(2018年 日本)
ニュータイプ論を行きつく所まで行かせた作品で、ミリタリー要素を重視する私のような客層には厳しいものがありました。動力なしでも動き回り、死人の意識までが宿ったフェネクスは、もはやエヴァ初号機でしたね。これをガンダムでやる必要があったのでしょうか。
作品解説
ガンダムUCの視聴は必須。出来ればZも
本作は『機動戦士ガンダムUC』の1年後の物語であり、そのクライマックスの展開がまさに本作のメインテーマになることから、ガンダムUCを見ておかないと何の話をしているのか分かりません。
また主要登場人物3人の背景としてティターンズの強化人間プログラムやルオ商会が存在することから、『機動戦士Zガンダム』の世界観がかなり影響しています。懐かしのディジェも出てくるし。
こちらは必須とまでは言わないものの、知っていれば作品の理解が進みます。
感想
もはやガンダムというよりエヴァ
『逆襲のシャア』、『ガンダムUC』の流れを汲んでいるといえばお察しの通り、本作ではニュータイプ能力とサイコフレームによりオカルト現象が次々と起こります。
しかもその極め付きとも言える内容であり、1年半前に暴走事故を起こしたユニコーンガンダム3号機フェネクスがパイロット不在で動き回ってるわ、動力はよく分からんわ、それでいて光速に近い飛行速度を出すわ、サイコフレームには死人の魂が宿っているわで、もはやエヴァ初号機に近い状態となっています。
かつて「リアル・ロボット」と呼ばれたガンダムの面影はそこにはなく、終始コレジャナイ感が漂っていました。
内容面でも主人公3人のパーソナルな物語が中心となっており、理念と理念の衝突、国家間の謀略、軍事的な作戦等のガンダム的な要素が随分と鳴りを潜めています。
好き嫌いがはっきり分かれる作風だろうと思いますが、私は全然ダメでしたね。「こういうのはエヴァでやって」とずっと思いながら見ていました。
ミシェルが一番悪くないか?
主人公はヨナ、ミシェル、リタの幼馴染3人組。
3人は一年戦争時にコロニー落としを予言したことから「奇跡の子供たち」と呼ばれ、ニュータイプ能力があるのではないかということで、グリプス戦役時にはティターンズの強化人間研究所に入れられていたのですが、ご存知の通り、そこはフォウ・ムラサメやロザミア・バダムを生み出した悪名高き施設。
このままでは切り刻まれて廃人にされるということで、頭の良いミシェルはリタを犠牲にして研究所を抜け出し、またヨナもリタが犠牲になってくれたことで図らずも改造を免れ、ティターンズ解体後には地球連邦軍の一パイロットとなっていました。
9年後、リタへの贖罪をしたいミシェルは、リタの残留思念が宿っていると思われるユニコーンガンダム3号機フェネクスの捕獲作戦を立案。
ただしその方法が込み入ったもので、まず「死を乗り越えられるテクノロジーがある」という誘因を与えて自身の母体であるルオ商会を動かし、その政治力を使って連邦軍を作戦に巻き込み、連邦兵士となっていたヨナをナラティブガンダムのパイロットに選任させます。
ナラティブガンダムはνガンダムの試作機らしく、肩などのフレームはνガンダムとよく似ています。なぜミシェルがそんな古い機体を持ち出したのかというと、現時点では条約で禁止されているサイコフレーム搭載の機体がどうしても必要だったから。
一方で、ジオン共和国にも秘密裏にⅡ(セカンド)ネオ・ジオングを提供し、連邦軍と競う形でフェネクス捕獲を行うよう仕向けます。
で、サイコフレーム搭載のナラティブガンダムとネオ・ジオングが戦えばフェネクスがおびき寄せられるんじゃないのというのがミシェルの作戦なのですが、その戦闘のためにコロニーに大穴をあけ、大勢の市民を死なせるという大惨事を引き起こします。
昔、酷いことをしてしまった幼馴染に謝りたいという目的のために、無関係な人を何人殺してるんだと呆れてしまいました。
表面上の悪役はジオンの強化人間ゾルタンなのですが、明らかに狂っているゾルタンよりも、美しい目的のためならどれだけの人が巻き込まれても気にしないという姿勢でいるミシェルの方にこそ、私は狂気を感じました。
ただし物語はミシェルを批判するどころか、最終的には彼女を美化するところにまで行ってしまうので「おいおい」という感じでしたが。
ヨナとリタは印象に残らなすぎ
あとの二人はというと、全然印象に残りませんでした。
ガンダム乗りのヨナが本作の主人公なのですが、過去に囚われて悲観的なことを言うだけの人で、目的意識らしきものが何もないので、見ていてもこれと言って感じるところがありません。
一方リタはファーストのララァ・スンに相当するポジションであり、登場場面は少なくとも強烈な印象を残すべきキャラクターだったのですが、こちらの印象も全然でしたね。
一流になれなかった者達の物語
そんなわけで個人的には支持できない内容の作品だったのですが、そんな中でも唯一気に入ったのは、一流になれなかった者達の物語であるという点でした。
奇跡の子供達と呼ばれたものの、実のところその賞賛に値するのはリタだけであり、ミシェルとヨナはリタの予言を復唱していただけ。
成長後のミシェルは明晰な頭脳を使ってニュータイプ能力があるげに振る舞い続け、一方ヨナは凡庸な一パイロットとして完全に埋もれていました。
不死鳥狩りに参加した連邦の精鋭部隊シェザール隊の面々は、ヨナのデータを見て「なんでこのレベルの奴がガンダムに乗ってるんだ」と不思議がるわけです。
フェネクスの正体を考えるとヨナである必要があったのですが、事情を知らない人たちからすると完全に役不足な人選であり、実際、ヨナは作戦の中核を担うことに耐えられないという描写が続きます。
ミシェルの策に翻弄されたり、サイコフレームを制御できなくなったり、シナンジュスタインにボコボコにやられたりと、まぁ良いところなし。
天才パイロットが戦場をコントロールするという展開が圧倒的に多いガンダムシリーズにおいて、ここまで凡庸なパイロットを中心に据えたという点には興味深いものがありました。
それはシナンジュスタインに乗るゾルタンも同様。
その正体は『ガンダムUC』のフル・フロンタルと同じプロジェクトで生み出された強化人間なのですが、こちらは使い物にならなかった失敗作として見做されており、フル・フロンタル亡き後でようやく表舞台に出てきたという負の歴史を背負っています。
搭乗するシナンジュスタインとⅡネオ・ジオングが赤くペイントされていない点にも、「お前は赤い彗星の再来じゃない」という組織内の評判が反映されているようでした。
そうした悪い扱いに対する反動からか、ゾルタンの性格は完全に振り切れており、思想や理念などなく悪鬼の如く暴れ回ります。
一応、製作陣は純粋悪としてこのキャラを作り上げたようなのですが、むしろ私はゾルタンに共感しながら見てしまいました。そういうやけくそな気持ちになるのも分かるよと。
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