(2003年 アメリカ)
現ヘビー級チャンピオンのアイスマンが強姦罪で服役するが、収監された刑務所には刑務所対抗ボクシングで10年間無敗を誇るモンローという囚人がいた。ボクシングファンの大物マフィアが二人の間に入り、試合が組まれることとなる。
言わずと知れた男性映画の雄。60年代後半に助監督としてキャリアをスタートし、1972年の『ゲッタウェイ』『殺人者にラブソングを』より脚本家に転向。1975年にチャールズ・ブロンソン主演の『ストリート・ファイター』で監督デビューし、キャリア最大のヒット作はニック・ノルティとエディ・マーフィーをコンビにした『48時間』シリーズ。
男臭い作風とハードな暴力描写が彼の売りなのですが、本作の直前期にはブルース・ウィリス主演で黒澤明の『用心棒』をリメイクした『ラストマン・スタンディング』、宇宙を舞台にしたスリラー『スーパーノヴァ』を連続してコケさせており、舞台を小さく設定した原点回帰の本作で復調しました。
『エイリアン』第一作のプロデューサーの一人だったことからエイリアン関係の映画では必ず彼がクレジットされており、映画ファンなら何となく名前の認識はあるのですが、この人が一体何者なのかはあまり知られていません。
『エイリアン』以外にも脚本家としての実績はしっかりとあって、1962年頃からテレビドラマの脚本を書いていたという、実はかなりのベテランです。脚本家としての代表作は1974年にウォーレン・ベイティ主演、アラン・J・パクラ監督で製作されたポリティカル・スリラー『パララックス・ビュー』。その他、ジム・キャリー主演のリメイクも製作された1977年のコメディ『おかしな泥棒ディック&ジェーン』、カルト的な人気を誇るウォルター・ヒル監督のスリラー『サザン・コンフォート~ブラボー小隊 恐怖の脱出~』、コメディ俳優時代のトム・ハンクス主演の『マネー・ピット』と、スリラーとコメディという不思議な二本柱でやっています。この辺りのフットワークの軽さは、テレビ界出身ならではというところでしょうか。
90年代前半にはスパイク・リー監督作の常連で、1997年にはナスターシャ・キンスキー(通称ナタキン)と不倫カップルを演じた『ワン・ナイト・スタンド』でヴェネツィア国際映画祭主演男優賞受賞と、娯楽と演技を両立したデンゼル・ワシントンみたいな路線で来ていたウェズですが、自らプロデュースした1998年の『ブレイド』で何かが吹っ切れたのか、以降はB級アクション路線を突き進んでいました。
そんな時代のウェズがウォルター・ヒルと奇跡の出会いを果たしたのが本作ですが、脂の乗っていた頃のウェズには刑務所チャンプらしい威厳があり、かつ、複数の武術を習得したウェズの圧倒的な動きが役柄への説得力にもなっていました。
『ミッション:インポッシブル』ではトム・クルーズとただ二人、シリーズ皆勤賞を続けている人なのですが、90年代には『パルプ・フィクション』でのジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンの上司にして、ブルース・ウィリスにイカサマ試合を強制するヤクザの親分役、『コン・エアー』でのリーダー格の囚人役、『アウト・オブ・サイト』でのジョージ・クルーニー扮する銀行強盗の相棒役と、強面の犯罪者役を得意としていました。『ミッション:インポッシブル』にしても、一見すると強面のルーサーがハッキング担当というギャップを狙ってのキャスティングでした。
本作で演じるアイスマンはマイク・タイソンをモデルにしているのですが、レイムスほどイカツイ俳優がいてこそ、この常人離れした役柄が具体化できています。動きはウェズに譲っているのですが、キャラ構築の面では彼がリードしています。
刑務所内には誰からの干渉も受けない大物ヤクザ・リップスタインや、黒人グループを束ねるサラディンのようなやたらキャラ立ちした囚人がいて、彼らの定めるローカルルールが蔓延っているという描写は、まさにウォルター・ヒル印。また、腕っぷしなら誰にも負けないアイスマンが刑務所内の派閥を無視して「オラオラ~!」と突き進んでいく様にはある種の爽快感があって、やはり犯罪者を描かせるとヒルは活き活きしていますね。
