(2022年 スペイン)
スペイン版『要塞警察』は、テレビシリーズの長尺を生かして興味深い群像劇となっている。陰謀劇としての捻りも効いていて先読みをさせないのだが、最後の最後に凄まじいカックンが待っている。それを許せるかどうかが本作の評価の分かれ目だろう。
IMDBを見るとスコアが5.8、ロッテントマトの視聴者スコアは32%(どちらも2022/7/28閲覧)と、かなり低調な様子の本作。
最後の最後に凄まじいボムがあって、確かにこれを高評価できないという点には納得がいくのだが、裏を返せば最後以外は良かったということ。私は普通に楽しめた。
収監中の凶悪犯を奪いに来た武装集団に対し、施設管理者側は籠城戦を挑むというスペイン版『要塞警察』(1976年)。襲撃を仕掛けてくるのはギャングではなく警官隊なのでリメイク版の『アサルト13』(2005年)に近いか。
対象となるのがレクター博士ばりの連続殺人犯だったり、舞台となるのが精神科矯正施設なのでその他の囚人たちも不安定だったりと、扉の内側も決して安全ではないという点が本作の特色となっている。
実際、外敵との攻防戦よりも施設内での意見調整にドラマの比重は置かれており、管理下にある囚人を引き渡すわけにはいかないとする所長に対し、さっさと凶悪犯を引き渡して安全を確保することが他の囚人に対する責任だと主張する者もいる
また囚人達も一枚岩ではなく、巨大な外敵を目の前にして看守との共闘を唱える者もいれば、日頃のルサンチマンを爆発させて看守への不服従を表明する者もいる。
同じく襲撃者側も一枚岩ではなく、リーダー格こそ押せ!押せ!の一辺倒だが、不意撃ちが失敗した時点で「ヤバイんじゃないの?」と及び腰になる者もいるし、無関係な囚人に犠牲を出すことを躊躇う者もいる。
タイトなアクション映画として製作されることの多い籠城ものを、たっぷりの時間を使えるテレビシリーズで製作した結果、この特殊状況を深掘りする群像劇として換骨奪胎されている。この構成は素晴らしいと感じた。
そして後半に入ると物語の趣旨は籠城戦からさらに外れ始める。
所長は長女を誘拐されて脅しをかけられており、当然のことながらそれは施設を取り囲む武装集団の手の者かと思っていたのだが、実は別の勢力だったことが判明する。
そしてただ巻き込まれただけだと思ってきた所長も、この一連の謀略の関係人物の一人であるということも分かってくる。
ドラマの根底にある謀略は想像以上に根深く、善悪で色分けできるほど単純でもない。
この捻りには意外性を突かれたし、面白かった。
かくして終盤に向かってドラマはすさまじい加速をするのだが、なんとなんと、最終回は何らの解明もなされないまま「次回へ続く」で終わる。
全6話のミニシリーズか何かだと勝手に勘違いして見た私も悪いのだろうが、まさか長期構想のあるシリーズの第1シーズンだとは思わなかったので、何も解決せずに終わったことには腰砕けになった。
百歩譲って長期構想のあるシリーズだとしても、あまりにも解決しなさすぎである。本当に何も解決しない、何の謎も解けないまま終わってしまう。
完全に収束しないまでも、話に一区切りついたところでシーズンを終わらせるべきだろう。
この恐ろしい尻切れ感が、前述したIMDBやロッテントマトでの低評価につながっているのだろうと思う。