1917 命をかけた伝令_文句のつけようがない出来【9点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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戦争
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(2019年 イギリス・アメリカ)
戦争映画の新たなスタンダードになるのではという程の映画でした。全編に渡る映像的な刺激に加えて、細かな演出や構成もすべて成功しており、文句をつける部分が見当たらないほどの壮絶な完成度となっています。なお、私は推奨されているIMAX版を鑑賞したのですが、本作は絶対に整った環境で見るべき映画です。

© 2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

1917年4月、トム(ディーン=チャールズ・チャップマン)とウィル(ジョージ・マッケイ)の将兵2名はエリンモア将軍(コリン・ファース)から呼び出され、翌朝にD連隊が仕掛けようとしている総攻撃の中止命令を届けるようにと言われる。航空写真の分析の結果、ドイツ軍は罠を張って待ち伏せしており、もしこのまま突撃すればD連隊の1600人は全滅するとの予想が立てられている。

特にD中隊に兄を持つトムはこの任務に対して決死の覚悟を固めるが、それは友軍の勢力が及んでいない地帯を横断するという死と隣り合わせの任務だった。

スタッフ・キャスト

監督はオスカー監督サム・メンデス

英国の舞台演出出身であり、映画監督としてのデビュー作である『アメリカン・ビューティー』(1999年)でいきなりアカデミー作品賞・監督賞他合計5部門を受賞する高評価を獲得。その後しばらくは中規模予算のドラマ作品を中心に監督してきたのですが、『007/スカイフォール』(2012年)が全世界で11億ドルを稼ぎ出すシリーズ最大のヒットとなり、ブロックバスターもいける監督となりました。

撮影は名匠ロジャー・ディーキンス

英国出身で1990年代よりハリウッド大作で活躍するようになりました。業界からの信頼度は非常に高く、コーエン兄弟、ドゥニ・ヴィルヌーヴといった実力派監督の御用達となっています。アカデミー撮影賞へのノミネート回数は実に13回、うち2度受賞という賞レースの常連であり、本作にて2度目のアカデミー撮影賞を受賞しました。

『ゲーム・オブ・スローンズ』のコンビ出演

将軍より伝令を仰せつかった2名の兵士のうち、D連隊に兄を持つトム・ブレイク兵長を演じたのはディーン=チャールズ・チャップマン。どこかで見た顔だなぁと思っていたら、HBOの大人気ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』でトメン・バラシオンを演じていた人でした。

そしてラストで登場する彼の兄であるジョゼフ・ブレイク中尉を演じるのは、同じく『ゲーム・オブ・スローンズ』で北の王ことロブ・スタークを演じていたリチャード・マッデンでした。

『ゲーム・オブ・スローンズ』をご覧になっていた方ならご存知の通り、バラシオン家とスターク家は複雑な関係にあるのですが、それぞれの王子を演じた俳優が兄弟役で再共演という構図には、ファンとして熱いものを感じました。これは意図的なキャスティングなんでしょうか、サム・メンデスの意図が気になります。

感想

ビジュアル意匠の凄さ

全編長回しで描かれた戦場は前代未聞の臨場感でした。現在の戦争映画のルックスを作り上げたのはスティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(1998年)でしたが、あれから21年経って、ついに新しい時代の戦争映画のスタンダードが現れたんじゃないのかという程の衝撃がありました。

主人公の人となりについての情報は最低限であり、セリフもロクにない映画なのですが、視覚的な没入感や臨場感を通して観客に主人公との一体感を与えるという企画意図が見事に実現されています。ビジュアルでストーリーを語るということがここまでうまくいった映画も珍しいのではないでしょうか。

また、戦争映画はともすれば絵面が単調になりがちなのですが、本作は多彩なビジュアルによりメリハリをつけています。死屍累々の戦場に始まり、牛が草をはむ牧歌的な光景あり、廃墟と化した市街地あり、川や森といった自然の描写ありで、目が飽きない工夫がなされています。

加えて、夜の場面では閃光弾に照らされて影が伸びて縮んでを繰り返すという『地獄の黙示録』(1979年)をより発展させたような特異なビジュアルを作り出しており、視界の不安性が心理的な不安を助長していました。

