(2022年 アメリカ)
大好きなシリーズなのだが、この最終章はシリーズの平均点以下だった。危機また危機の連続にはハラハラさせられたものの、知略vs知略という従前シリーズのような高度な駆け引きではなく、頭の悪い人が足を引っ張っているだけという局面も多かったのでイマイチだった。
登場人物
バード家
- マーティ・バード:メキシコの麻薬組織ナバロ・カルテルの資金洗浄を行っている会計士。PART1ではカルテルのボス オマール・ナバロよりビジネスの完全合法化を命じられていたが、FBIとの裏取引の最後のツメでマヤ・ミラー捜査官の暴発を招き、PART2ではその修復に奔走する。
- ウェンディ・バード:マーティの妻。夫と共にナバロ・カルテルの完全合法化に奔走しているが、彼女の最終目的は平穏無事にビジネスを閉じることではなく、隠れ蓑として作ったバード基金を本格稼働させて強力な政治団体を作ることにある。その野心が、周囲との軋轢につながる。
- シャーロット・バード:マーティとウェンディの娘で、ジョナの姉。18歳。両親の立場に対しては一定の理解を示している。
- ジョナ・バード:マーティとウェンディの息子で、シャーロットの弟。15歳。叔父のベンをカルテルに殺されたことで両親への不信感を持ち、現在はルース・ラングモアの経営するモーテルで暮らしている。
- ネイサン・デイヴィス:ウェンディの父で、失踪した息子ベンの捜索を私立探偵メル・サッテムに依頼し、自身もオザークにやってくる。外面こそ良いが元DV親父で、今もその性根は変わっていない。
オザークの人々
- ルース・ラングモア:従兄弟ワイアットを殺害されたことでハビエルに報復。ワイアットの件でバード夫妻とは完全に袂を分かち、カルテルの資金洗浄に使われているベル・カジノを手に入れようとする。
- レイチェル・ギャリソン:バード夫妻によって不幸になった人①。オザークのロッジ「ブルーキャット」の元オーナーだったが、カルテルの金を持ち逃げしたことからFBIへの捜査協力を余儀なくされたり、自身もヤク中になったりと散々な目に遭った。現在はフロリダでやり直していたが、フラッと現れたルースから、ビジネスパートナーになることを持ち掛けられる。
- サム・ダーモディ:バード夫妻によって不幸になった人②。もとは不動産業者だったが、バード夫妻からの依頼でストリップバーの責任者になったり、カジノでイカサマに協力しているうちに本当のギャンブル中毒になったりと散々で、現在はルースが所有するモーテルの管理人をしている。
ナバロ・カルテル
- オマール・ナバロ:ナバロ・カルテルのトップ。捜査情報の提供を行う代わりに以降の訴追を免れるというFBIとの裏取引を行ったが、マヤ・ミラー捜査官の暴発により逮捕され、現在は連邦刑務所に収監中。何者かに暗殺されかけて身の危険を感じており、バード夫妻への指示も厳しくなる一方。
- ハビエル・エリソンドロ:オマールの甥。オマール逮捕を受けて一時的にカルテルのトップに立つが、ルース・ラングモアによる報復を受けて死亡する。
- カミーラ・エリソンドロ:オマールの姉でハビエルの母。表面上は息子を失った母を装っているが、実はかなりの策士でカルテルの実権を狙っている。
その他
- クレア・ショウ:シカゴの製作会社の社長。会社の経営が傾いていた時期に、ナバロ・カルテルから薬品の原料を安価に仕入れることで材料費を浮かせ、その見返りにバード基金に多額の寄付をするという裏約束をしていた。現在はバード家やカルテルとの付き合いに不安を感じ、原材料の仕入れ先をルース・ラングモアに切り替えようとしている。
- メル・サッテム:私立探偵。元シカゴ市警の敏腕刑事だが、証拠品のドラッグをくすねたことから失職した過去を持つ。失踪した弁護士ヘレン・ピアスを探すためその夫に雇われてオザークへとやってきたが、その調査でオザークの深い闇を知る。ヘレンの夫からは解任されたが、息子ベンを探すネイサン・デイヴィスに新しく雇われた。
- マヤ・ミラー:FBI捜査官。マーティと繋がっており、FBIとオマール・ナバロの会合の設定には尽力したが、その後に翻意してオマールを逮捕した。上層部の意思決定に逆らったことから現在は閑職に追いやられている様子で、細々とメルに情報提供を行っている。
感想
やや期待外れな最終章
2022年1月に配信されたPART1は、オマール・ナバロ逮捕とダーリーン・スネル&ワイアット・ラングモア夫婦の殺害という衝撃的な幕引きを迎えた。
PART2ではこの壮絶なクリフハンガーの続きが描かれるのだが、怒涛の展開と激しい心理戦というこのシリーズの特徴は健在で、最終話まで一切気が抜けない。
ただし行き詰まれば安易な方向転換を繰り返し、不合理な行動をとるキャラクターも現れるので、ストーリーが随分と雑になったという印象も受ける。これまでのシリーズのポテンシャルを考えると、やや期待外れでもあった。
またPART1冒頭でバード家が事故に遭うという場面の暗示があって、ついにその内容が描かれたのだが、あれは本筋とは関係のないただの事故だったというネタバラシには驚いた。で、その後の展開にもあの事故はまったく影響をせず、何のためにあんな場面を入れたのかは謎である。
証人保護プログラムを受けるための事故の偽装か何かだと推測していた私としてはガッカリだった。
いい加減にしろ、ルース
遡ってPART2第一話。
オマール・ナバロ逮捕やダーリーン・スネル処刑などで計画はほぼ崩壊したが、兎にも角にもバード夫妻がやらなければならないのは、自分たちは依然としてカルテルにとって有用であるという事実の疎明と、FBIとカルテルとの間の新たな密約の締結である。これができなければ即刻処刑されても不思議ではない。
