オザークへようこそ(シーズン1)_知的で面白い【7点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2017年 アメリカ)
麻薬カルテルのマネロン担当であるファイナンシャルプランナーが、期限内に大金を洗わなきゃいけなくなって右往左往する話。ドンパチや暴力行為は少ないものの、非力な会計屋がヤクザ達を何とか言いくるめ、許してもらいながら目的を遂行する様には、何とも言えないスリルがありました。私は好きです。

登場人物

バード家

  • マーティ・バード:シカゴのファイナンシャルアドバイザーで、友人ブルースと共に事務所を経営し、裏ではメキシコの麻薬カルテルの資金洗浄も行っている。ブルースが金をくすねた件に巻き込まれたが、咄嗟の機転でリゾート地オザークでの資金洗浄を提案し、受け入れられたことからその場での処刑は免れた。そのプランの有効性を示すため、全財産800万ドルを3か月で洗浄せよとの指令を受ける。
  • ウェンディ・バード:マーティの妻だが、仮面夫婦で弁護士と不倫している。オバマの選挙キャンペーンに参加するなど選挙活動に携わってきた経歴を持ち、オザークへの移住後には、その交渉力とアレンジ能力を生かして地元不動産業者の経営を上向かせる。
  • シャーロット・バード:マーティとウェンディの娘で、ジョナの姉。15歳の多感な時期にオザークに引っ越したことから、当初は反発するのだが、次第に両親への理解を示し始める。
  • ジョナ・バード:マーティとウェンディの息子で、シャーロットの弟。口数が少なく、オザークにもすぐに馴染むが、コンドルを観察するために動物の死体を切り刻む、銃を愛用するようになるなど、マッドな面も見え隠れする。
  • バディ:独り身の老人。オザークでの住居を探すバード家に自宅を売ったが、格安価格との交換条件で、余命1年の自分が死ぬまで同居することとしており、売却後にも家の地下室で生活している。銃に詳しく、犯罪の後始末などもできることから、実は相当な訳アリだと思われる。

ラングモア家

  • ルース・ラングモア:10代にして「何でも盗む札付きのワル」として地元では有名。モーテル宿泊中のバード家の金を盗んだことが、マーティとの接点になった。最初は敵対していたものの、資金洗浄術を習得するためマーティに接近し、また頭が切れることからマーティからも重宝されるようになって、買収したストリップバーの経営を任されるようになる。
  • ワイアット・ラングモア:ラスの息子で、ルースのいとこ、スリーの兄。地元では不良として知られているが、実は文学に詳しく、ハリウッド行きを夢見ている。シャーロットと親しくなる。
  • スリー・ラングモア:ワイアットの弟。常に兄と行動を共にしている。
  • ケイド・ラングモア:ルースの父。重犯罪で服役中だが、かなり凶暴かつ頭の切れる人物らしく、ルースを含む親族全員から恐れられている。
  • ラス・ラングモア:ケイドの弟で、ワイアットとツリーの父、ルースの叔父。定職に就かず酒を飲んでばかりの典型的なホワイトトラッシュだが、潜入捜査中のロイと親しくなる。

オザークの人々

  • ジェイコブ・スネル:農園を経営しているオザークの名士だが、実はヘロインの生産者。マーティにヘロイン輸送ルートを破壊されそうになったことから、彼を敵視する。
  • ダーリーン・スネル:ジェイコブの妻。家長はジェイコブだが、彼女の感情的かつ突発的な動きで方向性が決定する場合も多い。
  • アッシュ:ジェイコブの部下で、その指示に従い殺人などを行う。
  • レイチェル・ギャリソン:オザークのロッジ「ブルーキャット」のオーナー。マーティからの経営再建の提案を受け入れて増収増益したことに満足するが、ロッジが資金洗浄に使われているということは知らない。
  • メイソン・ヤング:オザークの牧師で、教会を持たずボートでの布教活動を行っている。その集会がスネルのヘロイン輸送に利用されているが、彼はそのことを知らない。またマーティの資金洗浄にも利用されかけたことから、図らずも2つの犯罪組織の板挟みとなる気の毒な人。
  • グレース・ヤング:メイソンの妻で、第一子を妊娠中。奇跡や神の意思を信じる夫とは違い、現実的な視点での判断を下す。
  • サム・ダーモディ:オザークの不動産業者。優柔不断な性格で母親に頭が上がらず、不動産業の売り上げもパッとしないが、従業員として雇用したウェンディの手腕で業績が回復した。
  • ジョン・ニックス:オザークの保安官。スネルからの便宜を受けており、その悪事を見逃している。

その他

  • カミノ・デル・リオ:メキシコのナバロ・カルテルのNo.2であり、アメリカでのビジネスを仕切っている。マーティに資金洗浄を依頼しており、裏切れば殺すという強硬姿勢で圧力をかけている。
  • ロイ・ペティ:FBIの潜入捜査官で、ナバロ・カルテルを追っている。シカゴから逃げるように去っていったマーティを怪しいと睨んでおり、観光客を装ってオザークに潜伏。その際に利用可能であるとみて、ラス・ラングモアに接近した。
  • ブルース・リドル:マーティと共に事務所を経営している。マーティほどのスキルはない一方、人柄は社交的で営業力がある。ただしデル・リオからは信用されておらず、着服を疑われて第1話にして問答無用で射殺された。