ロジャー・ディーキンスとサム・メンデスは視覚自体が演出になっているという卓越した仕事をしており、アカデミー撮影賞受賞は納得の評価でした。

ただし全編ワンカットではありません

日本での広告宣伝では全編ワンカットが強調されていましたが、ドイツ軍の塹壕に入って目の前が真っ暗になる場面や、主人公が気を失う場面など、普通にカットは切れていました。

そこでカットが入ったからと言って作品の価値は特に毀損していないのですが、広告宣伝段階で「全編ワンカット」と聞かされた観客の中には、「カットが切れてるじゃん!嘘つき!」と思う人もいるでしょう。なぜわざわざ誇大広告みたいなことをしたんだろうかと、東宝東和の宣伝がちょっと残念でした。

ま、東宝東和と言えば1970年代から80年代にかけて大袈裟な宣伝手法や、ほとんどウソと言ってもいいほどの過剰な煽り文句で成功してきた配給会社なので、その血が騒いでしまったのかもしれませんね。

意図した演出がピシっと決まっていく気持ち良さ

映像の凄さはもちろんのこと、演出面での小技も利いています。

例えばウィルが初めて狙撃を受ける場面。その直前まで味方の部隊と一緒に居たので、まだ安全地帯が続いているかのようなシチュエーションであり、しかも切れた橋を渡っており、橋から落ちはしないかという点にウィルと観客の意識が向いたところで、当ミッション初の銃声が鳴り響くわけです。私は椅子から飛び上がりそうになるほど驚きました。

また、緩急の付け方もよくできています。物語は常に疾走しているわけではなく、トムとウィルが部隊の仲間について会話したり、ウィルが身を潜めている女性と赤ん坊に出会ったり、出撃前の部隊が故郷の歌を聞いている場面だったりと、抒情的な描写を何度か挟みます。

こうしたちょっと息つく間が入ることで、再度見せ場に突入する時には観客の側でも高い緊張感が戻っており、ずっと疾走しているよりも没入感が高くなっています。

※ここからネタバレします。

意図した構成がピシっと決まっていく気持ち良さ

また、何気に構成もよく出来ています。

私は本当に何の予備知識もなく見に行ったので、最初2名いた伝令のうち、イケメンで任務遂行の動機も持つトム・ブレイク兵長(ディーン=チャールズ・チャップマン)の方が主人公だとばかり思っていました。なので、かなり早い段階で彼が死んだ時には心底驚かされました。

しかもそれがかなりの鬱シチュエーション。ウィルとトムは墜落したドイツ軍機からパイロットを助け出します。こちらは敵味方関係なくヒューマニズムの観点から人命救助をしており、観客の側もこのパイロットとの敵味方を越えた親交でも結ぶのかななんて思って見ていると、なんと刺されるわけです。

まさかこんなタイミングで親切にしたドイツ人パイロットから牙を剥かれるとは思っていなかったし、しかも死ぬとは思っていなかった方が刺されるので、私はびっくり仰天でした。

また、中盤にてマーク・ストロング扮するスミス大尉から、「D連隊のマッケンジー大佐は頭の固い男だから第三者を交えて話すように」とのアドバイスを受けます。

ちゃんと伝令できてもマッケンジー大佐が聞く耳を持たないかもしれないという情報が観客に対して事前に与えられたことが、タイムリミットサスペンスと化したクライマックスでかなり効いてくるわけです。この伏線の張り方は見事だなと思いました。

最後のテロップに感動

最後のテロップで、サム・メンデスのおじいさんの話にインスピレーションを受けた話であると説明されます。

100年以上前の戦争映画ということで、ともすれば「昔の人は大変だったんだなぁ」という客観的な感想に終始しそうなものなのですが、世代間の連携、この伝令により救われた命が繋げた生命のバトンによってこの映画が製作されて、私達の目に触れているということが、このテロップ一つで伝わってきます。なんだかジーンと来ましたね。

テロップ一つに至るまで演出意図が行き届いている映画ってそう多くはありません。この点でも、本作の完成度の高さが見て取れます。

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