ジェミニマン_葛藤と愛憎のドラマが不足している【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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エージェント・殺し屋
エージェント・殺し屋

(2019年 アメリカ)
殺し屋として世界一の腕前を持つヘンリーは、自分が実行した暗殺の真相を知ったことから古巣の組織から追われることとなる。追っ手を次々と撃退するヘンリーに対して、彼のDNAから生み出されたクローンが送り込まれ、50歳のヘンリーvs23歳のジュニアの戦いが繰り広げられる。

© 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

スタッフ・キャスト

監督はアン・リー

1954年台湾出身。イリノイ大学とニューヨーク大学で映画作りを学び、在学中にはスパイク・リーと知り合いになって彼の映画製作を手伝ったこともありました。監督としての評価は以下の通りズバ抜けており、世界中の権威ある賞はたいてい受賞したことがあります。

  • ウェディング・バンケット(1993年):ベルリン映画祭金熊賞
  • いつか晴れた日に(1995年):ベルリン映画祭金熊賞
  • グリーン・デスティニー(2000年):アカデミー外国語映画賞、アカデミー監督賞
  • ブロークバック・マウンテン(2005年):アカデミー監督賞、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞
  • ラスト、コーション(2007年):ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞
  • ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(2012年):アカデミー監督賞

キャリアのターニングポイントとなったのは『グリーン・デスティニー』(2000年)であり、同作がアメリカで公開された外国語映画としては史上最高額の興行成績を上げたことで、従来の批評家受けだけの監督から、一般受けも狙える監督へと一皮向けたのでした。

しかし、ユニバーサルの肝いり企画だった『ハルク』(2003年)を微妙な結果に終わらせたことから娯楽作からは15年ほど遠ざかっており、本作は久々のポップコーンムービーとなります。

異常なほど重厚なアメコミ映画でしたね

製作はジェリー・ブラッカイマー

1945年生まれ。最初のキャリアは、後に彼がプロデューサーとして使うこととなる監督達と同じく、コマーシャル・フィルムの監督でした。ニューヨークの広告代理店で数々の賞を受賞した後にロサンゼルスへ移って映画製作を開始。初期にはハードボイルド小説の古典の映画化『さらば愛しき女よ』(1975年)、ジーン・ハックマン主演の『外人部隊フォスター少佐の栄光』(1977年)、マイケル・マン監督の『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1980年)などやたらシブイ映画ばかり作っていたのですが、1980年代よりドン・シンプソンの製作助手となったことから、その作風は一変しました。

見栄えのする若手俳優、人気アーティストを起用したサウンドトラック、特殊効果を駆使した派手なアクションというドン・シンプソンスタイルを継承・発展させ、これによりヒットメーカーの仲間入り。彼の作品は派手さの割には中身がないと揶揄されることも多いのですが、それはシンプソンと組む以前のシブい作品群が収益を生み出してこなかったというブラッカイマーなりの反省がスタート地点にあり、彼は百も承知の上でやっているのです。

90年代後半から2000年代にかけては世界最高のヒットメーカーだったのですが、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010年)や『魔法使いの弟子』(2010年)が大コケとは言わないまでも、かけた製作費からすると成功とは言えない微妙な結果に負わり、『ローン・レンジャー』(2013年)が9800万ドルもの赤字を出して、長年パートナー契約を結んでいたディズニーからは切られました。

以降はディーン・デヴリン降板後の『ジオストーム』(2017年)の直し作業をやったり、中規模予算の『ホース・ソルジャー』(2018年)をプロデュースしたりと細々とやってきており、本作が久々の大作となります。

共同製作はデヴィッド・エリスン

1983年生まれ。父はオラクル・コーポレーションの共同設立者であり、総資産500億ドル(2014年時点)で世界5番目の富豪にも挙げられたことのあるラリー・エリソン。

デヴィッドは若干23歳でスカイダンス・プロダクションを設立し、コーエン兄弟最大のヒット作にして、アカデミー作品賞にもノミネートされた『トゥルー・グリッド』(2008年)、トム・クルーズとパラマウントとの険悪な関係性を乗り越えて製作され、シリーズの起死回生作品となった『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)、史上最大規模で製作されたゾンビ映画『ワールド・ウォー・Z』(2013年)と、若くして破竹の進撃をしています。

2014年よりターミネーターシリーズの権利を保有しており、シリーズ5作目の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)、最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)も手掛けています。

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豪華な脚本家陣

原案は『シャザム!』(2019年)のダーレン・レムケ

1969年生まれ。90年代後半より映画界で脚本家業を開始し、1997年に本作の元となるオリジナル脚本を執筆しました。ただし、完成に20年以上を要した本作において、アン・リー監督が指揮を執った完成版の脚色作業には関わっておらず、あくまで原案という扱いとなっています。

『シュレック フォーエバー』(2010年)で脚本家として初クレジット、ブライアン・シンガー監督の『ジャックと天空の巨人』(2013年)の初期脚本を執筆し、直近では『シャザム!』(2019年)の脚本家の一人としてクレジットされています。

