ワールド・オブ・ライズ_リドリーのアメリカ批判【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

(2008年 アメリカ)
ポリティカル・アクションとしては盛り上がりに欠けるので、直感的に面白い映画ではない。ただしアメリカの工作活動の失敗について驚くほどつっこんだ分析がなされているし、オチの付け方も秀逸なので、見るべき価値はある。

感想

面白くないけど何度も見てしまう映画

公開時に映画館で見たけど、なんか面白くなかった。

なんだけど妙に引っかかる部分はあって、Blu-rayを購入して何度も鑑賞しているんだけど、毎回きっちり面白くない。ということはやはりつまらない映画なんだと思う。

ジャーナリスト出身の作家デヴィッド・イグナティウスのフィクション小説を、『ディパーテッド』(2005年)でアカデミーを受賞したウィリアム・モナハンが脚色。

『ディパーテッド』(2006年)のレオナルド・ディカプリオが本作にも主演し、同じくモナハンが脚本を書いた『キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)のリドリー・スコットが監督。

さらにはスコットとの関係の深いラッセル・クロウも出演。ディカプリオとクロウは『クイック&デッド』(1995年)以来の共演となれば期待しかないのだが、どうにもこれが盛り上がらない。

中東でのテロリスト捜索活動で悪戦苦闘するCIAの姿を描いたポリティカル・アクションで、原題の”Body of Lies”(嘘の死体)とは中盤の偽装作戦を示すものと思われる。

どうやってもテロリストに手が届かないCIAは、架空のテロ組織をでっち上げたうえで米軍施設に対して自作自演のテロ攻撃を行い、本物のテロリスト達をおびき寄せるという驚天動地の作戦を立てる。

これこそが本作固有のアイデアにして、作品中最大の山場だったと思うんだけど、この陽動作戦がどうにも盛り上がらないのだ。

テロリストをでっち上げるまでは良いにしても、在トルコ米軍基地を実際に爆破するなど、一体どういう経路で許可をとるんだろう。その調整だけでも一本の映画になるくらい困難なことだと思うのだが、あっさりと作戦が実行に移されてしまうので、私の理解が追い付かなかった。

理解が追い付かないと言えば作戦の目論み部分も同じくで、架空のテロリストをでっち上げることで、本物のテロリスト達がおびき寄せられるという理屈がよく分からない。

この作戦のために堅気の建築士が何も知らないままに架空の大物テロリストにでっち上げられるんだけど、この建築士があまりにも気の毒すぎる。

ディカプリオ扮する主人公フェリスは、本編中一貫して良心的な判断を下し続けるのだが、この建築士に対する態度だけは滅茶苦茶。フェリスはどうやってこの作戦を内面で消化したんだろうか。

で、この建築士の人生を大きく変えてしまった後になって「保護しなきゃ!」と騒ぎ出し、反対する上司を人でなし扱いするんだけど、そもそも作戦に巻き込んでしまった時点でこの建築士は死んだも同然で、今さら何を言ってるんだという気がしないでもない。

そんなわけで、作品の軸となる部分がボキっと折れた状態なので、映画全体が締まらない。

ただしそれ以外の部分は悪くない。というかかなり良い。

なもんで面白くないんだけど見ごたえはある映画なので、なんだかんだでBlu-rayを購入し、数年に一度は見てしまうんだろう。

ハリウッド大作のフォーマットでアメリカ批判

本作は特に北米大陸での興行成績が思わしくなかったのだが、それはかなり盛大にアメリカ批判をしているからだ。

本作が製作された2008年と言えば、ビンラディンがいまだ殺害されておらず、テロリストとの戦争が暗礁に乗り上げていた時期だった。

後の『ザ・レポート』(2019年)でも指摘されたことだが、アメリカはテロリストとの戦い方を完全に間違えていた。

ムスリムと言えども一枚岩ではないのだから、アメリカは彼らの社会に溶け込み、現地に協力者を作っていくことでテロリストを追い込むべきだったのだが、ムスリム社会全般と対立してしまったがために、テロリストが隠れやすい状況を作ってしまったのだ。

劇中でそんな傲慢で愚かなアメリカ人を象徴しているのが、ラッセル・クロウ扮するエド・ホフマンだ。

一応、ホフマンはCIAの分析官ということにはなっているのだが、アメリカの自宅からモニター越しに指示を出す様は、テレビを見ながら無責任にがなり立てる一般的なアメリカ国民をカリカチュアしたものだろう。

リドリー・スコットはラッセル・クロウに出演依頼した際に「20キロ太れ」と指示を出したそうだが、肥満とはまさにアメリカ国民の特徴である。

ホフマンはあれこれと現場のフェリスに指示を出すものの、現場をサポートしているんだか任務の邪魔をしているんだかよく分からない。

問題解決の方法を真剣に考えているのではなく、分かりやすい目先の成果に飛びついているだけで、皮肉なことにテロリストに利する面すらあるのだが、本人にその自覚はない。

そしてテロリストの逮捕が遅れたことで新たなテロの対象となるのはロンドンやアムステルダム。アメリカ人が阿呆なせいでヨーロッパが迷惑しているという、英国人リドリー・スコットからの嫌味だろう。

おおよそのカタがついた後に製作された『ザ・レポート』(2019年)はともかく、対テロ戦争が暗礁に乗り上げていた2008年時点でこれほど鋭い作品を制作したのは、後世から振り返ると驚異的だ。

スマートでずる賢いオチ ※ネタバレあり

結局、事態を解決したのはヨルダンの諜報部だったというオチも利いている。

ヨルダン諜報部のトップ ハニ(マーク・ストロング)は、フェリスに「こうやって協力者を作るんだ」と言ってレクチャーするのだが、そのフェリス自身が無意識のうちにハニに利用されており、テロリストをおびき出すための餌に使われていたことが判明するオチは面白かった。

フェリスも観客も、ハニのスマートさや男ぶりに心酔しきりだったのだが、それこそがハニの仕掛けた罠だった。私もすっかり騙された。賢い工作活動とはこのように行うのだ。

そう考えると、ハニという役名も、ハニートラップと引っ掛けられているような気がしてくる。対象に惚れさせて利用するという行為は色恋沙汰のみではなく、職務上の敬意でも十分起こりうるだろう。

自分がコントロールしているつもりでいたが、実はコントロールされる立場だったことにようやく気付いたフェリスはCIAを退職するのだが、傲慢で自分を疑うことを知らないホフマンはそのからくりに気づかない。

クライマックスではホフマンがむしゃむしゃと寿司を食っているが、今度はハニの仕掛けにホフマンが食いついたことを暗示しているのだろう。

そんなわけでなかなか意義深い映画で、裏の意味を考えていると鑑賞後も小1時間は楽しめる。

まぁ娯楽作としては盛り上がりに欠けるので、誰にでも勧められる作品ではないが。

言わんドラゴ

脱サラして公認会計士資格をとったものの、組織人であるうちはサラリーマンと大差なく、かといって独立開業する踏ん切りもつかないハンパ者です。 映画館には話題作を見に足を運ぶ程度で、その他の映画はもっぱら動画配信サービスが主たる鑑賞方法となっています。利用しているのはNetflixとAmazonプライムビデオですが、ほぼNetflixに寄っていますね。