(1990年 アメリカ)
見応えはあるので一見の価値のある作品ではあるのですが、もっとやりようのあった部分も多いので、思ったほど盛り上がってはくれません。 総じて残念な出来ではあるのですが、淀長さんは大変褒めておられましたね。現在の基準で考えるとシブすぎて地上波でやるような内容ではないのですが、これがゴールデンタイムに放送されていたのがテレビ洋画劇場全盛期の凄さでしょうか。
1858年、大英帝国の探検家であるリチャード・フランシス・バートン(パトリック・バーギン)とジョン・ハニング・スピークス(イアン・グレン)は、ナイル川源流を求めて過酷な旅へと出た。二人はまずタンガニーカ湖を発見。次いで、病のバートンを残して単独で旅立ったスピークスはヴィクトリア湖を発見する。
タンガニーカ湖こそがナイル源流であると考えるバートンに対して、ヴィクトリア湖こそがそうであると考えるスピークスは地理学協会を巻き込んだ論争を巻き起こし、二人の間の友情にはヒビが入るのだった。
1933年生まれ。『ファイブ・イージー・ピーセス』(1970年)、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1981年)、『ブラッド&ワイン』(1996年)と、ジャック・ニコルソンとのコラボレーションで有名な映画監督であり、脚本家でもあります。また、アメリカン・ニューシネマを代表する作品『イージー・ライダー』(1969年)でも、ノークレジットながらプロデューサーを務めていました。
1949年生まれ、アカデミー撮影賞に13度ノミネート、『ブレードランナー2049』(2017年)、『1917命をかけた伝令』(2019年)で二度受賞という、現在ではトップクラスの評価を誇る名撮影監督です。70年代に出身のイギリスで撮影監督としてのキャリアをスタートさせ、1990年よりアメリカ映画を手掛けるようになった、その最初期の作品が本作です。1991年の『バートン・フィンク』以降ほとんどすべてのコーエン監督作品の撮影を手掛けています。
ブレードランナー2049【5点/10点満点中_前作のドラマを否定した続編】
1917 命をかけた伝令_文句のつけようがない出来【9点/10点満点中】
1934年生まれ。『スター・ウォーズ』旧三部作や『レイダース/失われた聖櫃』(1981年)などを手掛けており、アカデミー賞美術賞を二度受賞したという、当時としてはトップクラスのプロダクション・デザイナーでした。
1951年ベイルート出身。コロンビア・ピクチャーズやトライスター・ピクチャーズの下で働き、1976年にカロルコ・ピクチャーズを設立。大手が手を出さなかった『ランボー』(1982年)を大ヒットさせたことでカロルコは軌道に乗り、1991年に年間No.1の大ヒットとなった『ターミネーター2』により絶頂を迎えました。1990年公開の本作は、カロルコが天下を獲ろうと旺盛な製作活動を行っていた時期の作品です。
当時最高のプロダクション・デザイナーだったノーマン・レイノルズと、後に世界一のカメラマンにまで成長するロジャー・ディーキンスなどスタッフに恵まれた作品だったこともあって、本作の時代の再現性は物凄いことになっています。
植民地やロンドンの光景はどう見ても19世紀半ばのもので、あまりに自然。冒険の最中に現れる原住民なども本物にしか見えないほどの作り込みであり、こうした嘘くささの無さが作品への没入感を高めてくれました。
本作は実際にアフリカでロケをしているのですが、演出と撮影はその過酷さを切り取ることに成功しており、観客は冒険の大変さを追体験できるようになっています。前人未踏の地を歩くことがいかに大変かを、ビジュアルで伝えられているのです。
加えて、投げられた槍が頬を貫いたり、耳の中に虫が入って来たりといったダイレクトに痛い描写も要所要所に配置されていて、“暗黒大陸”の恐ろしさと映画的な娯楽を結びつけることにも成功しています。
以上の通り、見てくれでは非常に成功した映画だったのですが、ドラマの構築にまでは手が回らなかったのか、こちらの出来はイマイチでした。作品はバートンとスピークがアフリカを探検する前半と、帰国後に学会にて敵味方に分かれて論戦を繰り広げる後半とに分かれているのですが、どちらのパートの出来も良くないのです。
まず探検パートですが、探検の過酷さは描けている一方で、ヴィクトリア湖発見の瞬間の感動を切り取ることができていません。探検家は、目的物の発見の瞬間のために何か月、場合によっては何年もの苦難を受け入れ、命を落とす危険を冒してまで前進しているのですが、ついにその発見に至った瞬間の感動を観客に伝え損なったのでは、この題材としては不合格だと思います。
論戦パートについては、本人たちには依然として友情があったものの周囲がヒートアップしたために敵味方となってしまったのか、この状況の中で本人たちも憎しみ合っていたのかという肝心な部分をはっきりと描けていないので、面白くなりそうな題材を面白くしきれていないようなもどかしさがありました。
全体として演出に起伏がなく、ここは特に力を入れて描かねばならないとか、絶対に観客に理解させねばならないという濃淡がなしに重要な部分が流されていくような感覚を持ちました。
日曜洋画劇場で一回放送されたっきりで再放送は見かけないし、DVD化もBlu-ray化もなされていない不遇の作品であり、私の手元にある鑑賞手段はレンタル落ちVHSしかないのですが、画質の悪いVHSではロジャー・ディーキンスによる撮影も活きてきません。人気作ではないので期待薄ですが、高画質メディアでのリリースを希望するところです。