『ゲーム・オブ・スローンズ』のデヴィッド・ベニオフ

1970年ニューヨーク出身。父はゴールドマンサックスの元社長、従兄弟はセールスフォース・ドットコムの創業者という名家の出身なのですが、当人はスパイク・リー監督で映画化された『25時』(2002年)の脚本が売れるまでは教師やナイトクラブの用心棒などをしていました。

ブラッド・ピット主演の『トロイ』(2004年)が初の大作であり、作品はヒットしたのですが、神話を時代劇として再構築したアプローチが当時は理解されず、批評面での評価は受けられませんでした。2011年からは、大学以来の友人であるD・B・ワイスと共にテレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の脚本・製作総指揮を務め、同作は史上最高レベルの人気を博するドラマとなりました。

『ハンガー・ゲーム』のビリー・レイ

1990年より脚本家業を開始し、ブルース・ウィリス主演の『薔薇の素顔』(1994年)で初クレジット。『ニュースの天才』(2003年)、『アメリカを売った男』(2007年)の2本の社会派映画では監督も務めて高評価を受けました。他に、大ヒット作『ハンガー・ゲーム』(2012年)、ポール・グリーングラスの実録アクション『キャプテン・フィリップス』(2013年)を手掛けています。

その他の脚本家

  • アンドリュー・ニコル:『ガタカ』(1997年)、『トゥルーマン・ショー』(1998年)、『ターミナル』(2004年)、『ロード・オブ・ウォー』(2005年)、『ドローン・オブ・ウォー』(2015年)
  • ブライアン・ヘルゲランド:『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)、『ペイバック』(1999年)、『ミスティック・リバー』(2003年)、『グリーン・ゾーン』(2010年)、『レジェンド 狂気の美学』(2015年)。
  • ジョナサン・ヘンズリー:『ダイ・ハード3』(1995年)、『アルマゲドン』(1998年)、『ハルク』(2003年)、『パニッシャー』(2004年)。
  • スティーヴン・J・ライヴェル&クリストファー・ウィルキンソン:『ニクソン』(1005年)、『ALI アリ』(2001年)、『完全なるチェクメイト』(2014年)

主演はウィル・スミス

1968年フィラデルフィア出身。友人と共にヒップホップグループを結成し、1987年にデビュー。翌年にはシングルが大ヒットし、グラミー賞最優秀パフォーマンス賞を受賞しました。

1990年より俳優業を開始し、主演のコメディドラマが6年間続くヒットに。1992年より映画界にも進出し、『バッドボーイズ』(1995年)、『インデペンデンス・デイ』(1996年)、『メン・イン・ブラック』(1997年)、『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)と毎年のようにヒット作を出していました。マイケル・マン監督の『ALI アリ』(2001年)ではアカデミー主演男優賞にノミネートされて以降は、ブロックバスター作品からシリアスな作品への出演が増えました。

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作品概要

製作に20年以上を要した脚本

スペックスクリプト、それは企画先行型ではないオリジナル脚本のことであり、そもそもの企画がないことから予算も監督もスターも後付けでくっつけられていくことから、スタジオからスタジオへと転々とし、何年も塩漬けにされることもザラにあります。

本作も、まさにそのパターンを辿りました。ダーレン・レムケによる脚本がディズニーに買い取られたのは1997年のことであり、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)のドン・マーフィがプロデュースし、トニー・スコットが監督する予定でした。その後、監督はカーティス・ハンソン、ジョー・カーナハンと移り変わっていったのですが、技術的な制約から企画は進展しませんでした。

21世紀に入るとジェリー・ブラッカイマーが映画化に向けて動き出し、2003年から2010年にかけてニコラス・ケイジ主演作として進められており、2008年には製作開始寸前にまでいっていたのですが、結局『魔法使いの弟子』(2010年)が優先して製作されました。

2016年にスカイダンス・プロダクションがディズニーから映画化権買い取り、ジェリー・ブラッカイマーと共に製作に着手しました。2017年にはアン・リーが監督に就任し、その後にブラッカイマーとは旧知の仲のウィル・スミスがキャスティングされ、2018年2月より撮影が開始されたのでした。

3D+in HFR

動画とは静止画の集合体であり、フレームレートとは動画を見せるための静止画のコマ数を指しており、このコマ数が多いほど動画は高画質でなめらかとなります。そしてHFR(ハイフレームレート)とは、通常よりも多いコマ数をとっている動画を指します。

フレームレートは映像体験に影響します。映画の3D映像を不自然に感じたり目が疲れたりするのは、目が残像、ぼやけ、ちらつきを処理しなければならないからなのですが、フレームレートを上げることでその問題は解消され、人間が肉眼で見る光景に近いものを再現できるとされています。

通常の映画が1秒間に24コマのところ、本作は1秒120コマで撮影されています。実に通常の映画の5倍。これがどれだけ凄いかと言うと、スローモーション撮影に使われるレベルのフレームレートだということです。そのフレームレートで映し出される3D映像は前代未聞の実在感!

