(2022年 韓国)
超絶ボリュームのゾンビドラマですが、一切のダレ場なしに突っ走るので、見ている側にも相当な胆力が必要です。終始ハラハラドキドキさせられ、容赦なく感情も揺さぶられる。鉄壁のNetflix×韓国ドラマの中でも、最高峰の作品だと言えます。
面白かった!
というのが見終わった感想で、1シーズン10話を基本とするNetflixドラマではやや長めと言える全12話構成ながら、一切のダレ場なしで最後まで見られました。
合計12時間ともなれば、さすがに一日では見切れなかったものの、佳境に入るとやめられなくなって、平日だというのに午前3時まで見た日もありました。
ここまでドラマに没頭したのって『24 -TWENTY FOUR-』以来のことで、本作の圧倒的な勢い、熱量には圧倒されました。
何がそんなに良かったのかというと、ゾンビものと学園ドラマのハイブリッドという一風変わった趣向の作品であり、かつ、この二つの要素がほぼ完ぺきに仕上がっていたことです。
まずゾンビドラマとしては、完全無欠ともいえる完成度となっています。
ウィルスが社会に放たれた瞬間に阿鼻叫喚の地獄が出現し、スプラッター描写には一切の手加減なし。
ゾンビ単体ではさほど強くないものの、大勢に取り囲まれると対処が困難になるという、ロメロ以来の伝統的な戦力設定も守られています。
手の打ちようはあるのがだが、モタモタしていると退路を塞がれてしまう。
この絶妙なバランス感覚の元に展開される攻防戦には、終始ハラハラさせられっぱなしでした。
また、もうダメだとなったメンバーが仲間達のために自己犠牲を買って出るという、これまたゾンビものではお馴染みの展開も絶妙なタイミングで決まっており、ゾンビものに必要な要件を次々とクリアーしていくことには恐れ入りました。
かと思えば、ゾンビドラマあるあるとして、終盤にいくにつれてゾンビがほとんど関係なくなっていくということがあるのですが、本作においてはそうした心配は一切ご無用。最後までゾンビものとしてやり切ってみせます。こちらも好印象でした。
そこにかぶさってくるのが学園ドラマです。
学園内でゾンビ騒動が起こり、各自が襲撃を逃れられる場所を見つけて避難するのですが、当然のことながら気の合わない奴、いつもは敵対している奴だっています。
そうした苦手な相手とも歩調を合わせねばならないという点にドラマ要素が発生しているし、信頼関係のなさゆえに、実はゾンビに噛まれた傷口を隠しているのではないかという疑心暗鬼も発生するわけです。
かと思えば、A君はBさんを好きで、みたいな恋愛ドラマも発生する。
ゾンビものにおいて親子関係が描かれることは多いものの、男女の恋愛要素を主軸にした作品ってあまり見たことがありません。
しいて言えばブライアン・ユズナ監督の『バタリアン・リターンズ』(1993年)くらいですかね。
そうした一風変わった作風ではあるものの、意外や意外、ゾンビものと学園青春ドラマの組み合わせは実にうまくいっており、普段は恋愛ものを苦手とする私も、本作のドラマには結構見入ってしまいました。
好きな女子のために粋がって自己犠牲を買って出る男子という、ベッタベタの展開を感動的に仕上げているのだから、本作の脚本・演出は極めて高精度だったと言えます。
ある男子がゾンビに噛まれてしまってもう死ぬしかないというわけで、最後に囮役を買って出るのですが、その直前に意中の女子と心が通じ合ったものだから、「今日の俺は、この学校で一番幸せな男だ!」と叫んでゾンビをおびき寄せる。
今から死のうとする奴がそんなことを言えるんですよ。恋っていいですね!
なお、本作のヒロイン役のパク・ジフは、堀北真希と有村架純を合わせたような超絶美少女で、どこでこんな逸材を見つけてきたのだろうかと驚いてしまいました。
そんなわけでメインは学園ドラマではあるのですが、この危機に対処する大人たちの姿も並行して描かれます。
地元選出のパク議員はいけ好かないおばさん。「国会議員の私の救助がなぜ後回しなの」と嫌な発言をするのですが、それと同じ口で、家族を助けに戻りたいと言うレスキュー隊員に対して、「辛いけど、今ここで公務に徹しなければならないのが私たちなのよ」と、実にまともなことも言います。
このパク議員が象徴的なのですが、本作には絶対的な善人も、絶対的な悪人も登場せず、そこにあるのは未曾有の災害の中で手探り状態で対策を進めていく人たちの姿のみ。
時に冷徹な決断を下すこともあるものの、それは全体を守るために目の前の少数の命を犠牲にしなければならないという断腸の決断の結果であり、薄甘いヒューマニズムには浸っていません。
こうした硬派な姿勢により、綺麗事が一切通用しない緊急事態を描き出すことにも成功しており、ディザスター映画としても本作は一級品であると言えます。
そんな中で、唯一ともいえる純粋悪がグィナム。
彼は不良グループの一員なのですが、腕っぷしはあまり強くないようで、グループ内ではパシリ扱いを受けています。しかし弱い者に対しては徹底的に容赦がなく、度を越したいじめをするので、ゾンビ化する以前からクズ中のクズでした。
そんなグィナムがゾンビに噛まれるのですが、例外的にゾンビと人間のハイブリッドである”ハンビ”に変化。
これによりグィナムの知覚、体力、回復力は人間を超え、しかもゾンビからの攻撃も受けないという、この世界におけるチートとなります。
そこにグィナム本来の残虐性や、それまでパシリとして扱われてきたことのコンプレックスなどが絡み、手のつけようのない乱暴者として生存者グループに襲い掛かってくるわけです。
こいつが場を荒らしまわってムカついて仕方ないのですが、こうした視聴者の憎しみを一心に集めるキャラクターがいると、ドラマは盛り上がりますね。ムカつくけど最高でした。