【凡作】ウォーターワールド_見るに値する失敗作(ネタバレなし・感想・解説)

SF・ファンタジー
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(1995年 アメリカ)
底抜け超大作の代名詞とも言える作品なのですが、驚くようなスペクタクルがあって、言われるほど悪い映画ではありません。グダグダなドラマや不安定な世界観には、この際目をつむってあげましょうよ。

©Universal Pictures

あらすじ

温暖化によりすべての大陸が水没した未来の地球。名無しの流れ者(マリナー)は命を救われた恩義で少女エノーラとその保護者ヘレンを船に乗せ、エノーラの背中の入れ墨が示す”ドライランド”を目指す。ドライランドとは地球上に唯一残っているとされる陸地であり、海賊「スモーカーズ」もドライランドへの鍵となるエノーラを狙っていた。

作品解説

元はB級SFだった

本作の脚本を書いたのはピーター・レイダーという人物であり、この人の代表作は共同監督として参加した1990年の『地獄の女囚コマンド』。

本作の企画も最初はB級映画の帝王ことロジャー・コーマンに持ち込まれたのですが、製作費が300万ドル未満に収まらないとの理由で却下されたと言われています。この時点では子供の冒険物語だったようです。

6名の脚本家、36本の草稿

その後に何があったのかは知りませんが大手スタジオのユニバーサルと世界一のスターだったケビン・コスナーの手に渡り、1993年に『逃亡者』を大ヒットさせ、後に『アライバル-侵略者-』(1996年)や『ピッチブラック』(2000年)などSF畑の脚本家として活躍することとなるデヴィッド・トゥーヒーをリライトに起用。トゥーヒーは『マッドマックス2』を参考にしたと言い、彼によって大人向けのダークなSF大作に生まれ変わりました。。

脚本家としてクレジットされているのはレイダーとトゥーヒーの2名のみなのですが、関わった脚本家は合計6名で、36本もの草稿が書かれたと言われています。これだけ書き直しが続く大混乱状態で、最後に声がかかったのが後に『アベンジャーズ』(2012年)、『ジャスティス・リーグ』(2017年)を監督するジョス・ウェドンでした。ウェドンによると、現場は地獄のようだったとのことです。

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製作費大幅超過の現場

本作の製作に当たって、ケビン・コスナーとケビン・レイノルズは大規模な海上撮影を行うこととしました。『ジョーズ』(1975年)で痛い思いをしたスピルバーグからは海上撮影はやめておけと警告されていたのですが、その思いは二人に届かなかったようです。

撮影のため巨大なオープンセットをハワイ沖に建造したのですが、ユニバーサルは現地の気象調査に金を使わなかったことから、撮影クルーは20メートル/秒の強風に悩まされることとなりました。この強風でセットが流されていき、何度も撮り直しが必要になったのです。

さらにハリケーン警報によって撮影が3度もストップ。迫る公開日と日々浪費されていく膨大な人件費で、プロデューサーも務めたケビン・コスナーは毛の抜ける思いだったことでしょう。

そんな浪費の中で当初計上されていた予算1億ドルはすぐに使い切ってしまい、最終的な製作費は1億7500万ドルにまで膨れ上がっていました。これは当時としては史上最高の製作費でした。

降板した監督がクレジットされ続けているという問題

興行的にはまずまずの成果

本作は赤字映画の代表格として挙げられることが多いのですが、実は興行的にはそれなりの成果を上げています。

1995年7月28日に全米公開されると2週連続No.1を獲得。サンドラ・ブロック主演の『ザ・インターネット』(1995年)やデンゼル・ワシントン主演の『ヴァーチュオシティ』(1995年)など同時期に公開されたライバルが押しなべて弱かったという幸運にも恵まれました。

全米トータルグロスは8824万ドル、全世界では2億6421万ドルをかせぎ、年間興行成績では第9位というまずまずの結果を残せています。

莫大な製作費も後のビデオ販売やテレビ放映権販売を加味すると回収できているようで、実は赤字ではないというのが実体です。

感想

豪勢かつユニークな見せ場が楽しい

本作は『タイタニック』以前ではもっともコストがかかった作品であり、その豪勢な見せ場には目を見張るものがありました。

前半の舞台となるアトール(環礁)と呼ばれる海上都市のために、2200万ドルかけて重さ1000トン、円周400メートルもの巨大なオープンセットをハワイ沖に建造。このアトールが圧巻で、物凄いものを見せていただいたという満足感を味わうことができました。