撮影には実際の刑務所が使われており、模範囚をエキストラとして使ったという本物の迫力も、ドラマの説得力に繋がっています。
本作はスポーツものとしても優れています。ヒル自身がボクシングファンということもあって、現実のスポーツの試合に付き物である場の一体感というものの表現に成功しており、ファイト場面は大変な興奮に溢れていました。
囚人ものなので、当然のことながら善人は出てきません。マッチメイクをしたリップスタインは、当初モンローとアイスマンをおもちゃのように扱っており、「俺が見たいと言ってるんだから、その通りにやってればいいんだよ」みたいなことを言うのですが、試合が近づくにつれて純粋なボクシングファンとしての顔を覗かせるようになります。また、この対戦の裏では娑婆の子分に闇賭博をやらせて儲けるという目的もあったものの、途中からは金儲けなんてどうでもよくなって、モンローとアイスマンのガチンコ勝負を見たいんだという思いを強くしていきます。
金儲けに関連して、闇賭博を仕切るマフィアはイカサマ試合を持ちかけてくるのですが、リップスタインの世話係のチューイは「リップスタインさんはそんなこと望んでいない」と実に分かった発言をしてこれを断ります。この阿吽は気持ちよかったですね。
サラディンにしても、どうしてもアイスマンを負けさせたいサラディンは「俺がアイスマンの食事に細工してやる」と言ってモンローに不正を持ち掛け、これを断られるのですが、いざ試合が始まると従前の恨みつらみは忘れて試合に熱中します。
いろいろと裏を持った悪人たちが好カードを目の前にして、「純粋にこの試合を見届けたいんだ」という思いに転換していく。その様を描けているので、とても熱いものがありました。
モンローとアイスマンもまた、当初は金が欲しいとか釈放のチャンスが欲しいということでリップスタインの組む試合に乗ったのですが、いざトレーニングに入ると目の前の強敵に勝ちたいんだという戦士としての本能をむき出しにします。損得とか理屈ではなく、本能で戦う男の姿にはやっぱり燃えますね。
加えて本作の構成はよくできていて、モンローとアイスマンの両方が、タイプこそ異なるものの共にヒーロータイプであり、話の筋的にどちらが勝ってもおかしくないシチュエーションにあるので、観客の側も最後の最後までどちらが勝つのかが分からず、試合展開には否応なしに注目させられました。
刑務所内でも試合前にはちゃんと国歌斉唱があるのですが、異常にアレンジされていて笑ってしまいました。加えて、囚人によるマイクパフォーマンスがうますぎて、こちらも笑いどころとなっています。この辺りにも、『48時間』や『レッドブル』のようなアクションコメディを撮ってきたウォルター・ヒルの経験が活かされています。
動ける男・ウェズは実際に世界チャンピオンも受け持っているトレーナーの指導を受け、本物のプロボクサーにしか見えない動きをしています。この説得力は『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロを完全に超えたと思います。
ヴィング・レイムスの方はウェズほどのレベルには達していないのですが(アクション俳優じゃないんだから当然ですが)、こちらは本作の直前まで別のボクシング映画のために2年かけて体を造っており、見た目の説得力ではウェズを凌いでいました。なお、レイムスが関わっていた別のボクシング映画は撮影前に企画が潰れたようです。
オーディエンスの視点とボクサーの視点を巧みに切り替えながら試合を見せるウォルター・ヒルの演出も絶好調であり、ファイトシーンは見ていて本当に楽しめました。
囚人ものとスポーツものの融合に見事に成功しており、一癖も二癖もある悪人たちがスポーツの前で純粋さを見せるという点には、やはりドラマと興奮が宿っています。他に『ミーン・マシーン』『ロンゲスト・ヤード』なども存在する塀の中のスポーツものの中では、本作が最高の出来ではないでしょうか。
≪刑務所映画≫
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