(2022年 アメリカ)
シーズンを追う毎に右肩上がりに面白くなっているシリーズですが、ファイナルとなる本シーズンの面白さは過去最高でした。ミッションはより過酷に、人間ドラマはより複雑に進化し、新キャラ達も存在感を放っており、まったくもって油断のならないサスペンスとなっています。早く後編を見せて!
そもそもポテンシャルの高いシリーズではあるのですが、この最終シーズンはそんな中でも過去最高の面白さであり、第1話から第7話まで全くのダレ場がありませんでした。
麻薬王からの無理筋の要求と、新キャラ ハビエルの登場。これに、マーティ&ウェンディは容赦なく振り回されるし、新保安官や私立探偵からのツッコミも怖い。
彼らの計画は大勢が絡む複雑なものとなってきたので、どこかで連鎖が断ち切れれば全体が危うくなるという点でも緊張感は否応なく高まり、最初から最後までいや~な汗をかかされました。
そしてクライムサスペンスを基調としたホームドラマというシリーズの特徴は本シーズンでも健在であり、叔父のベンを殺されたことでジョナが不安定化し、マーティとウェンディの悩みの種となります。
また、ダーリーン・スネルとワイアット・ラングモアのカップルに、彼のいとこのルース・ラングモアも絡んできたことから、スネル家のドラマも一筋縄ではいかなくなります。
感情的な火種は方々に存在しており、何が発火点となって爆発するか分からない。こちらもまた全体の緊張感を高めることに貢献しています。
シーズン第1話では、マーティ&ウェンディに対してオマール・ナバロから最後の指令が下されます。それは、
即座に「それは無理筋ですよ」と反発する二人ですが、いつものように強引に話し合いは打ち切られ、オザークに大きな宿題を持ち帰ることとなります。
とりあえず前者はマーティが引き受け、前シーズンで手柄を与えたFBI捜査官マヤ・ミラーをうまく使おうとするのですが、堅物である彼女の扱いにはマーティもなかなか苦労させられます。
後者を担うのはウェンディですが、一方こちらはまんざらでもない様子。
前シーズンで作ったバード基金に地元の有力政治家達を引き込み、中西部最強の政治団体にしようとしており、そのうち大統領も輩出するようにしたいという遠大なビジョンを実行に移そうとします。
名目上はナバロの合法ビジネスに便宜を与えるための組織作りではあるのですが、実質的には政治活動に確かなものを感じ始めたウェンディの野望実現のための計画であり、彼女の目は今まで以上にギラギラ。
シーズン2でのカジノ建設の際に世話になった弁護士ジム・レテルスドルフをパートナーに迎え、圧力と懐柔を使い分けながら対象に迫っていき、困難な交渉を次々とモノにしていきます。
そんな勢いの中にあるので、プライベートな問題でもウェンディは強気一辺倒。
厄介なトラブルメーカー ダーリーン・スネルに対して一歩も引かないどころか、強気での反論や裏工作などを仕掛け、もはやウェンディの方が悪党と言えるほどの状態となります。
それは家庭内でも同じく。
ベン叔父さんの死に両親が関わっていたことにショックを受けるジョナに対し、にべもない態度でその苦しみを一蹴します。
そのことがジョナによる強硬な反発を招き、彼はナバロ・カルテルからマークされているダーリーン・スネルの資金洗浄の手伝いに回ってしまいます。
ここまで事態がこじれてもなおウェンディは態度を軟化させず、未成年ならば逮捕されても重罪には問われないということに目をつけて、ジョナが当局に通報されるよう細工までをします。
もはや鬼ですね。
で、やったことを咎められると「貴方のためなのよ」が口癖なのですが、子を思う親の行動という段階は遠の昔に終わっており、今や意のままにならないことに対して、強権を振りかざしているだけという状況となっています。
そんなウェンディは、大企業やカルテルを巻き込んだ壮大な陰謀を仕掛けます。その内容はこうです。
政治家、製薬会社、カルテルの三方良しの作戦ではあるのですが、当然のことながらそんな簡単に事が運ぶはずもなく、現場での調整はマーティが引き受けることとなります。
ここで問題なのが、カルテルを実質的に仕切っているのはオマールではなくハビエルだということであり、彼の存在がマーティの任務遂行を困難にします。
頭の良いハビエルは事あるごとにマーティの本心を疑ってくる。他方でハビエルの情報はFBIに取り入りたいオマールによって売られているものだから、「なんで俺のトラックがFBIに捕まるのか?内部に裏切者でもいるのか?」とハビエルの疑念が強まって、余計にマーティは動きを取り辛くなる。
そのうちハビエルは「逮捕の流れが止まるまで輸送をとりやめる」と言い出し、ケシの供給が完全に止まってしまいます。
すると困るのが製薬会社で、原材料が届かないと大損じゃないか、何としてでもケシを持ってこいと言い出します。
そこでマーティが目を向けたのがダーリーンの農場で、彼らが栽培しているケシを代替品にしようと考えます。
その購入のため、今ではダーリーンの元にいるルースに接触し、融通の目途を立てるのですが、肝心のブツはダーリーンが売った後だったので、急いでこれを買い戻しに行かなきゃいけない。
これぞ泥縄。
このパート、表面上はシリアスに演出されているのですが、あまりにも事が悪い方向に進みまくるのでほとんどコメディのようになっており、私は笑いながら見てしまいました。
製薬会社から送り込まれた元特殊部隊員のボディガードが、「俺ならあの屋敷を制圧できる」と言って、本気で売人の隠れ家を襲撃しようとして、マーティが必死に思いとどまらせようとするくだりなどは、完全にコメディの流れでしたね。
本シーズンのマーティは万事こんな感じで、ヒーヒー言いながら取引をまとめて回るという、実にお疲れさんな状況となります。裸一貫で放り出されたシーズン1より大変だったんじゃないでしょうか。
そんなややこしい状況の中でも、まっすぐに生き続けている男が一人だけいます。それはワイアット・ラングモア。
彼は、祖母と言っても過言ではない年齢差のダーリーン・スネルを本気で愛しており、彼女との生活を大事にしています。
ダーリーンはシーズン2などと比べるとかなり落ち着いてきたものの、それでも簡単に人を殺したり、メンツにこだわって厄介なトラブルを起こしたりと相変わらず元気で、その度にワイアットは驚かされるのですが、かと言ってダーリーンに対して厳しい態度をとったりはしません。
抗争に発展するリスクも考えずにカンザスシティ・マフィアのボス フランク・コズグローブを殺した時には、さすがについて行けないと思ったものの、別れを切り出そうとした場面でダーリーンが弱っているのを見るとほっとけなくなって「結婚しよう」と言います。
ワイアットはどこまでも良い男なのです。
権謀術数渦巻く物語の中で、まっすぐに生きる彼の存在は、一つの清涼剤のような役割を果たしています。
そんなドラマの流れがあったので、ダーリーンとワイアットが殺される最終話には、心底驚かされました。
自業自得的なダーリーンはともかく、何も悪いことをしていないワイアットは特に。
劇中の登場人物たちもワイアットの善性を知っているからこそ、その死は大きな動揺を与え、ルースを仇討ちへと走らせるのですが、そのことが全体にどんな影響を及ぼすのかは今のところ分からない。
いよいよ混迷を深めたところでパート1は終了であり、パート2が待ち遠しくて仕方ありません。
オザークへようこそ シリーズ
オザークへようこそ(シーズン1)_知的で面白い【7点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン2)_女たちが熱い【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン3)_夫婦の不信感【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン4 パート1)_面白さパワーアップ【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン4 パート2)_ルースが阿呆すぎる【6点/10点満点中】