(2014年 カナダ)
実話に基づいたサスペンスドラマなのですが、被害者家族や警察がいちいちあり得ない反応を示すためにツッコミどころ満載の内容となっているし、実話の考察も中途半端で、観客の期待値にまったく応えられていません。
あらすじ
マシュー・レインズ(ライアン・レイノルズ)は、車の後部座席に幼い娘キャスを残して店に立ち寄ったが、目を離した数分間で娘がいなくなっていた。マシューが近辺を探しても娘の姿は見当たらず、警察に通報してもマシューに疑いの目が向けられたことで初動捜査が遅れ、キャスは行方不明者となった。
失踪から8年後、離婚したマシューの妻ティナ(ミレイユ・イーノス)が働くホテルで、キャスが大事にしていたぬいぐるみが発見された。ここからキャスの捜索が再開される。
作品概要
ジェイシー・リー・デュガード誘拐事件
本作は2009年に発覚したジェイシー・リー・デュガード誘拐事件を元にしているとのことでした。
これは1991年に行方不明になった少女が18年後に発見されたという事件であり、被害者の元少女が加害者との間に2人の子供を出産していたことや、加害者が営む印刷会社でその娘という名目で勤務しており、大勢の部外者と接触できる場所にいたにも関わらず助けを求めないほど強烈なマインドコントロールをかけられていたことなど、その概要を読むだけでも胸糞が悪くなること必至の最悪な内容となっています。
また、被害者の父親に嫌疑がかけられたために警察の初動が遅れたということも実際にあったようです。
感想
意外性ある見事な冒頭
8年前の少女誘拐事件に絡む人間ドラマ程度の認識で見始めたのですが、冒頭では成長した少女らしき人物が登場し、監禁部屋には入れられてはいるものの被害者らしい切実さがなく、加害者らしき男とも普通に会話をしています。
その後場面が飛んで、事件を担当していた刑事が行方不明となり、同僚刑事が必死に捜索をしている。事前に予想していた流れとはまったく異なるこれら一連の場面の引きは強く、本編への興味を掻き立てられる素晴らしい掴みだったと思います。
アトム・エゴヤンの素晴らしい演出(途中まで)
カンヌ映画祭グランプリを受賞した代表作『スウィート・ヒア・アフター』と同様に雪景色が全編を通した背景となっており、雪が本来持つ美しさと侘しさを効果的に利用したアトム・エゴヤンの雰囲気作りは相変わらず冴えています。
また豪華な俳優陣の演技も良いし、前半の山場である誘拐場面での緊張感や、まず父親を疑ってかかり初動が遅れる警察対応への不快感など、途中までは緊張感をもってみることができました。
細分化されたタイムラインが見辛い
しかし、現在(事件発生後8年経過時点)・過去(事件発生後6年経過時点)・大過去(事件発生当時)の3つのタイムラインが細分化され、さらには役者の髪型や服装など区別のためのキーも仕込まれない状態で複雑に並べられた全体構成を追いかけることにはだんだん疲れてくるし、後半パートに入るとおかしな展開も続出し、序盤からの期待値が高かった分、その落差に頭を抱えてしまいました。
いろいろとおかしなことが多い
少女の生存の痕跡をわざわざ残す犯人
まず犯人達は、被害者の母親が勤めるホテルに少女の生存の痕跡をわざわざ置きに行ってそのリアクションを隠しカメラで見守るという「水曜日のダウンタウン」みたいないたずらを始めます。
捜査当局も被害者家族も社会もほぼ死んだものとして諦めており、このまま勝ち逃げできる目算の高かった少女の一件を蒸し返させるようなことをして何の得があるのかがサッパリ分からないし、やるならやるで母親の個人宅に仕掛ければいいものを、人の出入りを追いかけやすいホテルというリスキーな場所を選択したことの意味も分かりません。
生存の痕跡を見ても大した反応をしない母親と刑事
このいたずらを受けた母親と刑事の反応もおかしくて、8年も行方が分からなかった娘がどこかで生きているらしいとなればもっともっと大きな騒ぎになると思うのですが、「おかしなことをする奴もいるもんですなぁ」程度の反応しか示さず、まともな捜査もなされません。
だいたい、この母親は娘から数分だけ目を離した父親をいまだに責め続けている一方で、初動ミスを犯した担当刑事とは信頼関係を築いているし、彼女は一体何を考えてんだかサッパリです。
少女と父親をご対面させる犯人
犯人のやることはこれに留まらず、父親と娘を再開させるという「嗚呼!バラ色の珍生!!」みたいなことまでやり始めます。ほぼ諦めていた母親とは違い、パラノイア的に娘の生存を信じて個人での捜索活動を続けている父親なんかに娘をちょい見せすれば大騒ぎになることは間違いないのに、わざわざこれを断行する犯人。
父親は父親で、ちょい見せの件を警察にも相談せず相変わらず独自捜査を続けますが、いくら確執があるとはいえ、ここまで大きく事態が動けば警察を頼る意外に方法はないと思うのですが。
被害者少女の感情の整理がなされず突然終わる
一応、被害者は保護されて映画は幕を閉じるのですが、8年間囚われの身であった人間らしい混乱や、生き延びるためとはいえ加害者に手を貸していたことへの反省等、この物語を締めるために必須と考えられる感情の整理もないままブツっと終わるため、見終わった後には残尿感がありました。
観客が抱く疑問に答えられていない
本編中、キャスが加害者の協力者として働いている点や、薄い監視体制でも逃げようとしない点にはマインドコントロールの要素が反映されているようなのですが、この事件を知った人が必ず抱く「どうすればここまで強力なマインドコントロールをかけられるのか」という疑問に映画は答えを出しておらず、実話に基づくフィクションに要求される機能を本作は果していません。
また、実際の事件と比較すると本作はとてもマイルド。露悪的な描写をしろとは言いませんが、被害者少女の置かれた境遇の厳しさを観客にも推測させるような作りとしなければ、事件を矮小化したファンタジーと捉えられても仕方ないと思います。
≪雪景色の中のサスペンス≫
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