ロリータ(1997年版)_キューブリック版を上回る成功作【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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人間ドラマ
人間ドラマ

(1997年 アメリカ)
変態映画かと思いきや、愛する人に取り返しのつかない悪事を働いてしまった男の後悔という普遍的な切り口で作られており、非常に優れた人間ドラマに仕上がっていました。実は必見の作品。

あらすじ

大学教授のハンバートはアメリカの大学での教職に就くためにパリからやってきたが、新学期が始まるまでのひと夏は保養地で過ごすことにした。その下宿先の14歳の娘・ロリータに心を奪われる。

スタッフ・キャスト

監督は『危険な情事』(1987年)のエイドリアン・ライン

1941年イギリス出身。広告代理店勤務、CM制作を経て、『フォクシー・レディ』(1980年)で長編映画監督デビューしました。

光と影のコントラストを用いた演出方法が特徴であり、『フラッシュダンス』(1983年)、『ナインハーフ』(1986年)、『危険な情事』(1987年)と、通常ならば生々しくなりかねない題材を独自の映像美で切り取ることに強みを発揮しました。

中でも『危険な情事』(1987年)は不倫という題材を扱いながらもアメリカだけで1億5600万ドルも売り上げて年間興行成績第2位を記録し、またアカデミー監督賞にもノミネートされました。

また、一部の映画ファンの間で非常に評価の高い『ジェイコブズ・ラダー』(1990年)を監督したという点も重要であり、単なる映像美の監督ではなく、入り組んだ内容を魅力的に語るストーリーテラーとしての能力にも特筆すべきものがありました。

脚本は『ジ・アメリカンズ』(2013-2018年)のスティーヴン・シフ

本作の脚本は何度も書き替えられた後に、当時はジャーナリストだったスティーヴン・シフが最終稿を執筆しました。ウェズリアン大学卒業後にボストン・フェニックス紙で記事を書くようになり、1983年にはピュリッツァー賞のファイナリストとなりました。

1995年に映画プロデューサーのリチャード・ザナックより本作の執筆依頼が舞い込み、それが映画脚本家としての初仕事となりました。以降、クリント・イーストウッド監督・主演の『トゥルー・クライム』(1999年)、ミシェル・ファイファー主演の『ディープエンド・オブ・オーシャン』(1999年)、オリバー・ストーン監督の『ウォール・ストリート』(2010年)の脚本を執筆しています。

またテレビ界では、東西冷戦下にアメリカに潜入したソ連スパイ一家を描いた大ヒットドラマ『ジ・アメリカンズ』で9エピソードを執筆しています。

現在は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)のキャシアン・アンドーのスピンオフシリーズの製作に関わっています。

主演はアカデミー賞俳優ジェレミー・アイアンズ

本作のハンバート役は当初ダスティン・ホフマンで決定しており、出演契約書にもサインされていたのですが、何があったのかジェレミー・アイアンズに変更となりました。

1948年イギリス出身。1971年より名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに所属し、1984年にトニー賞受賞。『ニジンスキー』(1980年)で映画デビューし、バーベット・シュローダー監督の『運命の逆転』でアカデミー主演男優賞を受賞しました。

基本的には文芸作品への出演が多いものの、ディズニーの『ライオン・キング』(1993年)でスカーの声を演じた辺りから娯楽作にも出演するようになり、『ダイ・ハード3』(1995年)ではハンス・グルーバーの兄を演じました。

ロリータ役は新人のドミニク・スウェイン

ロリータ役のキャスティングにあたってはナタリー・ポートマンに断られ、2500名もオーディションをした末に(クリスティーナ・リッチやメリッサ・ジョーン・ハートもオーディションを受けていた)、製作時点(1995年)で15歳だった新人のドミニク・スウェインに決定しました。

1980年カリフォルニア州出身。実はトム・クルーズ主演の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)でキルスティン・ダンストが演じたクローディア役のオーディションも受けていたのですが、そちらは落選しています。

1997年には本作と『フェイス/オフ』(1997年)が公開されて注目されていたのですが、その後はパッとせず、現在では細々とB級映画に出演し続けています。

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1995年のドミニク・スウェイン
(『ロリータ』(1997年)より)
2015年のドミニク・スウェイン(左)
( シャーク・プリズン 鮫地獄女囚大脱獄(2015年)より)

感想

キューブリック版を上回る映画化の成功例

キューブリック版と併せて鑑賞したのですが、冗長なだけだったキューブリック版と比較すると原作準拠と言われる本作の方が主題が明確になっており、映画としてはこちらが上だと感じました。