感想

ブレイキング・バッド×ジ・アメリカンズ

これまで見てこなかったシリーズであるのですが、シーズン4が配信開始ということで試しにシーズン1を見てみました。本当にお試しのつもりで、つまらなかったら視聴をやめるようと思っていたのですが、第1話から最終話までずっと面白く、最後にはファンになりました。

一般人の主人公が、堅気のスキルを利用して麻薬ビジネスに関与するという概要からは、高校の化学教師がドラッグの製造業者になる『ブレイキング・バッド』を思い出しました。

ただし、『ブレイキング・バッド』の主人公ウォルターは家族に対して秘密を隠そうとしていたのに対して、本作の主人公マーティは子供にも事情を説明して、今が緊急事態の真っただ中であることを認識させるという違いがありますが。

そして家族ぐるみと言われて思い出したのが、冷戦時代にアメリカ社会に潜り込んだソ連スパイ一家を描く『ジ・アメリカンズ』でした。

平凡な一家を装ってある地域に潜入し、その社会の秩序に反する行為をする。しかし彼らにも家庭生活があって、人並みの悩みを抱えている。こうしたテーマは両作に共通しています。

この通り、本作はいくつものヒット番組の構成要素をじっくりと観察した上で再構築されており、二番煎じ感こそあるものの、ちゃんと面白く仕上がっています。

犯罪ものというよりビジネスもの

では本作の新奇性は一体どこにあったのかというと、これまで映画やドラマで取り上げられることの少なかったマネーロンダリングを題材としていることです。

麻薬業者は、表面上はドラッグビジネスをやっていないことになっています。そりゃそうですよね、ドラッグビジネスをやってますと言った瞬間に警察のご厄介になるので。

で、存在しないはずの事業が稼ぎを出した場合、その金は一体どこから来たものであるかの説明がつかなくなります。だから残高記録の残る銀行などへの預け入れができない。

そんなわけで『ナルコス』などでも描かれた通り、麻薬王たちは大量の現金を隠し持っているのですが、金融が発達したこの世界で、現金決済オンリーとなると経済活動の幅は大きく狭められます。

加えて、21世紀のアメリカではテロ対策の観点から現金取引に対してはかなり厳格な法整備がなされており、多額の現金取引が行われると内国歳入庁(日本で言う国税庁)がすぐに調べにやってくるという事情も説明されます。

すなわち麻薬事業で得たキャッシュはそのままでは使いようがなく、真っ当な稼ぎの結果得られた金という形に変えなければならないのです。これがマネーロンダリングの背景。

そしてマーティの手法とは、まずエンジェル投資家を装って堅気の事業家に接近し、ドラッグマネーをその会社に投資します。

次に経営再建と称してその会社の内側にまで入り込み、先ほど投資した金を架空取引によって別のダミー会社へと流し込んでいって、表面上は真っ当な事業で動いた金であるという体裁を作るわけです。これで洗浄完了。

で、ハイシーズンには観光で盛り上がって多額のキャッシュが動く一方で、閑散期には過疎地でビジネスチャンスの割にはプレーヤーが少なく、かつ、売上高の季節変動が激しいため不自然な取引をしても目立たないミズーリ州オザーク湖畔に目を付けて、地元業者に憑りついてマネーロンダリングをしようとするわけです。

ただしミズーリ州は保守的な地域なので、都会からやって来たマーティは信用されず、なかなか投資先を見つけられないという苦労をします。

また憑りついた先の経営を本当に改善しなけれならないという問題もあります。

そもそも投資とは経済合理的になされるものであり、もしも投資先が大赤字だったり、売上高とは釣り合わない金額の経費が計上されていると、「何か別の目的があるのでは?」とお上から怪しまれてしまうからです。

そもそも儲かっていない会社で、しかもマネーロンダリングのために多額の架空経費を計上しなければならない。そんな厳しい条件下でも経営改善をするのだから、冷静に考えてマーティの手腕はとんでもないものだと言えます。

それだけの実力があるのならそもそも麻薬カルテルと関係せず、凄腕コンサルとして食っていれば良かったのでは?とも思ったのですが、そこはミスったら家族全員殺されるというプレッシャーの中で出た火事場の馬鹿力ってことで納得しました。

そして、主人公には腕っぷしがないものだから、相手を納得させる、もしくはぐぅの音も出ない正論で退散させるという戦い方しかありません。

犯罪ものらしいドンパチや暴力が出てこないので、人によっては退屈に感じられるかもしれませんが、私はこのアプローチを楽しめました。

筋金入りの麻薬カルテルに始まり、地元のチンピラ姉ちゃん、ストリップ経営者、オザークの土着ギャング、FBIの変態捜査官らから次々と揺さぶりをかけられるのですが、その度にマーティはうまいことやって窮地を逃れる。

