に10年ぶりの監督作であり、母国ドイツでは30年ぶりの仕事となるのですが、これが驚くほど面白くなく、10年も仕事をしていないとどんなにうまかった人でも腕前が落ちるということを痛感させられる内容でした。仮に時間があっても見ない方がいいと思います。
銀行に勤める投資顧問のトビアスは営業成績の不振状態にあった。その上司シューマッハはトビアスを解雇する口実を作るために、株価操作を行ってトビアスが顧客に売った株式の価値を著しく低下させた。解雇されたトビアスと、以前にトビアスからその株式を買っていたために資産が大幅に目減りした3人(ペーター、クリス、マックス)は、銀行強盗に入ることを計画する。
1941年ドイツ出身。70年代より西ドイツのテレビ映画を手掛けるようになり、テレビ時代の上司からの誘いで監督した『U・ボート』(1981年)が非英語圏作品ながら監督賞を含むアカデミー賞6部門でノミネートされる高評価を獲得。
続いて製作費2700万ドルの大作『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984年)を監督。これは巨大マーケットを持つハリウッドと、国策として映画を製作していたソ連以外の国の映画としては史上最大規模という勝負作だったのですが、全世界で1億ドルを稼ぐ大ヒットとなり、ペーターゼンはこの博打に勝ったのでした。
前任者の解雇により監督に就任したSFドラマ『第5惑星』(1984年)でハリウッド進出。前任者のフィルムを一切引き継がず、セットも新造するというこだわりで製作したのですが、これが製作費4000万ドルに対して1200万ドルしか稼げなかったことから、ペーターゼンは芸術家としてのこだわりを捨てるようになりました。
以降は『ザ・シークレット・サービス』(1993年)、『アウトブレイク』(1995年)、『エアフォース・ワン』(1997年)、『パーフェクト・ストーム』(2000年)、『トロイ』(2004年)と、この監督ならではという意匠の特にない娯楽作を連発するようになり、そのクセのない作風からハリウッドを代表する職人監督となりました。
1億6000万ドルをかけた『ポセイドン』(2006年)がアメリカで6000万ドルしか稼げないという大敗北となり、以降は監督業をしていなかったのですが、本作が10年ぶりの監督作となります。加えて、母国ドイツで映画を撮るのは30年ぶりとなります。
U・ボート(劇場公開版)_史上最高の潜水艦映画【8点/10点満点中】
第5惑星【良作】社会派SFの佳作
アウトブレイク【良作】感染パニックものでは一番の出来
トロイ(2004年)_中間管理職の悲劇が裏テーマ【7点/10点満点中】
ポセイドン【良作】前作の欠点を修正した悪くないリメイク
ボブ・ディランの名曲「天国への扉」(1973年)から着想を得たドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』(1997年)は、新人監督の作品ながらドイツ国内で350万人を動員する大ヒットとなりました。1999年にようやく公開された日本においても熱狂的な支持を獲得し、長瀬智也主演の『ヘブンズ・ドア』(2004年)としてリメイクもされました。
『ノッキン・オン~』は余命僅かと宣告された若者二人が病院の重症者専用病棟で出会い、海を見るために車を盗んで旅に出るという物語でしたが、これを演じたのは本作でボクサーのクリス役を演じたティル・シュヴァイガーと、俳優ペーター役を演じたヤン・ヨーゼフ・リーファースでした。
本作は、若い頃に『ノッキン・オン~』の主演で人気を博した2人が中年になった姿を拝める作品ということで、『ノッキン・オン~』のファンの方々にとっても必見と言えるのではないでしょうか。
まず本作のDVDジャケットをご覧いただきたいのですが、咥えタバコで銃を構えたティル・シュヴァイガーがいて、その銃弾を受けたと思われるヘリが大爆発。下段では青いドレスのセクシーな女性が銃を構え、今にもマシンガンを撃とうとしている男達の背後で車が横転するほどの激しい爆発。
…これらのシーンは一切ありません笑
本作はヌルいクライムコメディであり、銃撃戦もカーアクションもありません。ヘリなんて一瞬も登場しません。しかもこれが悪質なのは、ウォルフガング・ペーターゼンとティル・シュヴァイガーというハリウッド大作で活躍していた2名が本当に関わっている映画なので、彼らのネームバリューがあれば、これくらい景気の良いアクションがあるんじゃないかと映画に詳しい人ほど信じてしまうということです。
通常、B級映画のパッケージ詐欺に引っかかるのは監督や俳優名に詳しくない人なんですが、本作では逆転現象が起こっています。
スティーヴン・スピルバーグ監督の『1941』(1979年)や、ジョン・マクティアナン監督の『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)など、それまで大作ばかりを手掛けてきた監督がユーモアを必要とされる映画を撮るとたいてい苦戦するのですが、本作もそれらと同じ轍を踏んでいます。
ラスト・アクション・ヒーロー【凡作】金と人材が裏目に出ている
クセのある登場人物が誰も傷つけない強盗計画を立てる本作はさながら独版ガイ・リッチーなのですが、硬派な大作一筋でユーモラスな映画など撮ったことのないウォルフガング・ペーターゼンがまったく馴染んでいませんでした。
基本的には下ネタばかりでユーモアにバリエーションがないし、楽しい雰囲気も作れていないので、物凄くヘタな人の冗談を聞かされているような気になりました。
なぜこんな題材の監督にウォルフガング・ペーターゼンが選ばれたのかは謎です。
ならばクライムサスペンスとして優れているのかというと、こちらでも微妙。
それまで面識がなく、犯罪に関わったこともなかった中年4人組が銀行強盗を企てるという筋書きなのだから、4人の職業上の長所や特技が活かされた話になるのかなと思いきや、役割分担やチームワークといったものはほとんど追及されていません。
素人のおじさん達が部活感覚でワイワイやっていると銀行強盗に成功したし、警察の追及をかわすための事後的な工作活動も奇跡的な展開が2つ重なったことでうまくいくという、超ご都合主義が炸裂していました。 どうやっても主人公がうまくいくようにしか作られていないので、全然ハラハラさせられないわけです。この作りは失敗でした。