ある告発の解剖_後半がひどすぎる【3点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
社会派
社会派

(2022年 イギリス・アメリカ)
レイプ裁判を描いた怒涛の社会派ドラマという風情で前半部分の出来は素晴らしいのだが、後半に差し掛かった辺りから急激に作品のクォリティは下がり、最終話は目も当てられない出来だった。『ゲーム・オブ・スローンズ/最終章』をも下回る記録的尻すぼみじゃなかろうか。

登場人物

事件関係者

  • ジェームズ・ホワイトハウス(ルパート・フレンド):保守党の国会議員で、メディアが選ぶイケメン政治家ランキング1位の人気議員だが、不倫関係にあった元部下からのレイプ告発を受ける。
  • ソフィー・ホワイトハウス(シエナ・ミラー):ジェームズの妻で、オックスフォード時代から交際している。当初は夫の潔白を信じているのだが、次第に疑いを持つようになる。
  • オリビア・リットン(ナオミ・スコット):ジェームズの元部下で、かつて不倫関係にあった。関係が終わった後にジェームズからレイプされたとして、彼を告発する。
  • トム・サザン(ジョフリー・ストレトフィールド):英国首相。ジェームズとはオックスフォード時代からの友人で、レイプ告発を受けた後にも擁護的な立場をとるのだが、どうも裏がありそう。
  • クリス・クラーク(ジョシュア・マグワイア):保守党のメディア対策担当者。政権にとってダメージとなりかねないジェームズを切るべきと考えている。

法曹関係者

  • ケイト・ウッドクロフト(ミシェル・ドッカリー):敏腕検察官で、ジェームズ・ホワイトハウス事件を担当する。自身は未婚で、元上司の検察官と不倫中。
  • アンジェラ・リーガン(ジョゼッテ・シモン):ジェームズの弁護士だが、検察側のケイトとも友人関係にある。

感想

前半最高・後半最悪

国民的人気を誇る政治家ジェームズ・ホワイトハウス(ルパート・フレンド)が、部下の女性をレイプした疑いで訴えられる。被告が真っ向から否定する中で裁判は開廷し、さて真相やいかにというのが本作のざっくりとしたあらすじ。

日本の映画界でも有名監督がその地位を地用して女優に関係を迫ったなどというスキャンダルもあって、偶然にも日本の視聴者にとってはタイムリーな作品ともなった。

作品はいくつかの素晴らしい指摘と良質な演技に支えられており、間違いなく見どころはある。楽しんで見るようなテーマでこそないが、前半は夢中になって鑑賞した。

しかし4話あたりからあり得ない展開と強引な結び付けが横行するようになり、それまで緻密だった法廷での舌戦も荒れ放題となる。

ここまで失速するものかと驚き、全部見終わった後には失望の方が大きかった。では以下に、何が良くて何が悪かったのかを具体的に書いていく。

性犯罪を認定することの難しさ

まず良かった前半部分から。

本作は性犯罪被害を扱っているのだが、エンタメがこのテーマを描く場合、加害の事実が明白な案件を扱うことが圧倒的に多い。ジョディ・フォスター主演の『告発の行方』(1988年)やジョン・グリシャム原作の『評決のとき』(1996年)がその例だろう。

ただし現実を考えると、加害の事実の認定が困難である案件の方が厄介である。

大手テレビ局所属の報道記者が、当時学生だった若いジャーナリストをレイプしたという事件なども、当事者間の合意の有無が争点であり、加害の事実の認定に困難を極めた。

なぜなら、性行為とはパーソナルな行為であるため第三者の目撃証言を得難く、現場の状況を客観的に確認することがほぼ不可能だからである。

加えて、はっきりと合意形成してから性行為をするなんてことは現実的にあり得ないわけで、多かれ少なかれ当事者間の暗黙の了解というものが介在する。

そんな曖昧なコミュニケーションの中で起こった認識の齟齬程度の問題なのか、それとも否定の意思が読み取れたにも関わらずもう一方の当事者が無視したのか、これを合理的・客観的に証明することはかなり難しい。

そうなると、当事者同士の従前の関係性から当時の状況を推測するしかなくなるのであるが、ともすればそれは被害者側の落ち度の指摘、レイプされた側が悪いという不快な議論にもつながっていく。

そういう事情もあって映画やドラマではこうした案件は扱いづらく、専ら加害の事実がはっきりとした事件ばかりを扱ってきたわけであるが、本作はそこに風穴を開けた。これは実に勇気ある行為だったと思う。

本作でレイプ被害を訴えるのは議員の元不倫相手であり、二人の間には5か月もの不貞関係があった。よって性行為の有無をもって加害の事実は認定できず、その場での当事者間の合意の有無が争点となる。

この点、被害者側が議員との復縁を望む気持ちを持っており、少なくとも行為に及ぶ直前までは、彼女も悪い気がしていなかったというのだから難しい。

途中までは良かったのだが、途中から嫌になった。この気持ちの変節を検察はどうやって証明するのか、また弁護側はどうやって崩すのか。実にハイレベルな法廷闘争が繰り広げられるのである。

この部分の完成度は圧倒的だった。

巧みだなと思ったのが、検察官も弁護人も女性にしていることで、加害の事実を暴こうとする側も女性なら、それを否定する側も女性。このことによってジェンダーという対立軸を巧妙にかわし、個人が犯した罪という一点に視聴者の興味を集中させている。

そしてドラマ全体の視点を被告人の妻(シエナ・ミラー)に置いた点も冴えていた。

同じ女性として被害者への同情心を持ちつつも、不倫をされた側でもあるため彼女を軽蔑する気持ちも持っている。また夫の潔白を願いつつも、不倫発覚を機に彼の人間性への疑念も芽生え、その発言を満額信用できなくなる。

こうしたニュートラルな視点を持ち込んだことで、視聴者もすんなりとドラマに入り込むことができた。実によく計算された構図である。

ありえない展開で失速 ※ネタバレあり

なのだが、4話辺りから物語は急激に失速する。

何が起こったのかと言うと、夫の学生時代のレイプ疑惑までが浮上してくるのである。

そのために現在の審議が物語の中心から外れ、夫とは学生時代から交際していた妻の思い出探索がメインとなるのである。これがつまらなかった。

しかもその被害者とは当時の妻のルームメイトだった人物であり、実は法廷で目の前にいる検察官その人だったという、テレビの2時間ドラマでもそんな安っぽいなことにはならんぜよという、物凄く雑な展開を迎える。

妻のルームメイトはよく分からん理由で卒業前であるにもかかわらず姿を消していたのだが、実はレイプ事件にショックを受けて大学を去り、名前も容姿も変えて別の大学に編入して人生をやり直し、今に至るのだとか。

名前と容姿を変えたとはいえ大学時代のルームメイトに気付かんものかねとか、過去を消し去ったとはいえ、検察に入る段階で身元調査はなかったのだろうかとか、次々と浮かんでくる疑問の数々。

こうなってくるとドラマどころではなくなってくる。

さらに、学生時代のレイプ当夜にはラリった同級生が屋上から落ちて死ぬという事故も起こっており、男はその事故を目撃した数十分後にレイプするというあり得ない流れもあった。さすがにそんな奴はおらんやろと、大木こだまばりにつっこんでしまった。

そんな感じで荒れてくるので、本筋である現在のレイプ裁判も随分と雑になってくる。

被告人がついに証言台に上げられ、元被害者でもある検察官との直接対決となるのだが、検察官は冷静な問答から被告人の発言の齟齬を引き出すのではなく、「相手は嫌がってましたよね、嫌がってたはずだ、嫌がってたに決まってる!」みたいな感じで私見を押し付けるのみで、全然質問になっていない。

こんなものが法廷劇とは言えないし、陪審員からすれば激しい口調で責め立てられる被告人が哀れにも見えてくる。検察自ら負けにいっているようなものである。

これで勝ちを確信した弁護人は対抗する証人喚問をするまでもないとして辞退し、陪審の判断も異例の速さで下され、被告人は無罪となる。

いくら個人的事情があって心穏やかではないとはいえ、検察官がプロとして致命的にマズい仕事で利敵行為をしてはならんだろう。

全く腑に落ちないラスト ※ネタバレあり

かくして無罪判決を勝ち取った被告人だが、いったんは無罪になった夫を妻が告発者側に立って追い詰めるという勧善懲悪のどんでんが待っている。ただしこれも腑に落ちなかった。

事の真相はというと、この男には過度なストレスを受けると暴力的なセックスで発散したくなるという習性があって、学生時代にはラリった同級生の転落死で、現在ではメディアの出した批判記事で、そんな心境になっていた。

本来ならばパートナーである妻がその被害を受けるはずの立場にいたのだが、本人も無自覚のうちに回避できていて、外部の女性がその被害を受けていた。

妻はそのことに胸を痛め、いったんは無罪放免になった夫の罪を暴かねばならないと立ち上がったってことらしい。

さはされど、相手はかわいい子供達の父親でもある。

その状況に置かれた時、子供のために口をつぐんでおくべきかと迷うのが人情ではなかろうか。夫を犯罪者にするという点について妻の逡巡がなさ過ぎて、都合の良い終わり方に感じられた。

夫を告発するという結論は変わらなくとも、その逡巡が描かれるだけで深い話になったはずなのに、「ならぬものはならぬのです!」的な強引な幕引きで随分と説得力がなくなった。

なぜこんなに雑なことになってしまったんだろうか。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント