ザ・レポート_アメリカ流のディベート術を見られる映画【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2019年 アメリカ)
アメリカ上院の調査スタッフであるダニエル・J・ジョーンズは、911後にCIAが行った強化尋問技術と呼ばれる拘留者への尋問方法が拷問だった疑いありとして調査を開始する。

©Amazon Studios

スタッフ・キャスト

監督・脚本は社会派スコット・Z・バーンズ

アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞の『不都合な真実』(2006年)のプロデューサーの一人として知られる人物。メインは脚本家として活動しており、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)、『インフォーマント!』(2009年)、『サイド・エフェクト』(2013年)が代表作です。2020年4月公開の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の脚本も担当。マット・デイモンやスティーヴン・ソダーバーグとの仕事が多く、本作にもソダーバーグがプロデューサーの一人として参加しています。

主演はアダム・ドライヴァー

1983年サンディエゴ出身。911をきっかけに海兵隊に入学し、マウンテンバイクに乗っている最中に負傷したため退役。以降はジュリアード音楽院で演技を学び、テレビドラマ『GIRLS/ガールズ』で注目を集め、3年連続でエミー賞にノミネート。

彼自身はNY出身ではないもののNYらしい洗練された雰囲気があり、『フランシス・ハ』(2012年)以降のノア・バームバック監督作品の常連となっています。最新作の『マリッジ・ストーリー』(2019年)はゴールデングローブ賞にノミネートされました。世間一般的には『スター・ウォーズ』のカイロ・レン役で知られており、小規模なドラマ作品からブロックバスターまでをこなす器用な人です。

登場人物

  • ダニエル・J・ジョーンズ(アダム・ドライヴァー):通称ダン。アメリカ合衆国上院の調査スタッフ。学生時代は911がきっかけで専攻を国際政治に変更し、FBI勤務を経て政界入りしたという経歴を持つ。
  • ダイアン・ファインスタイン(アネット・ベニング):民主党所属のアメリカ上院議員。上院調査委員会のトップとしてCIAの拷問を調査しており、ダンの上司にあたる。
  • デニス・マクドノー(ジョン・ハム):上院議員時代のオバマの外交顧問であり、後にオバマ大統領の首席補佐官。政界を目指すダンがまず門を叩いたのはマクドノーだったが、彼に対しては公安での勤務実績がある方がいいとアドバイスし、ジョーンズはその言葉に従ってFBIに入局した。

感想

社会派作品ながら非常にシンプルな構造

前半ではレポートの内容からCIAの拷問がいかに過酷なものだったかを観客に対して説明し、後半ではレポートの詳細を委員会にかけようとする主人公に対してCIAや大統領府から圧力がかかるという極めてシンプルな構造となっており、社会派映画としてはかなり分かりやすい部類に入ると思います。

ただ一点、CIAと上院調査委員会の関係性が分からないと理解が難しいので、その点だけの予習は必要ですが。

興味深いディベート映画

本作に登場する論点はふたつ。CIAが拷問していたかどうかと、その拷問に成果があったかどうかです。うち前者については、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)なんて映画が作られたことも分かる通り公然の秘密と言っても良い状態であり、その事実を誰も否定はしません。

大問題なのは後者であり、『ゼロ・ダーク・サーティ』も含めてアメリカは容疑者への拷問を必要悪として認識していたし、911で民間人を大量に殺されたんだから倫理面でも我々はやり返す権利を持っているくらいの考え方だったのですが、主人公ダンはこれに反論します。この反論がなかなかロジカルで興味深いものでした。

この手の議論は敵に対して強硬的にいくのか融和的にいくのかという内的なスタンスの問題として捉えられがちなのですが、ダンは「拷問の結果として聞き出せた情報の中に、次なるテロを防ぐことに貢献したものはなかった」と事実ベースで結論付けます。国防という目的に照らして、捕虜への拷問は何らの成果も上げていない、むしろ懐柔的な方法の方が成果を上げていたという論で対抗するわけです。

「敵に対して弱腰でいいのか」「我々は民間人を殺されてるんだぞ」という半ば報復感情が含まれた異論に対しても、ジュネーヴ条約違反の拷問をすれば、捕虜になった我々の兵士達も同じことをやられる可能性がある。拷問禁止は決して弱腰でも利敵行為ではなく、自国の兵士達を守るために必要なことであると言い返します。

ダンの主張で一貫しているのは拷問という行為が国益にかなっているのかどうかという視点であり、人道主義的な領域にはあえて足を踏み入れません。彼が属する民主党の党是を考えれば、恐らくは人道主義的な意味での反対もあったはずなのですが、議論する相手が現実主義の保守勢力なのだから、相手の価値観に添った話をしているのです。

