(2014年 ノルウェー)
移民を多く抱える社会が抱える軋轢が描かれており、社会考察という点では非常に興味深いのですが、バイオレンスとしては爆発力不足でした。親父が職人さんのように淡々と人を殺しているだけで、そこに情感が描かれていないことがその原因です。北欧らしいと言えばその通りではあるのですが。
除雪車の運転手をする模範市民ニルス(ステラン・スカルスガルド)の元に、一人息子がコカインの過剰摂取で死亡したとの知らせが届く。しかし、彼の独自調査により息子は地元ギャングに殺されたことが判明し、ニルスはギャングを次々と抹殺していく。
日本では2019年6月に公開されるリーアム・ニーソン主演の『スノー・ロワイヤル』のリメイク元です。本作の主演を務めたステラン・スカルスガルドは『シンドラーのリスト」のシンドラー役を最後までニーソンと争った経歴があり、ステラン・スカルスガルドとリーアム・ニーソンが似ているということは世界的な認識のようです。
ノルウェー人監督・ハンス・ペテル・モランドがオリジナルとリメイク両方の監督を務めています。
作品の舞台となるノルウェーは移民が全人口の13%を占めており、移民に対して厳格か寛容かで社会は揺れています。2018年のポール・グリーングラス監督作『7月22日』でも題材にされたウトヤ島のノルウェー連続テロ事件は、キリスト教原理主義者が移民に寛容な左派政権を攻撃したものでした。
7月22日_実話の重みに負けて焦点の定まらないドラマになった失敗作【4点/10点満点中】
2013年の総選挙では移民制度の厳格化を訴える中道左派連合が勝利し、以後は移民の数が激減。シルヴィ・リストハウグ移民・統合大臣「この低い数字を今後も維持しなければならない」と述べています。
作品では生粋のノルウェー人、隣国からの移民、遠くの国からやって来た移民という3つのグループが登場します。それぞれのグループの常識は異なっており、そのことが緊張感を生んでいるということが結果的に暴力沙汰へと繋がっており、実に興味深い構成となっています。
なお、本編中に死人が出た場合には追悼テロップが出るのですが、各自が信じる宗派のアイコンも一緒に表示されるという一工夫も施されているので、お見逃しなく。
本編中、地元ギャングは移民に対して差別的である上に無知で、東欧系とかアジア系を大きく括っているのみで細かい区別が付いていません。同じく北欧からの移民に対しても侮蔑のような言葉遣いをしており、こうした他人に対する不寛容や共感力の低さがトラブルの元になっているようです。
ただし移民の側にも問題があって、犬の散歩のくだりが顕著なのですが、その社会の人々の行為や価値観を理解しておらず、悪気はないもののトラブルの火種は彼らの側にもあります。加えて母国と比較すると刑罰が生ぬるく、彼らに対してはペナルティが抑止力になりえていないという分析も織り込まれています。
ただしバイオレンス映画としては爆発力不足かなと思いました。まず、復讐ものに必要な情念というものが不足しています。主人公は一人息子を殺された上に、復讐に協力してくれた兄までを失うのですが、明確に怒りや後悔を明確に口にすることも、黙って耐えるような素振りも見せないので、復讐劇が盛り上がりません。かつ、キレた模範市民という振れ幅の大きさも示せていません。
またこの題材であれば、素人である主人公の職業上の特技がギャングとの戦いで思いもよらぬ優位性になるという点にこそ面白さが宿ったと思うのですが、主人公が序盤から腹座りまくりの上に、腕っぷしでも武器の扱いでもプロのギャングに負けていないことから、異業種格闘戦としての勘どころも外しています。ふざけた邦題の通り、除雪車が大活躍すれば良かったんですよ。
加えて、二つの犯罪組織の全面抗争にまで至るという急展開にも、本来あるべき熱さがなかったように思います。ギャングにとっては取るに足らない尻尾切りだったはずが雪だるま式に事が大きくなっていき、気が付くと制御不能になっていたということの面白さを観客に対して的確に伝えられていません。
≪雪景色の中のサスペンス≫
白い刻印_不器用な男がすべてを失うまで【8点/10点満点中】
フローズン・リバー_最上位クラスの社会派サスペンス【8点/10点満点中】
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ファイティング・ダディ 怒りの除雪車_興味深いが爆発力不足【5点/10点満点中】
白い沈黙_雰囲気は良いのに尻すぼみ 【4点/10点満点中】