…となるはずだったのですが、なんと全米で3D+in HFRで上映された映画館はゼロだったとのことです。日本でも対応の映画館はたったの3館(MOVIXさいたま、梅田ブルク7、Tジョイ博多)。私の近所にはなかったので、通常のIMAX 2Dで見て参りました。よって、以下のレビューは通常上映を前提としたものとなります。

登場人物

  • ヘンリー・ブローガン:ウィル・スミス
  • ジュニア:ウィル・スミス
  • ダニー:メアリー・エリザベス・ウィンステッド
  • バロン:ベネディクト・ウォン
  • クレイトン・ヴァリス:クライヴ・オーウェン

感想

素晴らしいアクション!ただし前半のみ

冒頭、暗殺者のヘンリー・ブローガンは走行中の列車に乗るターゲットの狙撃をしますが、コンマ何秒を争う緻密な精度が要求される狙撃において思わぬ邪魔が入るなど、なかなかハラハラさせてくれました。そしてこの狙撃の成功によって、ヘンリーが世界一の殺し屋であることにすべての観客が納得することになります。

『スーサイド・スクワッド』のデッドショットを上回る狙撃の腕前

その後いろいろあってヘンリーは古巣であるDIA(アメリカ国防情報局)から命を狙われ、彼のクローンであるジュニアが死角として送り込まれてくるのですが、二人が初めて手合わせするコロンビアでの銃撃戦及びバイクチェイスは白眉の出来でした。

銃撃戦は激しく撃ち合うのみならず、お互いの力量の探り合い、最適な射撃ポジションの取り合いといったプロらしい戦い方になっていて、キャラ設定と目の前のアクションが見事に整合していたし、緊張感も十分。

続くバイクチェイスは全力疾走するバイクの背中をカメラがピッタリとくっついて動き、ヘンリーとジュニアがいかに凄い動きをしているかを観客に対して余すことなく伝えてきます。ヘンリーは思わぬ障害物が飛び出してくる車道を、ジュニアは堤防の上の狭い淵を全力疾走しており、ぶつかっちゃうんじゃないか、落っこちちゃうんじゃないかと見ているこちらがハラハラさせられるのですが、彼らはそんな危険な運転をしながらも、たまに視線を相手の方に向けて銃撃までをやってのけます。もう人間業じゃないのですが、これを見ればヘンリーを倒せるのは同じ遺伝子を持つジュニアしかいないという強引な設定にも納得がいきます。

バイクの操作技術はジェイソン・ボーンを越えてます

ただし、見せ場が素晴らしかったのはここまで。後半に入ると予算でも尽きたのかと思う程見せ場のクォリティが下がり、通常のアクション映画と大差のないレベルとなります。前半の素晴らしい見せ場の数々でハードルが上がり切った分、後半での失速は悪印象でした。どうしちゃったんでしょうか。

無駄にややこしい話

主人公ヘンリーをはめたのは、彼が所属するDIA(アメリカ国防情報局)という諜報機関の上司と、ジェミニ社という民間軍事企業の社長なのですが、わざわざ黒幕を二人も置いた意味があまりなかったし、DIAのおばさんに至っては中盤から姿を現わさなくなるので、そもそも居なくてもよかったと思います。あと、クライヴ・オーウェンからハゲ呼ばわりされるヘンリーの元同僚に至っては、最初から最後までその存在に意味がありませんでした。本作には無駄なキャラクターが多すぎます。

ヘンリーが命を狙われることになったのは冒頭での科学者暗殺の真相を知ったためなのですが、この科学者の死の真相も本編に深く関係しておらず、彼の足跡を追いかけてハンガリーへ向かうという展開がまったくの無駄になっています。

ヘンリーvsヴァリスというシンプルな構図のもと、ヴァリスの秘密兵器としてジュニアが送り込まれるという話にすればよかったのに、なぜ無駄に話を複雑にしたんだろうかと不思議で仕方ありませんでした。

ジュニアの葛藤が追及されていない

育ての父ヴァリスと自分の分身ヘンリーとの間で揺れるジュニア。彼の葛藤こそがこの企画のキモだったと思うのですが、せっかくのこの設定がまるで生かされていません。

ヘンリーと話したことでジュニアは完全にヘンリー側に付いてしまうのですが、父として自分を大事に育ててくれたヴァリスへの思いがアッサリ断ち切れてしまうという点は不自然でした。育ての親ですよ。しかもヴァリスはただの兵器としてジュニアを見ていたのではなく、本当の親子の情愛が根付いていたようだったし。

こういうドラマがもっとあれば

自分vs自分の戦いが前半の主題だったとすれば、悪人であることに間違いはないが育ての親を殺せるのかという葛藤が後半の主題だったはずなのに、これがアッサリと流されたことが後半の不出来の原因の一つにもなっています。加えて、アン・リーの監督起用はこのドラマパートを見越してのものだったと思うのですが、彼がドラマ演出にほとんど興味を持っていないという点が意外でした。

まとめ

前半の怒涛のアクションを見れば、全米公開時の不評ほど悪い映画だと思わないのですが、作っている人間が総入れ替えしたのかと思うほど完成度が下がった後半があまりにひどすぎました。

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