ブラッド・スローン_善良なお父さんがヤクザの幹部に【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2017年 アメリカ)
交通事故で服役したエリートサラリーマンが犯罪グループ内で出世しゴリゴリのヤクザになるという、概要だけ聞くとワクワクしそうな成り上がりムービーを期待させられるのですが、実際には犯罪ってイヤだなぁ、刑務所って怖いなぁということをイヤになるほど思い知らされる重厚なドラマでした。

あらすじ

投資銀行に勤めるエリートサラリーマンのジェイコブ(ニコライ・コスター=ワルドー)は飲酒運転による交通事故で同乗者を死なせ、16か月の懲役刑を受ける。ジェイコブは刑務所で生き残るため白人グループに所属するが、グループからの指示で悪事に手を染めるうちに刑期が伸びていき、結局10年の服役となる。

10年後、ジェイコブは犯罪グループ内で登り詰めており、出所後にはボスのビーストからの指示で密輸した武器の闇取引を任される。

スタッフ・キャスト

製作・監督・脚本は『オーバードライヴ』(2013年)のリック・ローマン・ウォー

監督のリック・ローマン・ウォーは、スティーヴン・ドーフが家族との再会を願って刑務所での囚人や看守の嫌がらせに耐える『プリズン・サバイブ』(2008年)、ドウェイン・ジョンソンが投獄された息子の釈放を条件に危険な潜入捜査に挑む『オーバードライヴ』(2013年)など、犯罪映画ばかりを撮っている人です。最大のヒット作はマイク・バニングシリーズ第3弾『エンド・オブ・ステイツ』(2019年)で、全米初登場No.1を獲りました。

主演は『ゲーム・オブ・スローンズ』のニコライ・コスター=ワルドー

主演のニコライ・コスター=ワルドーは、大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で主要登場人物の一人ジェイミー・ラニスターを演じました。

『ゲーム・オブ・スローンズ』では本来人間味のある人物だが、覚悟を背負って行った悪王の暗殺がきっかけで汚名を受けることになり、以降はひねた性格になったという善悪両面を持つ複雑な役柄を演じていましたが、本作も同じくです。

元はエリートサラリーマンだったが刑務所に入ったことで悪の道をまっしぐらという振れ幅の大きなキャラクターを見事に表現しています。

共演は『パニッシャー』のジョン・バーンサル

服役中の主人公を本格的な極道の世界に引き込むショットガン役は、監督の前作『オーバー・ドライヴ』(2013年)にも出演し、Netflix版『パニッシャー』でも犯罪の世界に生きる男パニッシャーを演じていたジョン・バーンサルです。最近では『フォードvsフェラーリ』(2019年)などの普通の映画にも出演していますが、やはり彼には犯罪映画が似合いますね。

感想

サラリーマンからヤクザに転身したお父さん

映画は主人公ジェイコブ(ニコライ・コスター=ワルドー)が長期のお勤めから出所するところから始まります。ジェイコブが刑務所を出ると早速舎弟にお出迎えされ、お付きの若い衆を当てがわれて出所祝いのパーティーへと連れて行かれます。

もはや犯罪界の大物の風格を漂わせているのですが、本編と並行する回想によって、今に至るまでのジェイコブの過去の物語が描かれます。

ジェイコブの前職は投資銀行に勤めるエリートサラリーマンで、ちょっと良い家に妻子と一緒に暮らす順風満帆な人生を送っていました。しかし飲酒運転が原因で起こした交通事故で同乗者を亡くしてしまい、服役囚となります。

「刑務所はヤバイ場所で、一度目を付けられると徹底的にやられるぞ」という弁護士からの忠告を真に受け過ぎたジェイコブは、入所していきなり喧嘩をして所内の注目をかっさらい、白人グループからのスカウトを受けます。

その後も真面目なジェイコブはモノを運べだの、乱闘に参加しろだのといったグループからの指示をすべてこなしていき、犯罪者内での評価を上げていくと同時に、どんどん刑期が加算されていくという悪循環に陥ります。

気が付けば、元は16か月だった刑期は10年にまで伸び、出所する頃には全身タトゥーだらけのゴリゴリのヤクザに変貌していました。こんな姿を大事な妻子には見せられないということで、家族との連絡もシャットアウト。真面目さゆえに完全に違う世界の住人になってしまったのでした。

