降板した監督がクレジットされ続けているという問題

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問題提起

最近『ボヘミアン・ラプソディ』を鑑賞して作品内容に非常に感動したと同時に、X-MENのブライアン・シンガーがまさかこんな堂々たる音楽映画を撮ったのかという感慨もあったのですが、後々調べてみるとシンガーは全体の2/3を撮影したところで降板しており、彼の制作会社であるバッド・ハット・ハリーはクレジットから外されたものの、監督組合の規程でシンガーのクレジットは残り続けたようです。なお、シンガーの代打を務めたデクスター・フレッチャーは本作の手腕、つまりボヘミアン・ラプソディを傑作にしただけでなく、当初の監督が去っていくほど混乱した現場を立て直したというコントロール能力もおそらく込みで評価され、今度はエルトン・ジョンの半生を描く『ロケットマン』の監督に指名されたということです。

ここで引っかかるのが、この組合の規程って一体どうなのよということです。ある仕事が複数人の手を通過した場合、その成果物は途中で降りた人ではなく、最終的に完成させた人の影響をもっとも受けているはずであり、クレジットされるべきは引き継いだ人の名前だと思うのですが。そこで、クレジット表記と実際の監督が違う映画をまとめてみました。

事例

ボヘミアン・ラプソディ(2018年)

  • クレジット上の監督:ブライアン・シンガー
  • 作品を完成させた人:デクスター・フレッチャー

ジオストーム(2017年)

  • クレジット上の監督:ディーン・デヴリン
  • 作品を完成させた人:ダニー・キャノン

ジャスティス・リーグ(2017年)

  • クレジット上の監督:ザック・スナイダー
  • 作品を完成させた人:ジョス・ウェドン

デッドフォール(1989年)

  • クレジット上の監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
  • 作品を完成させた人:アルバート・マグノーリとシルベスター・スタローン

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016年)

  • クレジット上の監督:ギャレス・エドワーズ
  • 作品を完成させた人:トニー・ギルロイ

ギャレス・エドワーズは幼少期に見た『スター・ウォーズ』の影響で映画界への進路を決め、VFXクリエイターとしてキャリアをスタートさせました。2010年に2名の俳優と5名のスタッフで制作した『モンスターズ/地球外生命体』が超低予算ながら絶賛されたことから以後は監督業をメインにし、初の大作である『GODZILLA ゴジラ』も大成功させたことから念願のスター・ウォーズから声がかかり、同シリーズ初のスピンオフ実写映画『ローグ・ワン』の監督に抜擢されたのでした。

エドワーズは果敢にリスクをとって冒険するタイプの監督であり、かつ、外部からの干渉は最小限にとどめて遂行したいタイプだとも報じられています。その上、『ローグ・ワン』では従軍映像の再現を目指していたことからエドワーズはあえて事前に多くのことを決めずハプニングに委ねて撮影を進め、編集で繋げてみて最良の見せ方を探るという方針をとっていたのですが、この方法だとプロダクションの最中には撮影した素材の良否の判断がつかず、随時の軌道修正ができないという問題を抱えていました。

こうして製作されたファーストカットを見たディズニー幹部は、何がどう悪かったのかは明かされていないもののとりあえず出来には大いに不満を持ったようで、2016年12月公開が迫る中で7月に本編のほぼ半分を撮り直すという決定を下しました。そして新監督としてはジェイソン・ボーンシリーズの脚本家として有名であり、また『フィクサー』ではアカデミー作品賞や監督賞にノミネートされた経験を持つトニー・ギルロイが呼ばれました。ギルロイによると、現場はこれ以上悪くなりようがないほどの状態だったということなのですが、彼は奇跡的に立て直しに成功してシリーズ屈指の傑作との評価を得るところにまで持っていきました。

