(2018年 日本)
日本映画界では久々のオールスターヤクザ映画で、内容も良いのでとても楽しめました。言葉遣いも暴力描写も荒々しいのですが、イケメン俳優を大量投入することで印象をマイルドにしており、一般大衆へのアピールもバッチリ。しかもそのイケメン達がヤクザ映画固有の雰囲気を壊していないという絶妙な塩梅が実現しています。

感想
王道のバディ刑事もの
国立大卒の新米刑事 日岡(松坂桃李)が呉原東署のマル暴に配属され、ベテラン刑事 大上(役所広司)の荒っぽい捜査手法や逸脱行為の連続に驚くということが作品の骨子。
凸凹刑事モノはバディアクションのテンプレートであり、そんな中でも堅物の若手とベテランの汚職刑事という組み合わせは『ルーキー』(1990年)、『NYPD15分署』(1999年)、『トレーニングデイ』(2000年)など各時代で製作され続けているものです。
そんなわけで本作は割かしベタな骨格を持っているのですが、定番ならではの強みできっちりと面白くなっているし、『日本のいちばん長い日』(2015年)で共演済みの役所広司と松坂桃李は抜群の相性を見せます。
新米刑事 日岡の成長譚としても、謎の多いベテラン刑事 大上の背景を暴いていく物語としてもよく出来ており、バディ刑事ものとして楽しませてもらいました。
暴力団のパワーゲーム
そんな二人が挑むのは過去に因縁を持つ暴力団同士の抗争の阻止。
呉原市に拠点を持つ尾谷組と、広島市に拠点を持つ加古村組は犬猿の仲であり、14年前の一大抗争での因縁はいまだに燻ぶり続けています。
そんな中で加古村組は尾谷組のシマにちょっかいを出し始めるのですが、ヤクザというのは基本的に単細胞で「俺のシマに入られた」だの「メンツをつぶされた」だのですぐ相手に報復しようとするので、喧嘩をけしかけることはかなり容易。
で、放置しておくと大戦争になりかねないので、マル暴の大上がヤクザ同士の均衡を保つために動いているというわけです。
こうした全体の図式からすると挑発にホイホイ乗っていく尾谷組が一番馬鹿で間抜けなのですが、若頭に江口洋介、鉄砲玉に中村倫也という新旧人気イケメン俳優を配置することで、観客に愛着を感じさせることに成功しています。この辺りの計算は実にうまいなと思いました。
対する加古村組は組長が嶋田久作、その上部組織である五十子会会長が石橋蓮司で、陰湿な悪だくみをしていそうなイヤ~な空気が漂っており、これまたキャスティングの妙によって組織の色付けをすることに成功しています。
かくして「昔ながらの武闘派ヤクザ 尾谷組vs謀略に長けた経済ヤクザ 加古村組」という構図が出来上がったのですが、これらのヤクザが織りなすパワーゲームにはなかなかの緊張感が宿っており、終始飽きずに見ることができました。
汚職刑事の功罪
こうした一連の図式の中で浮かび上がってくるのが、警察という正義の組織に身を置きながらもヤクザとズブズブの関係を築いている大上刑事の存在意義です。
一番良いのはヤクザも汚職刑事も居ない世の中なのですが、呉原市にヤクザがいることは厳然たる事実である以上、不正にまみれてでもこれをコントロールする者は必要とされています。
それを担っているのが大上であり、あれこれ非難されながらも、最終的にはヤクザの抗争から市民を守るということに一役買ってきたわけです。
一方、現実社会はどうかというと、暴力団対策法が施行された1992年以降、濃厚交際を疑われるということに警察は非常に神経質になりました。その結果、マル暴がヤクザの中に入り込んでコントロールするという「良い関与」ができなくなり、警察がヤクザの内情を把握できなくなるという問題が起こったようです。
本作は、日本社会が悪しきものと判断した汚職刑事にも一定の社会的意義があったことを思い出させる内容であり、社会派作品としての一面ものぞかせる作りとなっています。この点もお見事でした。
そして「孤狼の血」というタイトルは、大上のことを指しているということが分かります。
汚職警官として組織から孤立し、世間から後ろ指刺されてもなお役割を果たそうとする大上と、すでに絶滅したニホンオオカミを重ね合わせた上で、その思いが日岡へと引き継がれることに「血」という言葉が使われているというわけです。
本作は上司から部下へと引き継がれていく物語となっており、最後はバディ刑事ものに帰着していきます。
この映画、やはり全体的な構成がよく出来ています。
地元民の視点では
ちなみに私は呉市出身なのですが、同じく呉を舞台としつつも大半が京都で撮影された『仁義なき戦い』(1973年)とは違い、地元でロケが為されていることに感動いたしました。
地元民であれば「あ、あそこだ」と分かるような場所が効果的に使われているし、役所広司の死体が上がる場所は実家の近所なのですが、映画の舞台として扱われるとあんな見え方になるんだという感動もありました。
また、俳優の皆さんの広島弁には違和感ありませんでした。今は広島弁を話さない人も増えてきただけに、地元民よりも上手じゃないかと思ったほどです。
ただし違和感だったのは尾谷組で、構成員が江口洋介と中村倫也、そして『LEVEL2』(2021年)では斎藤工ですが、あんなにカッコいい人達は呉には居ません。断言できます。
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