(2025年 アメリカ)
絶賛するほどの映画だろうか?登場人物は誰も成長せず、政治的には決めつけが過ぎる。そして奇妙な登場人物たちの行動にまったく笑えなかった。字幕で見たのが悪いのか?吹替ならもっと楽しめたのかな。

感想
ポール・トーマス・アンダーソン監督
22歳の時に撮った短編映画で注目され、26歳で長編映画デビュー。20代にしてアカデミー脚本賞に初ノミネートされ、ベルリン、ベネツィア、カンヌの3大映画祭すべてで監督賞を受賞するという、史上たった一人の快挙を成し遂げた(しかもデビュー後たったの6作目で実現ってすごすぎ)。
まさに現代の巨匠と言える才人であるが、本作『ワン・バトル・アフター・アナザー』については、公開前より、その最高傑作ではないかとの呼び声が高かった。
これは見ないわけにはいかないということで公開初日にIMAXで見てきたけど、個人的にはイマイチだったかな。『ブギーナイツ』(1997年)や『マグノリア』(1999年)は越えてないよなぁと。
主人公はフレンチ75という極左革命グループに所属するパット(レオナルド・ディカプリオ)。
主に爆弾担当として数々の現場を経験したパットは、同じ革命戦士であるパーフィディア(テヤナ・テイラー)と恋に落ち、やがて二人の間には娘シャーリーンが誕生する。
出産後もなお破壊活動に前のめりなパーフィディアに対し、「もう無茶はやってらんねぇから」とテロ活動からは足を洗うパット。
ほどなくしてパーフィディアは逮捕され、パットは自分自身を「ボブ」、娘を「ウィラ」と名前を変え田舎町に身を隠した。
16年後、ついに二人の元にも捜査の手が及ぶ。二人を追うのは白人至上主義者のスティーヴン・ロックジョー警部(ショーン・ペン)だ。
即座にフレンチ75の保護下に入り、隠れ家である修道院へと送られたウィラに対し、暗号を忘れてしまったボブは組織の保護を受けられず、自力で隠れ家を目指すこととなるというのが、ざっくりとしたあらすじ。
緊急事態において生き別れた家族が困難を経て再会を果たすというストーリー自体は、アクションアドベンチャーの王道を行っている。
そこに奇妙な登場人物達が織りなすコミカルなドラマ、親子の情愛、政治的メッセージなどを加えた結果の長尺160分なのだが、これらの付けたし要素が一つも響いて来なかった。
まず全然笑えない。
血管を浮かせて喋りまくるディカプリオと、素っ頓狂な表情をしているべ二チオ・デル・トロを見ると、「何かしらで笑わせようとしているんだろうな」ということは分かるのだが、それが全然笑いにつながっていかない。
アメリカ人が見ると面白いのかな?
少なくとも日本人には全然伝わってこなかった。現に、劇場では一度も笑いは起こらなかったし。
もしかすると吹替で見ると違うのかもしれないが、字幕版では全然笑えなかった。
そして親子の情愛の話としても今一つ。
なぜなら、ボブは最初から良き父親だからだ。
家族に愛情を注ぎきれているとは言えなかった主人公が、大冒険の末に家族への思いを再認識することが王道のストーリーであるが、本作ではそうした主人公の成長がまったく描かれない。
成長しないのは、もう一人の主人公ともいえるショーン・ペンもそうだ。
彼が演じるロックジョー警部は移民収容所所長として登場し、ゴリゴリの差別意識と、武力行使も厭わぬザ・右翼として描かれる。
しかし内心では、フレンチ75の革命戦士にして黒人女性であるパーフィディアを心より愛している。
政治的立ち位置とは相いれぬ内面を持った複雑なキャラクターであり、扮するショーン・ペンは『ミスティック・リバー』(2001年)以来ともいえる名演を見せるのだが、物語はそんなロックジョーの内面に全然迫っていかない。
この設定ならば、あってはならぬ自分の内面に葛藤し、やがて政治的立ち位置への疑念を決定的にするキャラクターとして描かれるべきだったのだが、彼は初登場時と退場時で何らの成長もしないのである。
それは革命戦士パーフィディアも同じく。
彼女はアメリカ国内に蔓延る人種差別への憤りから革命に目覚めたのであるが、破壊活動に興奮を覚え、もはや暴力なしには生きられない状態になっていた。
彼女が本当にやりたいのは破壊活動であり、人種差別反対というお題目は口実に過ぎないのではないか?
これもまたネタが振られるだけで深掘りされない。彼女は前半で姿を消し、そのまま最後まで戻ってこないのだ。
ドラマにおいては登場人物の成長・変化が描かれるものなのだが、本作にはそれがない。なので私は見ごたえを感じなかった。
また政治問題に対して善悪の色分けをしすぎではないか。
レイシストたちは絶対的な悪として描かれ、そのカウンターとして存在する極左組織は無条件に人間的な組織とされている。
ただ思想を問わず暴力を伴う活動は悪だと思うし、移民排斥を訴えるのは差別主義者だからではない(中にはゴリゴリの奴もいるのだろうが)。
現在、世界で広がっている排斥主義は、外国人差別というよりも「お隣さんとして同居することは不可能」という筋のものである。
クルド人問題などを抱える埼玉県川口市の様子などを見るに、その主張は傾聴に値すると言える。
そんな難しい政治問題を紋切型に扱ってしまった本作は、ある意味ではガサツ・無神経と言えるのではないだろうか。
政治的傾向が似ている人にとって本作は素晴らしい政治劇なのかもしれないが、どちらの主張もとっていない私のような人間からすると、政治というものの扱い方が大変雑に感じる。
良い点は、撮影が素晴らしいこと
車の後ろにピッタリくっついて撮ったかのようなカーチェイスは迫力満点だったし、雄大な砂漠の自然なども、IMAXで見る価値のあるものだった。
良かったのはそれくらいかな。


コメント
こういう政治的かつ長尺な映画も最近の日本だと「宝島」がありますね。
こっちはどうなのでしょう。どちらも見に行きたいですが……。
『宝島』は見ていないのですが、政治的な映画は「合う」と感じる人が見に行くのがいいんでしょうね
たった今映画館で見終えて、前評判との差に「自分はこれを最高と思わないといけないのか?」
という葛藤に苛まれましたw
モヤモヤしているところにこのレビューを読ませていただき大変納得致しました。
音響や映像はすごいのですがいまいち何を伝えたいのかわからない。すごい親子愛というわけでもないし。
自分もあまり笑えませんでしたw 確かにアメリカ人のリアクションが気になりますね
登場人物が誰も成長しないヘンテコなドラマでしたね
本当、何を伝えたいのかよく分からない長尺でした
時間と金をどぶに捨てた気分。この論評を先に見ておきたかったw
そもそも移民問題という繊細なテーマなのに、悪役を白人至上主義者(絶対悪)として、主人公側を移民賛成(テロリストだけど絶対善)として描いている時点で真面目に取り扱う気無いよね?激浅過ぎた。
母親の扱われ方も、娘の反応や対応も全く共感できなかった。
この映画が深いとか言ってるアホどもを正座させて説教したいわw
お願いだから左翼的なメッセージが入っているだけで映画を絶賛するのは止めてほしい。。。
違う思想の客でも上映時間中だけは納得させるのが良い政治映画だと思うのですが、この映画は思想を同じくする人たちが集まって楽しくやっているだけという感じで、深みはありませんでしたね