そのためにはオマールの跡目を継いだハビエルとの関係構築が重要となるのだが、これまでのハビエルはバード夫妻を信頼するというよりも怪しんできた立場なので、一筋縄ではいかない。
それでもバード夫妻は相手が断れない条件を提示することで交渉を進めていくのであるが、ここで問題となるのがルース・ラングモアの存在である。
ルースは従兄弟ワイアットをハビエルに殺されたことから怒り心頭であり、復讐しなければ気が済まんという心境でいる。
まぁその気持ちは痛いほどわかるのだが、彼女もカルテルの資金洗浄に何年も関わってきたのだから、そうは言っても牙を剥くと余計厄介になる相手だということも分かるはず。
最終的にルースは復讐を諦めるものだと思っていたので、ハビエルを撃ち殺した時には驚いた。これは「頭悪っ!」という悪い意味での驚きだが。
兎にも角にも復讐ができたことでルースが矛を収めるのかと思いきや、彼女の怒りはバード夫妻にまで及び始める。彼らがペテンで周囲を不幸にしているとか言って対抗心を剥き出しにし始めるのである。
これまた気持ちは分かるけれども、バード夫妻が選択の余地なくそうせざるを得なかった場面を今までさんざん見てきたのに、どうしてこの状況で恨み節を爆発させるのだろうか。
自分自身も北米随一の麻薬カルテルトップを殺してヤバイ立場にいるんだから、ここから先はまたバード夫妻と協力して乗り切るということにしないと、君自身のためにもならんと思うのだが。
ルースは殺されたワイアットからの相続という形で、バード夫妻が経営しているベル・カジノの持ち分の一部を所有している。この持ち分を利用して、名実ともにその経営を手中にしようとするのである。
これはバード夫妻への当てつけであることは明らかなのだが、そうは言っても夫妻だってこのカジノを任されているに過ぎず、真の所有者はナバロ・カルテルだ。
ナバロの所有物に手を出せばまた新たなハレーションが起こることはルースだってよく理解しているだろうに、それでも彼女はバード夫妻から無理矢理にカジノを取り上げようとする。カルテル対策も考えずに。阿呆である。
本シーズンでルースがとる行動の9割は阿呆すぎて見ていられなかったし、そうして彼女が場をかき乱すことで進んでいくシーズンなので、全般的に頭の悪い展開が目立った。
ウェンディは悪くない
そんなルースに振り回されっぱなしになるバード夫妻だが、夫婦内でも対応に温度差が表れ始める。
夫マーティは穏便に、折り合えるべき部分は折り合っていこうという方針なのだが、妻ウェンディは「何も渡す気はない!」という姿勢でいる。
マーティは随分前からどうやってこのビジネスから抜けるかという出口戦略を探り始めていたのに対して、ウェンディはカルテルとの付き合いで得たものを利用して本業の政治活動を広げていきたいと考えており、そもそもの目的を違えているのである。
で、当シーズンは依然としてイケイケで周囲の不幸などお構いなしになっているウェンディがヒールのような立ち位置になっているのだが、私はウェンディが悪いとは思わなかった。
攻撃こそ最大の防御という彼女の方針は理に叶っているからだ。
政治力を強めて州の政治や経済にとって大事な人間であり続けることは、ナバロ・カルテルやFBIと進めていた計画がつまずいた際の彼女らの生命線となる。
彼女は全然悪くない。それどころか私にとってはずっとヒーローだったので、彼女の言うことを理解できない奴らには、これまたイライラさせられた。
曖昧な結末も良くなかった ※ネタバレあり
紆余曲折ありつつもたいていのことはウェンディの意図していたところに収まるのだが、一つだけ問題だったのが、ハビエルの殺害犯がルース・ラングモアであり、ウェンディとマーティもそれに関わっていたという秘密をカルテルに知られたことである。
カルテルトップに収まったハビエルの母カミーラは当然怒り、ルースは殺された。
しかしバード家には手が回っておらず、彼らは許されたのか、それともこの後に処刑が待っているのかは定かではない。
そこに一度は戦線を離脱した元私立探偵メルが再登場し、やはり君らの罪を告発したくなったと言い出す。そしてバード家に置いてあったクッキージャーを証拠として取られて、これでDNA鑑定をすれば君らを逮捕できるという。
そのクッキージャーには一時期ベンの遺骨を入れていたので一家は動揺するのだが、次の瞬間にショットガンを構えたジョナが現れ、画面が暗転。銃声と共にドラマは終わる。
恐らくジョナはメルを射殺したのだろうが、銃声以外の情報がないので定かではない。ジョナが射殺したとして、彼の罪はどうなるのか、彼の精神状態は大丈夫なのかという不安も残る。またバード家がカルテルから許されたのかどうかも分からない。
そうしたスッキリしない終わり方をするのだが、なんという中途半端な終わり方をするんだろうかとがっくり来た。
『インセプション』のように曖昧なエンディングが余韻となる映画もあるが、本作はむしろ逆効果となっている。あの終わらせ方は良くなかったね。
オザークへようこそ シリーズ
オザークへようこそ(シーズン1)_知的で面白い【7点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン2)_女たちが熱い【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン3)_夫婦の不信感【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン4 パート1)_面白さパワーアップ【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン4 パート2)_ルースが阿呆すぎる【6点/10点満点中】
コメント