海面に浮かぶ巨大セットを見よ!
©Universal Pictures

加えて見せ場には何一つ平凡なものがなく、アトールが海賊に襲われるハイライトでは、海に潜ったりジャンプ台を飛んだりしながらアトールの城壁を攻略するジェットスキー集団という意表を突いたアクションが炸裂します。

現在ならCGを使って多くを表現するであろうこれらの場面が実物大セットと生身のスタントマンで表現されていることも大きく、現在の目で見ると公開時以上の感動と驚きがありました。

文字通り金を湯水のごとく使った見せ場
©Universal Studio

ヒロイックなメインテーマが良い

午後のロードショーのオープニングにも使われているのでかなり耳に馴染んでいるのですが、本作のテーマはなかなかかっこいいんですよね。もし作品の評判が良ければ、映画史上の名スコアの仲間入りをしていたとすら思います。

本作の音楽には当初マーク・アイシャムが起用されていたのですが、エスニックなテーマで主旋律が弱かったことから、ケビン・コスナーはこれを却下。代わって起用されたのがジェームズ・ニュートン・ハワードでした。

彼はもともとエルトン・ジョンのキーボード奏者をやっていた人で、80年代半ばから映画音楽の作曲をやるようになり、1993年の『逃亡者』でオスカーノミネートという実績がありました。2005年の『キング・コング』でもピーター・ジャクソンと意見が合わずハワード・ショアが下りた現場を引き継いでおり、限られた時間で監督の意向を具現化することに長けた人なんだろうと思います。

ただし、話が面白くない

見せ場の配置が悪い

前述の通り、アトールとこれを襲撃する海賊の攻防戦は素晴らしい見せ場だったのですが、これが開始後40分での出来事なんですよね。一番良い見せ場が最初にあるので、その後の90分は退屈させられました。

流れ者と少女のドラマに面白みがない

ケヴィン・コスナー扮する名無しの主人公と、冒険の鍵となる少女・エノーラの交流が作品の横糸となるのですが、この二人の関係性が全然面白くありませんでした。

エノーラが可愛げのないこまっしゃくれたガキで、観客がウザイと感じるキャラなんですよね。当初、主人公はエノーラに冷たく当たり、観客は「子供にそんなひどいことをしなくても」と思うべきだったのですが、むしろこんなガキンチョによく我慢していられるなという状況となっています。

加えて、二人が仲良くなる過程が唐突だったり、仲良くなった後の主人公の丸くなり方が尋常ではなかったりで、ドラマがうまく流れていませんでした。

ヘレンとエノーラの関係性がよく分からない

ジーン・トリプルホーン扮するヘレンは血の繋がらないエノーラの保護者として振る舞い、彼女のためなら危険も省みないほどの母性を見せるのですが、なぜヘレンがエノーラにここまで入れ込んでいるのかがよく分かりませんでした。

ドライランド出身のエノーラがいかにしてヘレンの元にやってきたのか、そしてなぜヘレンがこの厳しい世界においてエノーラの保護者になるに至ったのかといったキャラクターの背景をきっちりと描いて欲しいところでした。

主人公がウソをつく理由が分からない

ヘレンとエノーラを同乗者にした際に、主人公は「ドライランドに行ったことがある」と言います。後にこの発言はウソであることが判明するのですが、こんなヘタなウソをついた理由が分からないんですよね。

主人公にとってヘレンとエノーラは命を救われたことで同乗者として受け入れざるをえなくなった迷惑な客であり、この状況で「ドライランドがいる」と言って二人を引き付けておく意味がないのです。その時点での主人公の心境を考えると、むしろ「ドライランドなんて見たことも聞いたこともない。そんなもの伝説でしかない」と言って二人を突き放す方が自然だったような気がします。

設定に不整合が多い

水没した世界という着想こそ面白いものの、細部に不整合が発生していてSFマインドに欠ける作品だという印象を持ちました。

  • 序盤にて「ご先祖様がこんな世界にしてしまった」というセリフがある一方で、別場面では「人間はきっと陸地の生き物なのよ」という水没後の世界しか知らない前提のセリフがあり、この世界の人々の認識が一定ではない。
  • 中盤の物々交換でたった2枚の紙が貴重品として扱われ、主人公はこの紙欲しさにヘレンに体を売ることを強要したが、後半では雑誌と思われるかなりまとまった量の紙が主人公の船から出てくるし、エノーラは白い紙に落書きをしていたりする。
  • 真水は価値の高い資源とされているが、主人公は尿をろ過して真水にする装置を持っており、このテクノロジーがあれば海水を真水にすることも簡単ではないか。
  • 紙や植物が貴重品なのに、タバコはバラ撒くほど大量にある。

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