ドラゴン・タトゥーの女_キャラは良いがミステリーが面白くない【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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陰謀
陰謀

(2011年 アメリカ・スウェーデン)
フィンチャーによるキメキメなイントロのカッコよさと、リスベットの男前ぶりが最高な作品だったのですが、肝心のミステリーに面白みがなかったために、キャラクター劇の域を脱していないことが残念でした。

あらすじ

ジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィスト(ダニエル・クレイグ)は実業家のスクープを報じたが、逆に名誉棄損で訴えられて敗訴し、ジャーナリストとしての名声も財産も失った。そんな折、別の実業家ヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)より40年前に発生した少女失踪事件の調査依頼が入る。高額報酬と裁判を一転させる証拠の提供を条件にミカエルはこれを引き受けることとし、調査係として天才的なハッカー・リスベット(ルーニー・マーラ)を雇い、二人で調査を進める。

スタッフ・キャスト

監督はデヴィッド・フィンチャー

1962年デンバー出身。映画好きな父ジャックの影響で自身も映画好きとなり、『スター・ウォーズ』(1977年)に魅了されて映画界入りを決意。高校卒業後にジョージ・ルーカスが経営するVFX工房ILMに入社し、アニメーターとして働きました。

現在の作風からは想像もできませんが、映画人としてのフィンチャーの原体験はスター・ウォーズだったのです。

その後独立して25歳の時にドミニク・セナと共にプロパガンダ・フィルムズを創業。MTVを製作する会社として同社は大きく成長し、1990年には全米のすべてのMTVの1/3を一社で製作するまでになりました。

フィンチャーはMTVであってもストーリー性を織り込むことにこだわりを持っており、その姿勢から『エイリアン3』(1992年)の監督に抜擢されました。ただし『エイリアン3』はスタジオからの干渉に遭ってうまく製作することができず、興行的にも批評的にも苦戦を強いられました。

その後『セブン』(1995年)で持ち直し、『ファイト・クラブ』(1999年)で再び興行的・批評的な苦境に立たされるも(今では傑作扱いですが、公開当時は失敗作と見られており、フォックス社長のクビまで飛びました)、その確実な作風からコアな映画ファンは彼に味方しました。

脚色はスティーヴン・ザイリアン

1953年カリフォルニア州出身。ショーン・ペン主演の実録スパイサスペンス『コードネームはファルコン』(1985年)で脚本家デビューし、『シンドラーのリスト』でアカデミー脚色賞受賞。

オリジナルよりも雇われ仕事で実力を発揮するタイプのようで、『今そこにある危機』(1994年)『ミッション:インポッシブル』(1996年)『ハンニバル』(2001年)などの脚色で確かな腕前を披露しました。マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』(2019年)が直近作です。

主演はルーニー・マーラ

1985年NY出身。NFLのピッツバーグ・スティーラーズ創設者アート・ルーニー・シニアと、ニューヨーク・ジャイアンツの創設者ティム・マーラのひ孫という名家の生まれで、女優のケイト・マーラは実姉です。

2005年に女優としてデビューし、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)の主人公の恋人役で注目を集めました。

リスベット役には当初ナタリー・ポートマンが考えられていたのですが、『ブラックスワン』(2010年)の撮影の疲れから断られ、その後検討されたスカーレット・ヨハンソンはセクシー過ぎるし、ジェニファー・ローレンスは背が高すぎるしということで、最終的に痩せ型のルーニー・マーラに決定しました。

リスベット役でアカデミー主演女優賞に、またケイト・ブランシェットと共演した『キャロル』(2015年)でアカデミー助演女優賞にノミネートされました。

2016年からホアキン・フェニックスと交際し、2020年9月に長男を出産。ホアキンの亡き兄の名前からリヴァーと名付けました。

共演はダニエル・クレイグ

1968年イングランド出身。幼少期に両親が離婚して以降はリヴァプールで育ちました。

16歳で演技の道を志し、1991年にギルドホール音楽演劇学校を卒業して1992年に映画デビュー。『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』(1998年)でエディンバラ国際映画祭最優秀演技賞を受賞しました。

その後ハリウッドに進出して『トゥームレイダー』(2001年)や『ロード・トゥ・パーディション』(2002年)に出演し、『007/カジノロワイヤル』(2006年)より6代目ジェームズ・ボンドを務めています。

作品解説

スウェーデンのベストセラー2度目の映画化

本作の原作はスティーグ・ラーソンの推理小説『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』(2005年)。執筆時点でラーソンには5部作構想があり、第4部の途中までを書き終えていたのですが、ラーソンは第一部の出版前に心臓発作で死去しました。

生前のラーソンが執筆済だった小説三部作は2005年から2007年にかけて出版されてそれぞれベストセラーとなり、スウェーデン国内ではシリーズ合計290万部を売り上げました。その後30カ国で翻訳され、全世界で800万部以上を売り上げました。

母国スウェーデンではノオミ・ラパス主演『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009年)として映画化され、こちらも大ヒット。全世界で1億ドル以上を稼ぎ、英国アカデミー賞外国語作品賞を受賞しました。

第2部、第3部はテレビのミニシリーズとして公開される予定だったのですが、第1部の成功によって完全版として劇場公開されました。

その後、ソニー・ピクチャーズが映画化権を取得し、ハリウッド版の製作に取り掛かります。

ただしスウェーデン版が公開された2009年から間を空けておらず、評価の高かったスウェーデン版との比較に晒されることにナーバスにでもなっていたのか、デヴィッド・フィンチャーとスティーヴン・ザイリアンというハリウッドの英知が結集されました。

興行的には伸び悩んだ

本作は2011年12月20日に全米公開されたのですが、トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)と、スウェーデン版でリスベットを演じたノオミ・ラパス出演の『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』(2011年)に阻まれて初登場3位でした。