少年期の性的トラウマが原因で恋愛のストライクゾーンがめちゃくちゃに狭くなっていたハンバートさんの目の前にドストライクの美少女が現れた上に、その家に転がり込む口実もあって、さらには邪魔者だった母親も消えてくれた。

これでロリータと二人っきりだぜ!とテンションが上がっているうちに人としての道を誤るハンバートの罪が、キューブリック版よりも分かりやすくなっています。

ハンバートの犯した罪が明確化した

ハンバートがやったことって再婚相手の連れ子への性的虐待なんですよね。これは倫理的には絶対容認されないこと。

キューブリック版ではこの辺りがあまり明確にされておらず、小悪魔・ロリータに振り回される中年男の悲哀とも受け取れそうな内容だったのですが、本作はロリータとハンバートの間にあった性的搾取というものがはっきりと読み取れる内容となっています。

例えば、小遣いの増額や演劇部への入部許可をハンバートに求める際、ロリータはハンバートに性的なサービスを始め、当初はこれらに反対していたハンバートは主張を変えます。また小遣いを使わずに隠し持っていた件をハンバートから責められた際、ロリータはこの金について「私の稼いだ金」という言い方をします。

これらの描写により分かるのは、母親を失ったロリータは生きるための手段としてハンバートとの性行為を行っていたということであり、この時点でハンバート本人は無自覚だったにせよ、大人と子供の間にある絶対的な力関係を利用して性的関係を結んでいたという倫理的な問題点を明らかにしています。

人間ドラマとしても深みが増した

こうしたハンバート側の罪が明確にされたことで、ラストがより感動的になっています。

3年後、少女とも言えない年齢になった上に、妊娠と貧乏暮らしですっかり色香の失せたロリータと再会しますが、この状態になってもハンバートが感じたものはロリータに対する圧倒的な愛おしさであり、「自分は美少女しか愛せない変態」と思っていたが、実は真っ当に人を愛していたことに気づきます。

それと同時に、かわいいお人形さんを手に入れたような感覚でロリータに対して行ってきた性的虐待の罪深さをようやく自覚し、泣き崩れます。他方、ハンバートの持ってきた大金を受け取りたいロリータは相変わらずハンバートに性的サービスをしようとするのですが、これに対して「頼むから触らないでくれ」と言うときのハンバートの絶望的な表情が忘れられません。

本気で愛していた女性に、自分はなんということをさせていたのだろうかという絶望がはっきりと見て取ることができ、この場面により、本作は性的倒錯を描いた話から普遍的な愛の物語へと昇華したと言えます。

エイドリアン・ラインの演出は絶好調

性的な題材を扱うことに長けたエイドリアン・ラインの演出は絶好調。

ロリータ役のドミニク・スウェインを美しく撮れているし、何気ない日常風景の中から色気を引き出し、また直接的な性描写においては実際の露出度以上のエロさを演出できており、撮影当時15歳のスウェインにさせられることには大変な制約条件があった中で、最大限の映像表現ができていると思います。

ドミニク・スウェインは報われなかった

本作の撮影は1995年になされたものの、配給会社が内容に恐れをなして長期に渡ってお蔵入りした後に細々と公開されて興行的には大惨敗したと言います。

かわいそうなのはドミニク・スウェインであり、デビュー作である本作で彼女は相当攻めた役柄を演じている上に、オスカー俳優をも圧倒するほどの演技力を披露。

さらにはルックス的にも絶頂期にあり、より早く・より認知度の高い状態で本作がリリースされていれば10代のうちに複数の映画に出演し、同世代のナタリー・ポートマンやクレア・デインズが演じた役柄のいくつかは彼女に回ってきた可能性もあったと思うのですが、デビュー作のリリースが遅れに遅れたことから彼女が10代のうちにできた仕事といえば『フェイス/オフ』(1997年)でのFBI捜査官の娘役くらいのものであり、20代になるとその他大勢の女優の一人として埋もれてしまいました。

フェイス/オフ【良作】濃厚コッテリなジョン・ウー総決算

ドミニク・スウェイン。もっと売れても良かったのに…

他方でジェレミー・アイアンズはしたたかで、本作への出演が自身のキャリアに相当なダメージを与えることを懸念したアイアンズは、数年間仕事ができなくなるリスクへの補償を含めた高額の出演料を受け取ったようです。結果的には知名度の低い作品に終わったことから、アイアンズのパブリックイメージにも特に影響は出なかったのですが。

≪キューブリック版≫
ロリータ(1962年版)_表現の制約に阻まれた凡作【4点/10点満点中】

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