(2022年 スペイン)
スペイン版『要塞警察』は、テレビシリーズの長尺を生かして興味深い群像劇となっている。陰謀劇としての捻りも効いていて先読みをさせないのだが、最後の最後に凄まじいカックンが待っている。それを許せるかどうかが本作の評価の分かれ目だろう。
登場人物
バルカ・ヒル精神科矯正施設
- ヒューゴ・ロカ所長:精神病院の署長で3児の父。クリスマスのホームパーティをしていたところにシモン拘留の電話が入り、仕方なく子連れで職場に戻った。職務に忠実な人物で、自分達が管理中の囚人を引き渡すことには決して同意しない。
- エリーサ・モンテロ:女医。ロカ所長とは恋人関係にある。患者でもある囚人たちに感情移入しており、彼らを守るためにもシモンを引き渡すべきと主張する。
- エスパーダ先生:所内での尊敬を集める精神科医だが、事件のどさくさの中、囚人への性暴行疑惑をかけられて窮地に陥る。
- バストス:ベテラン看守。収監者に対して高圧的で必要とあらば暴力も辞さないが、職務には忠実で所長の指示には素直に従う。
- マカレナ・モンテス:当夜配属されたばかりの看守。元警官で銃器の扱いに長けている
- ウィリー:若手看守。徹底抗戦に対しては否定的で、シモンを引き渡すべきと主張するが、やるとなれば我が身を顧みず戦う。
- ラケル:受付嬢。妊娠中
囚人
- シモン・ラゴ:通称ワニ。3年前に9名を惨殺したスペイン史上まれに見る殺人犯。何かしらの重大機密に通じているらしく、裁判所での証言を控えた彼を連れ去るために謎の武装集団がバルカ・ヒルにやってきた。
- チェロキー:ロン毛&バンダナに義足の囚人で、刑務所内のリーダー格だった枢機卿を殺害して囚人のリーダーとなる。実はどさくさに紛れて脱獄しようとしている。マヌエラに対して好意を抱いている。
- マヌエラ:一見すると大人しい女性だが、エマという凶暴な人格を持っている。チェロキーと共に脱獄することを決意する。
- カルメロ:チェロキーと共に脱出経路を掘っている初老の囚人。犯罪者だが一定程度の倫理観を持ち合わせている
- ヌリア:短髪の若い女囚。協調性がなく、衝動的で暴力的。
- 枢機卿:囚人のリーダー格で、小児愛者。本件においては配下の囚人たちに看守の指示に従うなと命じていたが、チェロキーに殺される。
襲撃者
- 最後の砦の男:リーダー格。警察官のようだが、名前も素性も不明。
- ルソ:部隊で陣頭指揮を執る立場にいるが、一定の倫理観はあるようで、人質に乱暴することをよしとはしない。最初の脅しが通用しなかった時点で半分心が折れており、一応はリーダーの言うことに従ってはいるが、腹落ちはしていない様子。
- サラ:施設の設備を操作して部隊をナビゲートしているが、実はバルカ・ヒルの元囚人。幼少期には天才児だったが、両親を殺害した罪で服役していた。チェロキーとは元チェス仲間。『ドラゴン・タトゥーの女』のリスベットを意識したと思われるキャラだが、女優さんが眉を剃ることを拒否したのかメイクで眉を消しているだけなので、なんか変。
その他
- ローラ:ロカ所長の長女。ホームパーティよりも仕事を優先した父に腹を立てて母親の家に一人で向かったところを、誘拐犯に捕まった。
- アリシア:ロカ所長の次女。父と共にバルカ・ヒルを訪れた。
- ギレ:ロカ所長の末子。アリシアと同じく、バルカ・ヒルにいる。
- ローサ:ローラを監禁している中年女性だが、彼女自身は悪人ではないようで、自分がしていることへの葛藤を抱えている
感想
酷評されるも普通に面白かった
IMDBを見るとスコアが5.8、ロッテントマトの視聴者スコアは32%(どちらも2022/7/28閲覧)と、かなり低調な様子の本作。
最後の最後に凄まじいボムがあって、確かにこれを高評価できないという点には納得がいくのだが、裏を返せば最後以外は良かったということ。私は普通に楽しめた。
収監中の凶悪犯を奪いに来た武装集団に対し、施設管理者側は籠城戦を挑むというスペイン版『要塞警察』(1976年)。襲撃を仕掛けてくるのはギャングではなく警官隊なのでリメイク版の『アサルト13』(2005年)に近いか。
対象となるのがレクター博士ばりの連続殺人犯だったり、舞台となるのが精神科矯正施設なのでその他の囚人たちも不安定だったりと、扉の内側も決して安全ではないという点が本作の特色となっている。
実際、外敵との攻防戦よりも施設内での意見調整にドラマの比重は置かれており、管理下にある囚人を引き渡すわけにはいかないとする所長に対し、さっさと凶悪犯を引き渡して安全を確保することが他の囚人に対する責任だと主張する者もいる
また囚人達も一枚岩ではなく、巨大な外敵を目の前にして看守との共闘を唱える者もいれば、日頃のルサンチマンを爆発させて看守への不服従を表明する者もいる。
同じく襲撃者側も一枚岩ではなく、リーダー格こそ押せ!押せ!の一辺倒だが、不意撃ちが失敗した時点で「ヤバイんじゃないの?」と及び腰になる者もいるし、無関係な囚人に犠牲を出すことを躊躇う者もいる。
タイトなアクション映画として製作されることの多い籠城ものを、たっぷりの時間を使えるテレビシリーズで製作した結果、この特殊状況を深掘りする群像劇として換骨奪胎されている。この構成は素晴らしいと感じた。
後半の怒涛の捻り
そして後半に入ると物語の趣旨は籠城戦からさらに外れ始める。
所長は長女を誘拐されて脅しをかけられており、当然のことながらそれは施設を取り囲む武装集団の手の者かと思っていたのだが、実は別の勢力だったことが判明する。
そしてただ巻き込まれただけだと思ってきた所長も、この一連の謀略の関係人物の一人であるということも分かってくる。
ドラマの根底にある謀略は想像以上に根深く、善悪で色分けできるほど単純でもない。
この捻りには意外性を突かれたし、面白かった。
そこで終わるんか~い! ※ネタバレあり
かくして終盤に向かってドラマはすさまじい加速をするのだが、なんとなんと、最終回は何らの解明もなされないまま「次回へ続く」で終わる。
全6話のミニシリーズか何かだと勝手に勘違いして見た私も悪いのだろうが、まさか長期構想のあるシリーズの第1シーズンだとは思わなかったので、何も解決せずに終わったことには腰砕けになった。
百歩譲って長期構想のあるシリーズだとしても、あまりにも解決しなさすぎである。本当に何も解決しない、何の謎も解けないまま終わってしまう。
完全に収束しないまでも、話に一区切りついたところでシーズンを終わらせるべきだろう。
この恐ろしい尻切れ感が、前述したIMDBやロッテントマトでの低評価につながっているのだろうと思う。
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