(2022年 アメリカ)
リーアム・ニーソン主演×マーティン・キャンベル監督のアクションスリラーとくれば期待させられるけど、アルツハイマーを患った殺し屋という本作の特殊設定がまったく生きていない凡作中の凡作だった。かといって見ていられないほど酷くもないので、時間に余裕があればどうぞ。
感想
Amazonプライムで無料配信されていたのを鑑賞。
大傑作『96時間』(2008年)以来、B級アクション映画界を牽引するリーアム・ニーソンと、シリーズ最高傑作の呼び声も高い『007/カジノロワイヤル』(2006年)をモノにしたマーティン・キャンベル監督の初タッグ作品なので結構期待していたものの、実際の映画はどうにもピンボケした凡作だった。
今回のリーアム・ニーソンが演じるのは高齢の殺し屋アレックス・ルイス。
冒頭、メキシコの病院に潜入したアレックスは、病気の母を見舞いに来たターゲットを殺害する。
このターゲットはいけ好かないチンピラ風ではあるものの、母親の前では良き息子であり、しかも人工呼吸器につながれた母親には意識がある様子。
レオンやニキータ辺りならば殺しを諦めて引き返すであろう場面だが、アレックスは母親の目の前でも躊躇せずターゲットを殺害する。
彼が職務遂行を第一に考える優秀かつ冷酷な殺し屋であることが分かる素晴らしい導入部で、本編への期待値は否応なしに高まったのだが、本作のピークはここだった。以降、話は図ったように盛り下がっていく。
アレックスには悩みがあった。アルツハイマー型認知症の初期症状を発症しているのだ。
一足先にアルツの本格症状が発症した実兄とはもはや会話が成立せず、弟の自分を認識できているのかどうかすら怪しい。
数年後の自分の姿を目の当たりにしたアレックスは、わずかなミスが命取りになる殺し屋稼業の継続は不可能と判断し、仕事の仲介人に引退を申し出る。
しかしこの仲介業者が人の話をちっとも聞かないガサツなオヤジで、「エルパソで割の良い仕事が入ってんだよ!エルパソはお前の地元だしちょうどいいだろ!」と無理やり押し切られ、アレックスは渋々最後の仕事を引き受けることに。
最初のターゲットである地元の不動産業者の殺害には難無く成功し、目的物である金庫のブツも持ち帰ったが、二番目のターゲットは14歳の少女だった。
子供は殺せないという最低限の倫理感は持ち合わせていたアレックスは、現場を放棄して宿泊先のホテルに退散する。
しかし翌日のニュースを見るとターゲットの少女殺害が報じられているうえに、自分自身も同業者に命を狙われた。
窮地に追い込まれたことで沸き起こる自衛本能と、子供を殺すとは許せん奴らだという怒りが相まって、アレックスが最後の殺戮の花を咲かせる!
・・・はずなんだけれども、アレックスの怒りの発露がどうにも弱い。
殺人技を駆使して不埒な奴らを片っ端からぶっ殺すという『96時間』(2008年)のような直情的な物語になりえていないのだ。
冒頭にあったような過激なバイオレンスは鳴りを潜め、チンタラとした駆け引きが続く。これではアクション・スリラーとして面白くはならない。
かつ、ドラマが複線化されているために視聴者の注意も散漫になる。
時を同じくして、エルパソでくすぶっているFBI捜査官ヴィンセントがいた。
ヴィンセントのチームは人身売買組織を追っているのだが、しっぽを掴みかけたところで、「これでは起訴できない。もう解散な」と上から宣告され、その不可解な決定に違和感を抱いているところだった。
そしてヴィンセントたちが追っていた人身売買組織は、アレックスが関わってしまった組織とつながっていたことで、両者の関わりが始まるというわけだ。
ヴィンセントに扮したのは、本作と同じ記憶喪失系スリラー『メメント』(2000年)のガイ・ピアースという狙い過ぎたキャスティングには辟易とさせられたが、元スター俳優らしい存在感は今でも健在。
しかしガイ・ピアースの存在感が増せば増すほど、リーアム・ニーソン側の印象が薄くなっていく。ここまで打ち消し合っているスター共演作も珍しいのではないか。
ヴィンセントが人身売買組織にこだわっているのは、彼自身の悲しい過去に由来があるのだが、そのあたりのドラマはうまく消化されない。
消化されないと言えば黒幕側のドラマも同様。
アレックスに少女殺害を依頼し、従わないとなれば別の殺し屋を動かしたり、FBIに圧力をかけて事件をもみ消そうとしていたのは、全米屈指の不動産業者であるダヴァナ・シールマン(モニカ・ベルッチ)だった。
ダヴァナの一人息子は、とっくに成人した年齢であるにも関わらず少女買春をやめられないド変態であり、彼女は持てる財力と経済力を行使して、息子の罪につながる要素を全力でもみ消していたのである。
ダヴァナ自身はまっとうな実業家であるものの、不出来な息子を溺愛するあまり深い深い罪を犯してしまう。そうした捻じれた親子関係がきちんと描けていればさぞかし味わい深い犯罪ノワールになっただろうと思うところだが、本作はダヴァナというキャラクターも、これを演じるモニカ・ベルッチというスターも持て余してしまう。
全盛期ならばとてつもない傑作にした可能性もあるが、現在のマーティン・キャンベルの構成力・演出力は素材にまったく追いついていない。
そのうち主人公アレックスのアルツハイマー設定も忘れ去られていき、普通のつまらないアクション・スリラーとなってしまう。
もうちょっとどないかならんかったものか。
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