フローズン・リバー_最上位クラスの社会派サスペンス【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2008年 アメリカ)
ネイティブ・アメリカン居留区の暗部を切り取るという、かなり攻めた姿勢の社会派サスペンスでした。加えて、崖っぷちの女性の物語としてもよく作られており、文字通り薄氷を渡る場面はいろんな意味で緊張させられました。社会派サスペンスとしては最上位クラスの完成度だと思います。

あらすじ

白人女性レイ(メリッサ・レオ)は、ギャンブル依存症の夫にトレーラーハウスの購入資金を持ち逃げされて途方に暮れていた。そんな折、偶然出会ったネイティブ・アメリカン居留区の女性・ライラ(ミスティ・アッパム)から密入国ビジネスへの協力を持ちかけられる。

作品概要

サンダンス映画祭グランプリ受賞作

2008年のサンダンス映画祭でドラマ部門のグランプリを受賞した作品なのですが、経験上、「サンダンス映画祭で絶賛」という煽り文句にはハズレが多いと思っています。

インディーズ作品には「低予算の割によくできている」という評価の基準が付きまとうため、絶賛されたという先入観を持って見るとイマイチだったりするのです。

しかし本作については、一流クリエイターが大勢集まって制作されたメジャー映画に負けないほどの完成度があり、本当に良い映画だと感じました。

ライラ役のミスティ・アッパムについて

ミスティ・アッパムは10代より劇団に所属して演技をしており、25歳の時に出演した本作で注目され、以降はタランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』やメリル・ストリープ主演の『8月の家族たち』へと出演し、順調にキャリアを築いていました。

しかし、以前から精神疾患を患っており、2014年10月5日に行方不明となり、2015年10月16日にワシントン州の渓谷で遺体が発見されました。享年32歳。

感想

社会問題の切り取り方が見事

行政による捜査権の及ばないネイティブアメリカン居留区で密入国ビジネスが行われているという点や、ネイティブアメリカンの主要産業であるカジノで白人貧困層がギャンブル中毒になっているという点など、人種的マイノリティを哀れな被害者として描かねばならないという不文律のあるハリウッドにおいてはかなり攻めたテーマを扱っています。

これってテイラー・シェリダン監督の『ウインド・リバー』が結局誤魔化し、出稼ぎ白人が悪いという中途半端な結論を出してしまった部分なんですが、本作はそうした軋轢から逃げず、居留区の暗部を徹底して描いています。本作の監督であるコートニー・ハントはよく逃げずにこれをやりきったなと、その度胸に感心しながら見ました。

ウインド・リバー_半端な社会派サスペンス【5点/10点満点中】

社会問題を基礎とはしているものの誰かを糾弾するような姿勢はとらず、あくまで主人公2名のパーソナルなドラマに徹したからこそ可能になった切り口だと思うのですが、このバランスのとり方は見事でした。

嫌な汗をかかされる優れたサスペンスドラマ

全編を覆う貧困による閉塞感や、犯罪行為がいつ発覚するのか分からないという緊張感など、サスペンスドラマとして基本的な部分がよくできています。どこでミスを犯すか分からない主人公二人の危なっかしさが、凍った川を車で渡るというビジュアルで見事に視覚化されており、見ているこちらまでが嫌な汗をかかされました。

犯罪に手を染めざるをえなかった背景

背景と動機付けを密接に絡めた全体構成は実に見事です。身も蓋もない言い方をすると最下層にいる女性が金に困って犯罪に手を染め、状況をより悪化させるという話なのですが、愚かな決断ではあるがそうせざるをえない背景というものが簡潔に描かれているため、見る側に余計なノイズを与えずにドラマへの没入感を高めています。

例えば最後のジョブに至る過程。保安官がレイ宅を訪れて、昨夜彼女の車に同乗していたライラは要注意人物である点を警告します。この時点ではレイが密入国ビジネスに関与していることはバレていないが、次にライラと一緒にいるところを見られると終わりというギリギリのところにあり、どう見てもここが引き際です。

しかし次の瞬間に、すでにボロボロだった我が家に長男が致命傷を与えていたことが発覚(これもまた水道管の凍結を直そうとした長男による正しい目的をもった行為が原因であった点が泣かせます)。寒さの厳しいこの地で家を失うという選択肢などありえないが、新しいトレーラーハウスを買おうにも入金の期日が迫っており、間に合わせるにはもう一度ジョブをやるしかないという状況にレイは追い込まれます。

この後、レイは破滅への道をひた走り始めるのですが、その出発点は彼女の愚かさではなく家族の生活を守りたいという母心であったことがきちんと描かれているため、観客にとっても腑に落ちる展開となっています。

甘くない友情ドラマ

また、感傷的すぎないビターなドラマも良い味付けだったと思います。ギャンブル依存症で夫を失ったレイはカジノを営むネイティブアメリカンに対して恨みや蔑視のような負の感情を抱いており、ライラとの関係性には常に緊張感が漂っています。

しかも、中盤辺りで心情の吐露により打ち解けるというアメリカ映画でありがちな甘い展開や、「私の偏見が間違っておりました」と白人が反省するという社会派映画にありがちな展開もなし。

最後の最後まで二人が打ち解けることはないのですが、だからこそ、死線をくぐり抜けてきた者同士に宿る特殊な連帯感や、魂で共鳴し合っているかのような熱い関係性が見て取れる構造となっています。こちらも見事でした。

≪雪景色の中のサスペンス≫
白い刻印_不器用な男がすべてを失うまで【8点/10点満点中】
フローズン・リバー_最上位クラスの社会派サスペンス【8点/10点満点中】
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