アメリカの刑務所の実態

公式HPの情報によると、リック・ローマン・ウォー監督は仮釈放監察官として2年もの長期に渡って潜入取材を行い、その結果として刑務所とそこを牛耳るギャングの実態を把握したと言います。そして、本作のジェイコブの物語を通してアメリカの刑務所の実態を描き出しています。

もともとジェイコブは犯罪とは無縁の人生を送っていたのですが、運悪く収監され、孤立することに大きなリスクの伴う刑務所内で特定グループに所属したことから、犯罪行為への加担を余儀なくされます。

加えて、服役囚の中には元軍人が何人かいて、彼らは軍隊式のトレーニングで仲間達を鍛え上げています。従前の刑務所映画でも服役囚達がバーベルを上げて体を鍛えることはよくある光景でしたが、本作ではそれよりもさらに上のトレーニングが行われているという実態が描かれます。

かくして、アウトロー気質と戦闘スキルを併せ持った本物の犯罪者が作られていくのですが、ここまで来ると刑務所は更生のための施設どころか、プロの犯罪者の養成施設です。

成り上がり物語をもっと見たかったかも

本編を見ていて若干違和感を覚えたのは、主人公ジェイコブとショットガン(ジョン・バーンサル)の関係でした。

回想パートではショットガンが先輩風を吹かせており、彼がジェイコブに命令するという関係性だったのですが、出所後の現在パートではむしろジェイコブの立場が上で、迂闊な行動をとるショットガンを叱りつけたりもしています。

服役中にジェイコブがどんどん成り上がっていき、どこかで地位が逆転したんだろうと思います。本筋に直接関係のない部分なので端折られてはいるのですが、それはそれで面白そうなので見てみたい気もしました。

刑事の存在感が薄い

ジェイコブの娑婆での悪事を追うのはエド・カッチャー刑事(オマリ・ハードウィグ)。カッチャーは刑事なのに腕などにタトゥーが入っていて、ヤクザ者をやっていてもおかしくない風貌となっています。元カタギだがヤクザになったジェイコブと対を為す存在がこのカッチャー刑事だったと言えます。

カッチャーは職務に生き、上から休めと言われても現場に出たくて仕方のない性分を持っています。ただし直近で幼女誘拐犯の逮捕時に犯人からの銃弾を喰らい、防弾ベストで命こそ助かったものの内心では現場に対する恐怖心も抱くようになっています。

そして現役捜査官でありながら現場に対するおそれというノイズを抱えていることが、ヤクザ者でありながら家庭や社会規範というノイズを抱えているジェイコブとの間の共感の接点となり、二人の間で奇妙な連帯意識が働き始めるという目論見が企画上はあったものと推測されます。

ただし完成作ではカッチャー側の描写が弱く、彼の葛藤をまったく描写できていないので、残念ながら期待される役割を果たせていませんでした。

※注意!ここからネタバレします。

クライムサスペンスと人間ドラマが交錯するラストの感動

娑婆に出たジェイコブはアフガンから密輸された膨大な量の武器の密売を取り仕切ります。というか、刑務所内から指示を出しているボスのビーストからやらないと家族を殺すと脅されているので、やらざるを得ない状況となっています。

ジェイコブはカッチャー刑事のマークをかわしつつ計画を進めていくのですが、同時に取引現場に警察を踏み込ませるための細工も仕込んでいきます。

そして取引当日、ジェイコブの誘導通りにカッチャーは取引現場を押さえ、ジェイコブらは逮捕されます。カッチャーはジェイコブに無罪放免と引き換えに法廷での証言を要求するのですが、ジェイコブはこれを拒否。

再度刑務所に収監されたジェイコブはビーストを殺害し、犯罪組織のトップへと登り詰めます。

ここで、ジェイコブの行動の真意が明らかとなります。自分が組織で使われているうちは、家族が脅迫のネタに使われ続ける。いつか本当に危害を加えられるかもしれない。ならば自分が猛獣達のトップになるしかないのではないか。

表面上は家族を遠ざけながらも、内面では最初から最後まで家族を守ることがすべてだった。ジェイコブの悲壮な決意には胸を打たれました。

そして、ラストでは遠ざけたはずの息子もその真意を汲み取り、あなたを赦すという手紙を送ります。犯罪映画として始まりながらも、最後は家族愛に帰着するという見事な構成となっています。

また、アメリカの刑務所システムは本来は悪人ではなく、運悪く収監された服役囚までを犯罪組織の構成員にしてしまうという問題を描き出しています。

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