このディベート技術がなかなか面白かったし、見ていてためになりました。ディベートに不慣れな日本人の場合、自分の思うところを話しているだけで議論が永遠に平行線のままということも多いのですが、こうして相手の価値観に添って話すという技術こそが、結論を出しにいくアメリカ流のディベートの特徴なんだなと。

※ここからネタバレします。

地味な素材を面白く構成した見事な脚色

本作は事実ベースであり、しかも”based on true story”と言いつつもかなり自由に脚色するハリウッドの悪癖にも染まらない硬派な作風なので、一歩間違えれば抑揚のない地味な作品になりかねなかったのですが、そこんところを見事な脚色で娯楽作並みに面白く見せています。

ラウンド1 ダンvsレポートの山

主人公が情報の海をさらって強化尋問の事実を掴む前半パートが最初の山場。上院調査員というCIAに対して強い強制力を持つ主人公に対し、CIAは非協力という策で対抗。この攻防戦が地味ながらなかなか面白くできています。

CIAは上院からの調査に対してウソをついたり情報を破棄したりできないため、問題とされるレポートを合計630万ページもの膨大なレポートの海の中に隠し、調査員の心を折るという作戦に出ます。加えて調査員には窓一つない部屋を割り当てやる気を削ぐという小技も披露。私も何度か窓のない部屋で仕事をしたことがありますが、そういう環境ってマジで病みます。

実際、主人公ダンとそのチームは病みます。読んでいる大半のレポートが求めている情報ではない中で自分の仕事に意義を感じられなくなったスタッフは脱落し、ダンも私生活が荒れ、他人とのコミュニケーションですぐに激昂する性格へと変わっていきます。

しかしダンはストレスを仕事に転化させられるタイプのようで、イライラが溜まれば溜まるほど仕事に没頭してCIAのレポートをひたすらさらう作業を2年間やりきり、現場で起こっていたことをほぼ完全に掴みました。

ラウンド2 CIAからの個人攻撃

2年間の調査の後にダンが出した結論とは、CIAがやってきたことはジュネーヴ協定違反の拷問であり、しかもその拷問に正しい情報を聞き出す効果がないことをCIA自身も認識済だったということでした。

この不都合な真実が暴かれるという危機に対し、CIAはダン個人への圧力で対抗。ダンがCIAのシステムをハッキングして不正に情報を入手していたとの疑惑を示し、彼を第二のエドワード・スノーデンに仕立て上げようとしました。ダンはこの手の訴訟に強い弁護士に相談するものの、「君の年収じゃ私を雇うことは難しいから諦めた方がいいよ」と言われて打ち手を失います。

この部下の危機に対し、上司であるダイアン・ファインスタイン上院議員が動きます。逆にCIAが上院調査員のシステムをハッキングして調査状況を監視してるだろと反論し、このままではCIAを捜査することになるという圧力をかけ返してダンへの起訴を取り下げさせました。この攻防戦には燃えましたね。

ラウンド3 ダンvs大統領府

2009年に就任したオバマ大統領は、就任3日後に拷問を禁止。CIAが行った拷問についても解明が進むかと思いきや、最後に主人公の前に立ちはだかったのがこの民主党政権でした。

現地諜報員の身元特定に繋がりかねない箇所は、僅かにその可能性がある記載も含めて大統領府によってすべて黒塗りにされ、まったく内容の分からないレポートに変更されました。ダンとワインスタインは分かるように情報を出さないと意味がないとして抗議するものの、身内からの圧力ということでワインスタインも及び腰になり始めます。

加えて、ダンが従事してきた一連の調査内容をオバマ政権はハナから認識していたが、政治的妥協の中でこれに対応する気がなかったことも判明します。一応客観的な調査をしたという体裁だけを整えたくて上院に調査チームを作らせたが、予想に反してダンが真相を掴んだことから大統領府の計算が狂ったということです。

自らが所属する組織こそがラスボスだったというダンの八方ふさがり感が凄いことになっていましたね。

クライマックスの「タメ」の無さがボトルネック

こうして最大の危機に見舞われたダンですが、結構すんなりと危機を脱したクライマックスのために、やや盛り上がりを逃していました。

ダンとワインスタインは追い込まれるのですが、次の場面では「不都合な事実も含めてオープンにできることがアメリカ合衆国の国是ではないか」とワインスタインが胸を打つスピーチをしたことで多くの議員を味方につけ、一気に形勢が逆転。レポートの公開に至るのですが、ここをもっと盛り上げていれば面白くなったのにと、演出上のタメのなさがちょっと勿体なかったです。

まとめ

硬派な社会派作品であり、ロジカルに構成されているのでディベート映画としても見応えがありました。欲を言えばもっと面白くしようもあったとは思うのですが、そんな欠点ありきでも十分に合格点を出せる作品ではないでしょうか。

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