(2026年 日本)
良くも悪くもガンダムらしさが凝縮された一本。緻密に構成された物語は身ごたえ十分だったのだが、おそらく意図的に説明を排除したであろう語り口は難解で、話についていくことにかなり苦労した。ファン層拡大のためにも、もう少し嚙み砕いてもよかったんじゃないか。

おじさんだらけの映画館
公開直後の週末にIMAXで見た。
劇場は中年男性ばっか
令和の世にここまでの男社会は珍しいのではなかろうか。
そして中高年のガンオタと言えば一人で映画館に来るのがデフォの動きであり、収容人数の多いIMAX上映館でありながら、上映前にしゃべっているのは数組しかいない。
数百人の中年男性が黙って上映を待っているという異様な光景が繰り広げられていた。
ここにガンダム興行の難しさが如実に表れている。
ガンダムはその知名度・人気の割に「鬼滅の刃」や「チェンソーマン」のような興行記録を残せてない。
その理由はこの劇場の状態を見れば一目瞭然で、ほとんどの客は一人で来るので、「見たい人」と「連れてこられた人」、そして「流行っているようなのでなんとなく見に来た人」という波及がまったく望めないのだ。
コアな固定ファンのみでグルグル回しているのがガンダム界隈なのである。
そんなファン層において、私の地位はさほど高くないと思われる。
基本がガンプラ(というか森永ガンダムチョコレートスナック)から入ったガンオタで、一つの作品を繰り返し見ているわけでもない。
よって、「これはあの作品のあの場面に関連しているんですよ」と言われても、ピンとこないことが多い。
一見さんお断りのハードな語り口
そんな位の低いガンオタが恥を忍んで正直に告白するが、話の半分くらい分からんかった。
前作の内容を覚えているのは当然のこととして、前日譚にあたる『逆襲のシャア』(1988年)の内容もほぼ完ぺきに頭に入っていることが鑑賞の前提となっている、実にハードルの高い作品なのだ(もしかしたら原作小説も読んで来てほしいのかも)。
俯瞰で状況を説明するセリフが一言二言あるだけで全然違うんだよなぁという場面においても、説明は徹底的に不親切で、わかるようには話してくれない。
なぜなら、この映画を見に来るのはコアな客層だけだからだ。
分からんかったなりに物語を整理しつつ感想を述べていくが、原作未読、『逆襲のシャア』もうろ覚えという状態なので(前作だけは直近で見返した)、もしかしたら間違いだらけかもしれない。
性懲りもなく地球連邦が高圧的かつ酷い締め付けをしているU.C.105年
地球環境を汚すだけの人類は一人残らず宇宙移民すべしというシャア思想を引き継ぐハサウェイ・ノアは、マフティーを名乗って私設軍隊を組織し、連邦へのテロ活動を働いていた。
マフティーが次に狙っているのはオーストラリア南部の都市アデレードで開催される国際会議なのであるが、受けて立つ連邦軍側においてもアデレードが危ないという予測は立っている。
「キルケー部隊」を率いるケネス・スレッグ大佐はアデレードに向けてテロリスト達がどう動くのかを予測して掃討作戦を展開し、オーストラリア北部の街オエンベリではテロ組織を虐殺するなど、手段を択ばぬ対策を講じていた。
一方数で劣るマフティーとしては、アデレードまでに連邦との正面衝突は避けなければならない。そこで友軍を用いた陽動作戦などで本隊の進撃ルートをカモフラージュしている。
結局、所在地を突き止められてマフティー本隊は壊滅させられるのだが、状況説明の不十分さからその絶望感がイマイチ伝わってこないのは残念だった。
恋愛ドラマとしてはかなり面白い
上述の通り、ハサウェイとケネスの駆け引き・腹の探り合いが物語の主軸なのであるが(なおケネスはハサウェイ=マフティーであることを知らない)、そこで重要な役割を果たすのが、ニュータイプらしい第六感を持つ少女ギギ・アンダルシアである。
彼女こそが本作のタイトルロールだ。
またギギは見目麗しい女性であることから、男女関係においても緊張感を高める。
ギギを中心としていくつもの三角関係が重なった、複雑な恋愛ドラマでもあるのだ。
- ハサウェイ↔ギギ↔ケネス
- ギギ↔ハサウェイ↔ケリア
- ギギ↔ケネス↔メイス
なおケリアとはハサウェイの学生時代からの恋人で、反政府運動への参画後もマフティーのメンバーとして彼を支えていた女性。
またメイスとは前作の冒頭でケネスがナンパしていた客室乗務員であるが、彼女らは当然のごとくドラマに組み込まれており、その存在についての丁寧な説明はないので、登場時点には「こいつ誰?」と思ってしまった。
凡人に過ぎない彼女らは、『機動戦士ガンダム』におけるフラウ・ボゥ、『Zガンダム』におけるファ・ユイリィの立ち位置にあると言える。
主人公を思う気持ちは一番なのであるが、ニュータイプだのエースパイロットだのが入り乱れたガンダムシリーズにおいては非常に地味な存在であり、そのうち主人公からも袖にされるようになる。
本作においてもハサウェイの関心は美しく才能に溢れたギギに向かっていき、地味なケリアの嫌なところばかりが目に付くようになる。
カレーを食べるときのクチャクチャ音などがどうにも我慢ならない。そんな些細なことで「あ、俺はもうこの人を好きじゃないんだ」ということに気付く当たりの描写は、実にうまいと感じた。
