SAS: 反逆のブラックスワン_面白みに欠ける90年代風アクション【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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エージェント・殺し屋
エージェント・殺し屋

(2021年 イギリス)
次期007の筆頭候補とも言われるサム・ヒューアン主演のアクション映画で、シリーズ化する気満々ではあるのですが、アクション映画としてはどうにも盛り上がりに欠けるうえに、主人公自身がサイコパスの傾向を持つというコンセプトも生かされておらず、総じて残念な出来でした。

感想

戦いの目的がすっきりしない

民間軍事会社ブラックスワンは英国政府の汚れ仕事を引き受けてきたのですが、ジョージア国で民間人を虐殺している動画が明るみに出たことから、英国政府はブラックスワンを切り捨てることに決定。彼らの元にはSAS(特殊空挺部隊)が送り込まれます。

しかしリーダー格のグレース(ルビー・ローズ)は逃げた後であり、後日、彼女は手下を引き連れて英仏海峡を渡る特急ユーロスターを占拠し、乗客を人質にして英国政府との交渉に臨みます。

偶然にもそこに乗り合わせていたのがSAS隊員のトム・バッキンガム(サム・ヒューアン)であり、人質にされた恋人ソフィー(ハナ・ジョン=カーメン)を救うため、トムはテロリストに対してゲリラ戦を挑むということがざっくりとしたあらすじ。

このあらすじからは『ダイ・ハード』(1988年)『暴走特急』(1995年)といった90年代アクション映画の香りがしてくるし、実際、作り手側もそれらを多分に意識していたのだろうとは思うのですが、アクション映画好きの私はイマイチ乗れませんでした。

それはなぜなのかと考えると、テロリスト側の目的はあくまで英国政府との交渉であり、乗客に危害を加える気はないために、主人公が両者の交渉に割って入ることが邪魔でしかないように見えたためです。

例えば『ダイ・ハード』のように、目的は金ではあるが、自身の死を偽装するためにテロリストは人質を殺すつもりであるという「実現させるわけにはいかない計画」というものがあればアクションは盛り上がるのですが、グレースの計画はそういったものを含んでいないために、阻止する必要がないわけです。

英国政府だっておかしな奴らから因縁つけられているわけではなく、実際に彼らが指示をだしてやらせてきたことなのだから、事態を収拾する義務はあるし。

こうした全体の構図を見ると、孤軍奮闘する主人公が終始空回りしているように見えて、全然気持ちが乗りませんでした。

毒を以て毒を制すというコンセプトが死んでいる

そしてもう一つ残念だったのが、毒を以て毒を制すというコンセプトが生かされていないこと。

冒頭、トム・ウィルキンソンのナレーションによってサイコパスの説明がなされます。一義的には父親からブラックスワンを継いだグレースを指しているのですが、物語の展開と共に、ヒーローポジションにいるはずのトムのことも指していることが分かります。

トムは他者への共感や生死の概念が非常に軽いサイコパス的な傾向を持っているのですが、恋人ソフィーとの関係を通して一般人の感覚と辛うじてつながっている設定となっています。

そんなトムが真正のサイコパスであるグレースと対峙するいう構図からは「毒を以て毒を制す」というコンセプトが明確に打ち出されているのですが、どうにもこれが有効に機能していません。

トムのサイコパス的な傾向はソフィーのセリフによって語られるばかりで、観客をドン引きさせるような言動をとることがないために、標準的なヒーロー像に収まってしまっているのです。

彼にはもっとアブナイ部分を見せてほしいところでした。

加えて、クライマックスにおけるグレースとの直接対決は盛り上がりに欠けました。線の細いグレースでは、筋肉隆々のトムに勝てるようにはどうしても見えず、戦いには全く緊張感が宿っていません。

しかしそんな戦いが長々と続くものだから、完全に飽きました。

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