(2018年 アメリカ)
男の対決も人間ドラマも中途半端。ドラマで行き詰ればケイパーものに移行するものの、そちらは情報の整理ができておらず不完全燃焼と良いとこなしの物語であり、銃撃戦の迫力でのみ持ちこたえています。ただし、140分という長めの尺の最初と最後にしか銃撃戦はないので、間は死ぬほど退屈しました。
LA郊外で現金輸送車が襲われた。捜査に当たった保安局のニック・オブライエンはすぐに容疑者を特定したが、現場に証拠が残っていなかったため逮捕には至らなかった。次なる強盗計画を止めるべく、ニックは策を張り巡らせる。
本作の製作総指揮、脚本、監督を務めたのはクリスチャン・グーデカストという人物です。
1970年LA出身。UCLAの卒業作品として制作した”Shadow Box”という作品が最優秀学生映画として表彰され、1992年の卒業と共に映画界へ入っていきました。
90年代の主流だったMTV監督として働いた後に脚本家に転身し、メジャースタジオ製作作品の脚本をノークレジットでリライトする脚本家として活躍。ヴィン・ディーゼルの復讐もの『ブルドッグ』(2003年)や、ジェラルド・バトラー主演のマイク・バニングシリーズ第一弾『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年)の脚本がクレジットありの仕事となり、本作で長編監督デビューを果たしました。
1969年スコットランド生まれ。名門グラスゴー大学を最優秀の成績で卒業し、弁護士資格を持って一流弁護士事務所に就職したという、凄すぎる経歴の持ち主です。
ただし弁護士業は肌に合わなかったようで、悩んだ末にキャリアを捨てて俳優に転向。初期には舞台で活躍した後、『Queen Victoria 至上の恋』(1997年)で映画デビュー。
その後は仕事が途絶えることがなく順調に評価を上げていき、ジョエル・シュマッカー監督の『オペラ座の怪人』(2004年)の主役を務めたことで世界的な知名度を獲得。続いてザック・スナイダー監督の『300 〈スリーハンドレッド〉』(2007年)の主役レオニダス王で全世界のジャンル映画ファンからの愛を獲得しました。
ただし、ある程度作品を自由に選べるようになったはずのそこから先のキャリアが大変なことになっています。『GAMER』(2009年)、『完全なる報復』(2009年)、『マシンガン・プリーチャー』(2011年)、『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年)、『エンド・オブ・キングダム』(2016年)、『キング・オブ・エジプト』(2016年)と、何らかの十字架でも背負っているのかと思う程の駄作のオンパレード。
そして極め付きだったのがディーン・デブリン監督の超大作『ジオストーム』(2017年)であり、駄作と笑われているローランド・エメリッヒやマイケル・ベイの映画がオスカー受賞作に見えるほどのぶっちぎりの駄作ぶりでした。
ジオストーム【2点/10点満点中_手に汗握らない見せ場とバカ映画の割に分かりづらい話】
それぞれ組織を率いる男2匹の戦いに、リアリティと派手さを兼ね備えた銃撃戦、反響音までが計算された銃声など、マイケル・マン監督の『ヒート』(1995年)がお好きなんですねということが、全編を通して伝わってくる作品です。
ただし、対決という要素がうまく機能しておらず、マイケル・マン作品のような熱さは生まれていません。
まずニック・オブライエン保安官ですが、自ら「俺は悪党だ」と言い切るほどの、自他ともに認めるアウトロー保安官なのですが、彼がなぜメリーメンに固執するのかがピンときません。
他方、『ヒート』でアル・パチーノが演じたビンセント・ハナ刑事は仕事にしか生きがいを見出していない男であり、趣味はなく、家庭生活をうまくこなすこともできず、仕事をしている時にしか自尊心を保てない男が、半ば本能で強敵を追い掛け回すという構図が置かれていました。家庭生活で嫌なことがあれば、深夜だろうが早朝だろうが街に出て行って、腹いせに悪党を逮捕する。そういうキャラ造形が『ヒート』では完璧に出来上がっていたのですが、本作のニックはキャラが作り込めていませんでした。一応、アウトローはアウトローなのですが、その歪んだり欠けたりした部分に仕事やメリーメンという要素がどう関連するのかをうまく打ち出せていないのです。
メリーメンに至っては、キャラが薄すぎて印象にも残りませんでした。家族もいない彼がなぜ銀行強盗で大きく稼ぐことにこだわっているのか。その点に観客を納得させるだけの動機付けやキャラ造形がなされていないので、面白みのないキャラクターに終わっています。
そんな二人の対決が盛り上がるはずもなく、ドラマは低い温度感で推移し続けます。鉄板焼き屋、射撃場、メリーメンの自宅と、両者は三度相まみえます。特にメリーメンの自宅は、自分の彼女にニックを逆ナンさせ、行為に及ばせてまで自宅に引っ張り込むという身を切った仕掛けで顔合わせの場を設けたほどなのですが、それほどの場面でも特に感じるものがなかったほど両者のドラマは薄いものでした。
クライマックスでは、ほぼ定型パターンの出尽くした銀行強盗という素材において、まったく新しい展開を作り出そうという高い志こそ感じたものの、その内容があまりに複雑で理解が難しく、普通にやってくれた方がまだマシという状態となっています。
計画はこうです。メリーメンはまず郊外の普通の銀行を襲い、そこに警官隊を集結させる。ただし真の狙いは市内の連邦準備銀行であり、郊外の銀行に籠城中と見せかけて、こっそりと連邦準備銀行へと移動。厳重なセキュリティをかいくぐって大金を奪うという、クソめんどくさことになっています。
強盗計画がシンプルに進んでいかず、今は誰が何をやっているのかを追いかけるので手一杯になったため、男同士の対決という要素にまで頭と気持ちが回りませんでした。加えて、メリーメン一味の計画はどの部分が難しくて、どうなると失敗なのかという情報が観客に対して分かりやすく整理されていないために、本来はハラハラしなければならない潜入場面に、まったくスリルが伴わないという困ったことになっています。
冒頭とクライマックスの2度、大規模な銃撃戦があるのですが、その出来が素晴らしいということが、本作で評価できる唯一のポイントとなっています。発砲に至るまでのピリピリとした緊張感、基本的に殺すつもりはないのだが、必要と判断すれば急所を確実に狙いにいくというプロっぽい射撃、反響音までが考慮されたリアルな銃声と、銃撃戦には説得力があり過ぎでした。
加えて、市街地で自動小銃をバリバリ撃ちまくるので迫力や派手さもあって、娯楽性も適度に担保されています。銃撃戦については、『ヒート』に匹敵するものを作れていると思います。