この駆け引き、やりとりがスリリングで楽しめました。

ホームドラマとしての面白さ

そしてもう一つの醍醐味が、一風変わったシチュエーションでのホームドラマなのですが、こちらにも見応えがありました。

オザークへ行く直前の妻ウェンディは絶賛不倫中。

マーティは探偵を雇っての調査でその事実を掴んでいるものの、それを非難したりもせず黙って泳がせているので、夫婦仲は相当冷え込んでいると言えます。

娘のシャーロットは15歳という多感な時期にあって、目立つほどの反抗的な態度をとるわけではないものの、やはりこの年齢特有の扱いづらさはあります。加えて、シカゴの私立学校に通っていた彼女が、ミズーリの田舎の公立学校に転校となったことで、環境変化に追いつけないという問題も発生します。

一方、小学生の弟ジョナはこの環境を文句も言わず淡々と受け入れます。こいつはなかなかやるもんだと思って見ていると、コンドルの餌にするために動物の死体を解体したり、北部のリベラルエリートであるバード家が忌避してきた銃器に関心を示すなど、環境に馴染み過ぎて危ない兆候を覗かせ始めます。

演じる子役のうつろな表情も役柄とバッチリ整合しており、こいつが何かやらかすんじゃないかという緊張感がそこはかとなく漂っています。

この凸凹家族が、そうはいってもミスると皆殺しという意識の元で一致団結してマネーロンダリングに当たるのですが、個性的なキャラクター同士の化学反応も起こっており、ホームドラマとしても見どころの多い作品となっています。

反社が怖い

そしてもう一つポイントなのが、反社会的勢力の方々がきっちり怖いということです。

まず麻薬カルテルの幹部デル・リオですが、彼が銃を突きつける時はこけ脅しではなく、「即答できないならもういい」って感じですぐに人を撃ち殺します。

この躊躇のなさが怖いし、駆け引きするつもりはないという姿勢からは、こちらの嘘や小細工はすべて見透かされているような威圧感もあります。

そして第8話では彼とマーティの関係の開始地点が描かれるのですが、こちらもまた怖かったですね。

遡ること10年前、シカゴで新しいマネロン係を探していたデル・リオは、事業会社の経営者を装ってマーティに接触します。

するとマーティはデル・リオから提示されたレポートの問題点を即座に見つけ出し、かつ、忖度なしにそれを指摘したものだから、デル・リオはマーティを適任者だと見込み、組織の仕事を引き受けてくれないかとの依頼をします。

しかし慎重なマーティは辞退。ならばとデル・リオは高級リゾートに招待したり、一本数十万円するコニャックを振る舞ったりと、マーティに対して接待攻勢をかけます。

また「我々と組めばとにかく儲かる。ひ孫の代まで教育費の心配をしなくてもいい」など、誰でもチャレンジしたくなるような誘因をどんどん与えて、最終的にマーティを篭絡。

しかしマーティがやると決めた瞬間から、それまでのビジネスマン的な物言いは消え、ヤクザの顔になります。

勧誘の時には優しいのに、入部した瞬間から上下関係きっちりになる体育会みたいな感じですね。

で、見せしめの如くマーティの目の前で前任者を射殺し、裏切ると容赦しないという姿勢を表明。ヤバいところに来てしまったという後悔のどん底に叩き込まれるマーティ。

この一連の流れには息を呑むものがありました。こうして真っ当な会計士が悪事の加担者になっていくのねと。

またオザークに来たマーティが衝突することとなるスネル夫婦もヤバかったですね。

彼らは地元でうまくやって来た老舗のヘロイン業者なのですが、自分の領内によそ者が侵入してくることを極端に嫌うし、地方民のコンプレックスの裏返しなのか、相手から馬鹿にされてるんじゃないのか、下に見られてるんじゃないのかということを物凄く気にします。

「大事なのは信用と敬意」が口癖になのですが、要はメンツこそすべてということ。実利を求めるマーティとは水と油であり、マーティがどれだけ妥当な提案を持って来ても、こちらのメンツを潰されたと思えば交渉のテーブルをひっくり返す。

で、どう考えても勝負にならないメキシコの麻薬カルテル相手であっても、「あいつらなんぼのもんじゃい!」と謎の気勢を上げるという向こう見ずさ。

この頭の悪さ、瞬間的に怒りに火が点くタチの悪さは、大したことのない言葉にも過敏に反応する地元のヤンキーみたいでしたね。こちらもナイスな不愉快さでした。

オザークへようこそ シリーズ
オザークへようこそ(シーズン1)_知的で面白い【7点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン2)_女たちが熱い【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン3)_夫婦の不信感【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン4 パート1)_面白さパワーアップ【8点/10点満点中】
オザークへようこそ(シーズン4 パート2)_ルースが阿呆すぎる【6点/10点満点中】

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント