(2014年 アメリカ)
1981年。石油会社を経営するアベルは、タンクローリー強盗に悩まされていた。ある日起こった強盗事件で従業員が拳銃で応戦したことが警察沙汰となり、銀行からの融資を打ち切られた。さらに、業界の悪しき慣習に染まらないアベルは役所からの攻撃対象であり、脱税と価格操作の疑いでの家宅捜索にも入られる。
8点/10点満点中 クリーンな経営者がバカを見る話
金策に走る社長
贔屓にしているJCチャンダー監督の3作目ですが、相変わらず含蓄ある素晴らしいドラマで大変見ごたえがありました。やっぱりこの監督好きです。
アメリカン・ドリーマーという邦題は逆説的なものであり、前向きな印象を受ける邦題とは裏腹に、本編には夢も欠片もありません。
ざっくり言うと金策に走る経営者の姿を描いた作品なのですが、その焦燥感がハンパなものではないのです。
社運を賭けた大型案件がスタートしてすでに引き返せないという段階で、銀行からの融資を打ち切られてしまった。
迫る支払期限に向けて金を掻き集めねばならない中で、主人公はそれまで大事にしてきた経営理念をどこまで妥協せねばならないかという判断に追い込まれます。
クリーン経営は良いことばかりではない
主人公の経営理念とは徹底的にクリーンであることでしたが、それは会社にとっての強みであると同時に弱みでもありました。
地場でやっている二代目三代目社長達が昔ながらの不透明経営をやっている運送業界において、ユーザー目線の透明性あるサービスを武器に急成長したものの、業界の悪しき馴れ合いから一歩引いている新参者を同業他社は好ましく思っておらず、業界内ではイジメを受けています。
加えて、裏金を回していないためにお上からの攻撃対象にもされており、それが業界全体の問題であっても、主人公の会社だけが見せしめのように締め上げられています。
また、主人公によるクリーンな経営は社内へも向いています。
舞台となる1981年は最多犯罪件数を記録し、NYにとって史上最悪の年とも言われました(原題”A most violent year”の由来)。
運送会社のトラックはしょっちゅう強盗に襲われており、そんな中で従業員達からは護身用の銃を持たせて欲しいとの要望が上がっています。
実際、同業他社はとっくに従業員を武装させており、万が一従業員がその銃を使って傷害事件を起こした場合には「そんな銃を持たせた覚えはない」とシラを切って会社が責任逃れをするという運用としているのですが、主人公はそんなインチキで無責任な運用方法を許容できません。
業務で銃を持たせる以上は会社が全責任を負わねばならないが、その責任が会社の負える範囲を超えているため、そもそも銃を携帯させてはならないという至極真っ当な意見を言うのです。
しかし、そんな正論が事態をさらに悪化させるのが世の中の難しいところであり、主人公の会社は強盗達からは絶好のターゲットと見られて金銭面でも人材面でも損害を出し続けています。
初志貫徹か、柔軟な方針転換か
草創期においては有効に機能していた理念が、コントロール不能な環境変化の中で通用しなくなっていく。
初志貫徹か柔軟な方針転換か。
大成する人には初志貫徹型が多いように感じるし、一般に初志貫徹は美学としても捉えられていますが、頑なに方針転換を拒むことには犠牲やリスクも伴うという厳しい現実を本作は描いています。
これは本当に深いと思いました。
最終的に、主人公は経営理念と心中する道ではなく妥協して生き残る道を選択しますが、目の前の脅威から逃れるため悪魔に魂を売ってしまったことが、後に禍根を残すということもまたよくある話。
果たして主人公の選択が正しかったのかどうかは劇中では結論が出ません。
こうしたオチの付け方も良いと思いました。
本作は3部作構成になるという構想もあるようなのですが、このドラマの続きはぜひ見たいと思います。
A Most Violent Year
監督:J・C・チャンダー
脚本:J・C・チャンダー
製作:J・C・チャンダー、ニール・ドッドソン、アナ・ゲルブ
製作総指揮:グレン・バスナー、ジョシュア・ブラム、ケリー・オレント、ジェフ・スコール、ジョナサン・キング
出演者:オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン、アレッサンドロ・ニヴォラ、デヴィッド・オイェロウォ、アルバート・ブルックス
音楽:アレックス・イーバート
撮影:ブラッドフォード・ヤング
編集:ロン・パテイン
製作会社:フィルムネイション・エンターテインメント、パーティシパント・メディア
配給:A24(米)、ギャガ(日)
公開:2014年12月31日(米)、2015年10月1日(日)
上映時間:125分
製作国:アメリカ合衆国
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