メイスの扱いも似たり寄ったりで、女性としての魅力でも、年齢でも、ギギには決して勝てないということが分かっている中で、意中のケネスが自分を呼んでくれた。
彼女はこのチャンスに全力で乗っかりに行くのだが、結局ギギの気まぐれにぶち壊されてしまうという凡人の悲哀を一身に体現していた。
またギギに関心を持つハサウェイにしても、「あの女に振り回されないように」と思考レベルではわかっていても、いざ彼女が絡んでくると調子が狂ってしまう。
まさに「キルケーの魔女」である。
彼ら・彼女らが繰り広げる恋愛模様は非常に面白かった。
ガンダムがあんまり出てこないよね
- ロドマさんからのご指摘により、最後に登場する機体はペーネロペーではなく映画オリジナルMS「アリュゼウス」であることが判明したのですが、初見時の混乱を記録する意味もあり、レビューはそのままにしておきます。(2026年2月4日追記)
そんなこんなで戦略上の探り合いと三角関係に多くの時間が費やされた結果、ガンダムの活躍はさほど拝めなかった。
原作がアニメではなく小説だったことからも、心理劇に主眼が置かれた物語であろうことは何となく察しがついていたけど、MS戦が一向に始まらない中で、半分わからないドラマが繰り広げられるのは結構な苦痛だった。
クライマックスではようやっと派手な戦闘が始まるのだが、クスィーガンダムとペーネロペーの外観が似すぎていて、どっちが優勢なのかよくわからんという問題も発生していたし。
またペーネロペーの構造に詳しくないと何が起こっているのか余計に分かりづらいという、戦闘場面の構成もよくないと感じた。
プラモデルを作ったことがある人ならよく知ってるけど、比較的シンプルな形状のオデュッセウス・ガンダムの上に、鳥のような形状のフライトユニットが被さる形でペーネロペーの機体は構成されている(なおペーネロペーとはギリシャ神話に登場するオデュッセウスの妻の名前)。
で、クスィーガンダムとの戦闘でフライトユニットが損傷し、中身のオデュッセウス・ガンダムだけになったのがクライマックスなのだ。
そして精神的に不安定になっていたハサウェイは、露呈したオデュッセウスの姿にかつてのνガンダムを重ねてしまい、己のトラウマとも向き合わざるをえなくなるというドラマ的にもアクション的にも重要な局面を迎えるのだが、ペーネロペーの構造を知らない人にとっては、何が起こっているんだか伝わらなかったのではないだろうか(幸いなことにガンプラから入った私はこの点はクリアーだった)。
オデュッセウスとフライトユニットを合体させるカットを戦闘前に入れておくだけでも全然違ったはずなのに、徹頭徹尾不親切なつくりの映画だと感じた。
なおνガンダムの登場によって、本作は小説『ベルトーチカ・チルドレン』の続きではなく、映画『逆襲のシャア』の続きであることが明白になった(『ベルトーチカ・チルドレン』の続きであればHi-νガンダムが出てくるはず)。
そうしたメタ的な意味でも重要な場面だっただけに、見る側に伝わるよう作ってほしかった。
あえて分からなく作って、何度も見に来させる作戦なのかもしれないが。


コメント
去年のジークアクスの方はどうでしたか?
映画館にも行きましたけど、面白かったですよ
めちゃくちゃうまい人たちが作った二次創作物って感じでしたね
最後にクスィーガンダムと戦ったのはペーネロペーではありません。
量産型νガンダムにフライトユニットを装着させたアリュゼウスという新登場の機体です。
中盤でペーネロペーを修理していた整備兵がパイロットのレーンに「直るまでアリュゼウスを使って下さい」的なことを言っていました。
量産型なのでもちろんνガンダムに似ており、ハサウェイのフラッシュバックのきっかけになりました。
量産型νガンダムは逆シャア版MSVで生まれたマイナー機体で、今回の登場は大抜擢&超サプライズなので
私は見てて興奮しましたが、普通は伝わらないですよね。
以上、めんどくさいガンダムオタクでした。
あれはペーネロペーじゃなかったんですね
確かに、HGアリュゼウス発売って記事がありますね
ご指摘いただき、ありがとうございました
私も帰宅後にネットをみるまでアレは修理が間に合ったペーネロペーだと思っていました
夜戦&取っ組み合いで余計別物と認識出来ませんでした
中身が出てきた時にオデュッセウスガンダムのデザインが変わった?と思った程度でした
あとケネスは前作の時点でハサウェイ=マフティーって気がついてますよ ギギがでていく寸前に
そんな私も前作復習してから観に行ったのにメイスは今作初登場だと思っていましたよ
色々と足りない上に御褒美のMSバトルがラストだけなのはエンタメ作品としては失格だと思いました
冨野監督は「逆シャアを見直したら戦闘シーンが多すぎた」と反省してらっしゃいましたがとんでもない
あれこそドラマパートと戦闘パートのバランスが完璧な作品でした
ケネスはハサウェイ=マフティに気付いてましたか
やはり私の読み違えが多いですね
MSバトルが少ないのは残念ですよね
前菜ばかりで肉や魚が出てこないコース料理というか
関係者の予想以上に、興行成績が良いみたいですね
おっさんたちが多かった一つの要因は
ブライトさんとミライさんが一緒に出演するという
ファースト以来のシーンを観たいという思いもあったのかもしれませんね