なお、ディズニーのスター・ウォーズは監督降板騒動が頻繁に発生することで悪名高く、『ローグ・ワン』に次ぐスピンオフ第2弾(噂ではボバフェットのオリジン)を監督する予定だったジョシュ・トランクは『ファンタスティック・フォー』の撮影中に起こした一連の問題行動が原因で現場管理能力に問題ありと見られて降板。『エピソード9』の監督に内定して脚本の執筆に入っていたコリン・トレヴォロウは『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』の興行的・批評的失敗と、批判に対してSNSで子供じみた反論をしたことが問題視されて降板し、『フォースの覚醒』を史上最高のヒットに導いたJ・J・エイブラムスがシリーズに呼び戻されました。また『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では撮影終了の数週間前にフィル・ロード&クリス・ミラー監督が降板し、ベテラン監督・ロン・ハワードに交代して全体の85%が撮り直されました。

13ウォーリアーズ(1998年)

  • クレジット上の監督:ジョン・マクティアナン
  • 作品を完成させた人:マイケル・クライトン

『ジュラシック・パーク』や『ER』の原作者であるマイケル・クライトンが1976年に発表した『北人伝説(原題:Eaters of the Dead)』の映画化企画であり、監督は『プレデター』、『ダイ・ハード』『レッドオクトーバーを追え』で男性映画の雄と見られていたジョン・マクティアナンでしたが、撮影から公開までには2年を要しました。

その理由はテストスクリーニングの結果が悪く何度も差し戻されたことであり、その過程でジョン・マクティアナンは現場を去り、本職は作家ではあるものの1973年の『ウエストワールド』や1984年の『未来警察』で監督業の経験もあった原作者のマイケル・クライトンがこれを引き継ぎました。当初8,500万ドルだった製作費は再撮影によってどんどん膨れ上がり、最終的には当時としては破格の1億6,000万ドルもかかったと言われていますが、かけられた予算はきちんと画面に反映されておらず、記録的な製作費がかけられた超大作にはどうやっても見えないという点が苦しかったです。

公開当時は酷評され、全世界でも6,100万ドルの興収しかあげられなかったものの、バイキングの男らしさやヴェンドルのいかがわしさはなかなか良く、異文化交流ものとしてもそこそこにまとめられていて、個人的には嫌いではない映画です。

(噂)ウォーターワールド(1995年)

  • クレジット上の監督:ケヴィン・レイノルズ
  • 作品を完成させた人:ケヴィン・コスナー

ケヴィン・レイノルズが脚本・監督を務めた1985年の青春映画『ファンダンゴ』はスピルバーグ主宰の映画スタジオ・アンブリン・エンターテインメントの第一回作品として制作されましたが、同作で無名時代のケヴィン・コスナーを主演に起用したことがこのコンビの始まりでした。コスナーは1990年の監督デビュー作『ダンス・ウィズ・ウルブス』においてスペシャルサンクスとしてケヴィン・レイノルズをクレジットするほどの蜜月ぶりであり、そして二人が監督・主演として再度組んだ1991年の『ロビン・フッド』は年間興行成績が『ターミネーター2』に次ぐ第2位という大成功(ちなみに3位は『美女と野獣』)。そんなハリウッドの黄金コンビが三度組んだのが『ウォーターワールド』でした。

しかしこの映画のプロダクションは困難を極めました。6名もの脚本家が雇われて36回もの脚本の書き換えが行われ、最後に雇われたのは脚本の直し屋として有名であり(『スピード』『トイ・ストーリー』etc…)、後に監督として『アベンジャーズ』を撮り、また最近では当初の監督が現場を去った『ジャスティス・リーグ』を完成させたジョス・ウェドンでした。キャリアにおいて多くの修羅場をくぐり抜けてきたウェドンをして、本作の現場は地獄のようだったとのことでした。