その後もランクを上げることはなく全米トータルグロスは1億251万ドルで終わりました。

世界マーケットでも同程度の興行成績で全世界トータルグロスが2億3261万ドルであり、9000万ドルという製作費を考えると損益分岐点を下回る金額でした。

当初3部作構想だったのですが、この興行的不調を受けて続編の製作は中止となりました。

感想

オープニングが最高過ぎる

デヴィッド・フィンチャーはMTV出身であるためかどの作品でもオープニングには全力でこだわるのですが、そんな秀作揃いのフィンチャー作品のOP中でも、本作は特に出来が良いのではないでしょうか。

トレント・レズナーがカバーしたレッド・ツェッペリンの「移民の歌」(1970年)をBGMとし、音楽と完全シンクロした映像のインパクトが絶大。BGMで一瞬の静寂が訪れる際には画面の動きも止まり、そして次の瞬間に派手に動き始めるという緩急の付け方には背筋がゾゾっとしました。

ここで流れる映像はドラゴン・タトゥーの女ことリスベットという人物を表現したものなのですが、その内容が理解できるのは映画を全部見た後であり、初見時には何のこっちゃ分かりません。しかし何のこっちゃ分からなくても引き付けられる圧倒的なパワーがこのOPには宿っています。

なおトレント・レズナーという人はインダストリアル系ロックバンドNine Inch Neilsのリーダーであり、『セブン』(1995年)のOPを飾った「CLOSER」は彼らの既成曲でした。また『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)では作曲家のアッティカ・ロスと共にスコアを担当してアカデミー作曲賞を受賞という、フィンチャーお気に入りのスタッフです。

ドラゴン・タトゥーの女ことリスベットが最高すぎる

主人公リスベット(ルーニー・マーラ)は天才的なハッカーであり、弁護士事務所等からの依頼を受けてターゲットの調査業務を行っています。ただし12歳の時に実父への殺人未遂事件を起こして以降は責任能力のない反社会性人格と見做されており、法的には成年被後見人の立場にあります。

そんな彼女の弱みに付け込んでくるクズ野郎などもいるのですが、不利な状況には黙って耐え、周到な準備をしたところで倍返し以上の反撃を行うというリスベットの姿勢はハードボイルドそのものでした。

彼女はもう一人の主人公であるジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)に好意を抱き、そのピンチの際には必ず救いに現れる守護天使のような役割を果たします。クールな外観ながら乙女のような恋愛をするリスベットの不器用な恋愛が、これまた映画全体の良いアクセントとなっています。

もともとミカエルはリスベットの調査対象であり、リスベットは彼を遠巻きに監視しながらも何となく良いなと思っていたんでしょう。いろいろあって、そんなミカエルからパートナーとして指名された時、彼女は運命を感じたのかもしれません。

表面的にはミカエルに対してそっけない素振りをとりながらも、実態はミカエルに尽くしまくっている様が健気だったし、そんな彼女の思いにミカエルがまったく気づかないというすれ違いも王道ながらよく出来ています。

ダニエル・クレイグの弱さも見もの

相手役のミカエルに扮するのはダニエル・クレイグ。皆さんご存知の6代目ジェームズ・ボンドです。

『007/カジノロワイヤル』(2006年)においても殺しのライセンス発行直後の隙や弱さを抱えたジェームズ・ボンド像を見事に体現したクレイグは、本作においても同様の役柄を見事モノにしています。

ミカエルは著名なジャーナリストなのですが、大企業相手のスクープが誤報だったと判明して名声と全財産を失い、人生のどん底に居ます。そんな彼の元に大富豪ヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)から40年も前の少女失踪事件の調査依頼が舞い込んでくることが作品の導入部。

こんな感じなのでまぁボロボロです。ミカエルは自嘲的なことばかりを言っており、精神的には限界でどこかに逃げ出してしまいたいという心境にあります。

調査に入っても、気位が高い上に閉鎖的なヴァンゲル家の人々はみな好意的ではなく、彼らから怪訝な顔をされるたびにミカエルは「すいませんねぇ」みたいな卑屈な態度を取ります。

そんな中でミカエルは、腕利きの調査員であるリスベットを相棒として要求。いろいろあってリスベットとは肉体関係を持つに至るのですが、ミカエルにとってリスベットは頼もしいが奔放で理解の難しい仕事仲間という認識であり、肉体関係も奔放な彼女の身近にいたのがたまたま自分だったのでそういうことになっただけで、本気の好意を抱かれているなんてことは考えもしないわけです。

ドン臭い上に勘も悪いのが本作のミカエルなのですが、ダニエル・クレイグはモテている自覚のないイケメンを実に魅力的に演じています。

ミステリーに魅力がない ※ネタバレあり

そんなわけでキャラクター劇としては非常に面白かったのですが、核となるミステリーが面白くなかったことが作品のリミッターとなっています。

少女失踪事件に絡む人間関係が複雑でわかりづらかった上に、観客がリスベットやミカエルと一緒になって謎解きをするという形にもなっていないので、誰が誰やらよく分からないミステリーをただ傍観するだけという状態となっています。

加えて連続猟奇殺人事件と少女失踪事件は無関係だったというミスディレクションもさほど有効には機能していないし、少女失踪事件の真相にも納得感がありませんでした。

40年前、少女はヴァンゲル家に愛想を尽かし、自分の死を偽装してロンドンへと逃れて親戚の名を名乗って今まで生きてきたということが事の真相なのですが、その親戚が死亡した現在こそ問題ないものの、親戚が存命の時には2人で一人を名乗っていたのかという疑問も湧いてきました。

せっかくキャラ造形が良かったのだから、ミステリー部分も頑張ってほしいところでした。

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