アイ・アム・サム【2点/10点満点中_ファンタジーに振り切れすぎたお涙頂戴映画】

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社会派
社会派

[2001年アメリカ]

2点/10点満点中

■あまりにリアリティを欠いた話

7歳程度の知能と言いつつ子供ができる行為はしてたんかいとか、相手女性は堕胎という選択はしなかったのかとか、サムの保護者は一体どこにいるんだろうかとか、計算もまともにできないサムが時給8ドル程度の収入をどうやってやりくりして子育てしてきたのかとか(むしろ普通の成人以上にやりくり上手)、見ていてどんどん湧き出てくる疑問の数々。「現実にもこんなことが起こりうるのかもしれない」と観客に思わせるレベルには設定を煮詰めて欲しいところでしたが、とにかく基本設定が粗すぎてついていけませんでした。

なお最初の疑問については、性について何も知らないサムが、実はよその男の子供であるルーシーを自分の子供だと信じ込まされていたというどんでん返しでもあるのかなと思って見ていたのですが、最後まで見てもそういった捻りはありませんでした。

■主題は普遍的な子育て論?

本作の主題は障害者の子育てではなく、子供を守る力のない親に対して社会はどう対処するべきかという、より普遍的なものであるように思いました。サムはかなり特殊な事例ではあるものの、例えば経済力がないとか、育児ノイローゼにかかっているとか、子供に対して衝動的に暴力を振るってしまうとか、良い親として振る舞おうという気はあって、子供に対する愛情も本物ではあるものの、能力の問題からその実現ができていない親というのは一定数います。そうした能力のない親からは、子供の安全を最優先に考えて子供を取り上げるべきなのか?脚本レベルでは観客に対してそうした問いかけを投げかけるような内容だったと推測されます。

サムの雇った弁護士リタに向かって児童保護局の役人が放つ「あなたは華々しく裁判に勝利すれば終わりなのかもしれないけど、ルーシーの人生への責任を一体誰がとるのか」というセリフが象徴的なのですが、ただ可哀そうという次元を超越した深刻な問題がそこにはあるのです。

■お涙頂戴演出が社会啓蒙的な意義を埋没させている

ただし、監督はこの題材をただ可哀そうな話として見せています。これが大失敗でした。引き離される親子の側に過剰に肩入れした演出を施しているために、本来は観客に考えさせねばならない主題について、作り手側が答えを出しているのです。ショーン・ペンとダコタ・ファニングの演技力で親子が引き離される様を見せられれば誰だって「可哀そうだな」と思いますよ。対する児童保護局側はなぜか暗い室内でマジックミラー越しの監視があり、刑務所か何かにしか見えない絵面で「ここは地獄です」と言わんばかりの見せ方になっており、印象操作も甚だしい限りでした。

■「みんな仲良く」という毒にも薬にもならない結論

ラストも酷いもので、親権を争う裁判の前夜にて里親はサムとルーシーとの間にある強固な絆を認め、またサムは里親の養育力を認めるというやりとりがあるものの、次の場面はルーシーが出場しているサッカーの試合をみんなで応援するところに飛び、そのまま映画が終わってしまいます。裁判でどのような結論が出たのかが見事にごまかされているのですが、サムにも里親にもどちらにも分がある問題について、社会はどう決着を付けたのかという点は重要だったと思います。「みんな仲良く」という毒にも薬にもならない終わり方では、前半では確かにあった社会制度に対する問いかけから逃げたようにしか映りませんでした。

基本設定から結論まで、本作はリアリティというものを蔑ろにしすぎています。シングルで子供を7歳まで育てるなど普通の大人でも難しいのに、なぜサムにはそれができていたのか。また、子供を挟んで対立していた実の親と養父母がどうやって折り合ったのか。そういった複雑な問題や現実の醜い部分をファンタジーや綺麗事で誤魔化しているために、ショーン・ペンとダコタ・ファニングの演技以外は何も残らない内容となっています。

I Am Sam
監督:ジェシー・ネルソン
脚本:クリスティン・ジョンソン,ジェシー・ネルソン
製作:マーシャル・ハースコビッツ,エドワード・ズウィック
製作総指揮:マイケル・デ・ルカ,クレア・ラドニック・ポルスタイン,デヴィッド・ルービン
出演者:ショーン・ペン,ミシェル・ファイファー,ダイアン・ウィースト,ダコタ・ファニング,ローラ・ダーン
音楽:ジョン・パウエル
撮影:エリオット・デイヴィス
編集:リチャード・チュウ
配給:ニュー・ライン・シネマ(アメリカ),松竹/アスミック(日本)
公開:2001年12月28日(アメリカ),2002年6月8日(日本)
上映時間:133分
製作国:アメリカ合衆国

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