まとまらなかったのは脚本だけではなく撮影現場もであり、ハワイ沖に建造された巨大セットは気象の影響をモロに受け、ハリケーンで三度も撮影が止まりました。さらには、撮影期間中、ケヴィン・コスナーが一泊4,500ドルもするヴィラに宿泊していたのに対して、スタッフ達は空調の効かないボロマンションに詰め込まれていたことから現場の士気も下がっていました。コスナーが裸の王様状態だった中で(彼は個人資産から作品に2,200万ドルも出資していたのだから王様として振る舞う資格はあったですが)多くの軋轢が生まれ、レイノルズとの見解の相違が発生したためにコスナーが監督して作品を完成させたとも言われています。本作の降板劇に関しては噂レベルであり、公に確認された事項はないのですが、レイノルズが「コスナーは好きな監督・好きな俳優とだけ仕事をするのさ」とこれを暗に裏付ける発言をしています。なお、後に二人は和解し、2012年にコスナーが製作・主演して高評価を受けたテレビのミニシリーズ『ハットフィールド&マッコイ』ではレイノルズが全3話の監督を務めました。

ペイバック(1999年)

  • クレジット上の監督:ブライアン・ヘルゲランド
  • 作品を完成させた人:ジョン・マイヤー

ジョエル・シルバー製作×リチャード・ドナー監督×メル・ギブソン主演の黄金トリオが1997年に手掛けた『陰謀のセオリー』は大ヒットにこそならなかったものの、同作の若い脚本家・ブライアン・ヘルゲランドをメル・ギブソンは大変気に入りました。また、もともと監督志望だったヘルゲランドが『陰謀のセオリー』の撮影中、リチャード・ドナーに張り付いて監督業についてのレクチャーを受けていたことも知っていたメルギブは、ヘルゲランドが映画化のアテもなく書き進めていた『ペイバック』の脚本に目を留め、もし12週間で撮れるなら監督させてやると言って彼にチャンスを与えました。この時メル・ギブソンは、ジョージ・ミラーやピーター・ウィアーの現場で監督業のレクチャーを受け、1995年の『ブレイブハート』を大成功させるに至った自身の体験を重ねたのかもしれませんね。

ブレイブハート【良作】燃える時代劇(ネタバレあり・感想・解説) | 公認会計士のB級洋画劇場
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しかし、完成した作品を見たメルギブは自分の演じているキャラクターの好感度が低いことが気になっており、また作品の一部を見せた友人のジョエル・シルバーからも「ヒーローらしくない」との感想を受け取ったことから、ヘルゲランドに修正依頼をしました。しかしヘルゲランドはこの依頼に応じず、またより良いアイデアを提示することもしなかったため、『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー脚色賞を受賞した2日後にヘルゲランドは降板させられました。このタイミングから推測するに、『L.A.コンフィデンシャル』で時の人だったヘルゲランドは自分の主張が通るものと踏んでいたのではないかと思うのですが、スタジオは新人監督ではなく実績あるスターの側につきました。なお、メルギブは降板させた後もヘルゲランドのキャリアが傷つかないよう配慮を見せており、「依然として彼を才能ある監督だと思っているが、この現場では見解の相違が発生した」とフォローしていました。

代わりにメルギブは『マッドマックス2』のテリー・ヘイズに修正部分の脚本を書かせ、また新たな監督に全体の3割の撮り直しをさせました。この監督名は長年公表されてこなかったのですが、近年になって『エリザベス』や『シカゴ』の美術担当であるジョン・マイヤーだったことが判明しています。

ヘルゲランドが当初完成させたバージョンとメルギブにより修正されたバージョンの両方がテストスクリーニングにかけられ、実はヘルゲランド版の方が高評価だったという噂が公開前からまことしやかに囁かれていたのですが、2007年にアメリカにてリリースされたディレクターズ・カット版は劇場公開版よりも優れているとのレビューが多く、この噂はどうやら本当だったようです。なお、メルギブソンが銃を構えた姿が本作のキービジュアルでありポスター等でも多く用いられていたのですが、劇場公開版本編にこのような場面はなく長らく謎のショットでした。ディレクターズカット版のリリースによって、これが撮り直し前のクライマックスの銃撃戦の一場面であることが判明しています。

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