アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル【8点/10点満点中_きっとトーニャを好きになる】(ネタバレあり・感想)

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実話もの
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(2017年 アメリカ)
トーニャ・ハーディングは全米選手権1位を獲得したこともあるフィギュアスケート選手。オリンピック出場権を巡って争っていたライバルのナンシー・ケリガン選手の傷害事件が発生し、世界から関与を疑われる。

8点/10点満点中 素晴らしい視点と面白い語り口

トーニャ・ハーディングとは

トーニャ・ハーディングとはオレゴン州ポートランド出身の元フィギュアスケーターであり、トリプルアクセルに世界で二番目に成功した人物(世界初は伊藤みどり)として有名です。戦績は、1991年世界フィギュアスケート選手権2位、1992年アルベールビルオリンピック4位、1994年リレハンメルオリンピック8位。ちなみに、なぜ両五輪の間隔が2年しか空いていないのかというと、アルベールビル大会までは夏季と冬季が同年開催だったものを、リレハンメル大会より夏季と冬季を分けて2年ごとの隔年開催とするための移行措置があったためです。この時期に全盛期だった選手は短期間に二つの大会のチャンスがあるという恩恵に預かれたのですが、ハーディングもまたそのラッキー世代だったというわけです。

先ほど、トリプルアクセルの成功者として有名と書きましたが、彼女が世界的に知られるようになったきっかけはその件ではありません。リレハンメルオリンピックへの出場権を巡って争っていたナンシー・ケリガン暴行事件への関与を疑われ、全世界のワイドショーに連日取り上げられたことが、彼女を世界的な有名人にしました。

私も当時の状況を知っている世代の人間ですが、あの事件では日本のワイドショーまでが連日トップで事件を取り上げるという異例の過熱ぶりでした。ライバルを襲わせるという少女漫画のような事件だった上に、黒髪の誠実そうなケリガンに対し、いかにも頭の弱い金髪女(差別的な言い方で申し訳ないのですが、作品の核心部分なのであえてこう書きます)なハーディングという分かりやすい見た目のコントラスト。この二人の風貌を見た瞬間に、世界中の人がケリガンは正義でハーディングは悪と直感的に確信し、単純な勧善懲悪の物語として楽しんだのです。

主演はマーゴット・ロビー

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でのディカプリオの奥さん役や『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン役で有名な人なのですが、綺麗なんだけど頭の弱い金髪女という役柄で初期のキャリアを築いてきた彼女はトーニャ・ハーディングのイメージと整合しており、まさに本企画にうってつけだったと言えます。

本作に対する彼女の入れ込みようは凄まじく、プロデューサーを務めて作品への資金集めを自ら行い、また4か月に渡ってフィギュアスケートの訓練を行い、高速で回転するところなんかは自分でやっているようです。製作当時26歳で資金集めまで行うという一般の20代からはかけ離れた仕事ぶりと、この役柄でアカデミー主演女優賞ノミネートにまで至ったという作品選別眼の鋭さ、そして何よりパフォーマンスの素晴らしさで、見た目だけが売りの美人女優という悪いパブリックイメージを逆手に取った上でこれを覆してみせた点はアッパレとしか言いようがありません。

斬新な語り口と素晴らしい演出

事実を扱った作品の場合、当事者間で見解の割れている件をどう処理するのかという問題があります。本件においては一貫して関与を否定していたトーニャと、司法取引に応じてトーニャの関与を証言した元旦那との間でいろいろと見解が割れており、どちらの意見に合わせてももう一方の当事者が納得しないという難しい状況にあったのですが、作品は見事な妙案でこれを切り抜けています。微妙な事案に関しては登場人物が第四の壁を越えて「元旦那がそう証言しただけで、私はやっていないわよ」などと観客に直接話しかけてきて、両論併記の状態を作っているのです。これは賢いやり方だと思ったし、観客を楽しませる演出としても有効に機能しており、まさに一石二鳥でした。

また、本作はスポーツ映画としても優れています。前述の通りマーゴット・ロビーはフィギュアスケートの猛特訓を受けて撮影に臨んでおり、競技場面の説得力が違います。加えて、監督の映像テクニックも冴えわたっています。マーゴット・ロビー自身によるパフォーマンスとボディダブルによるパフォーマンスを組み合わせているのでしょうが、両者の継ぎ目がまったく分からないほどの完璧な完成度を達成しています。さらに、滑走する選手と一緒に動くカメラワークも一体どうなっているのかがサッパリ分からず、今までにない映像体験を味わうことができました。

本作の監督を務めたのはマーゴット・ロビーと同じくオーストラリア出身のクレイグ・ガレスピーであり、代表作がライアン・ゴズリング主演の『ラースと、その彼女』という点から分かる通り本質的にはコメディドラマを得意とする人なのですが、同時に『ザ・ブリザード』のようなVFX満載の大作の経験もあって、本作ではその両方の手腕が活かされています。

いろいろと気の毒だったトーニャ

物語はトーニャの幼少期からスタートし、彼女が貧困の中で毒親に育てられた気の毒な人物であったことが明らかにされます。また、陸上競技のように客観的に優劣が分かりやすい競技とは違い、審査員による主観的な評価が入ってしまうフィギュアスケートという競技の特性上、「品位に欠く人物である」という本来の演技とは別問題の影響を受けやすい彼女が苦労させられたことも描かれており、事件当時には「トーニャ=悪」という先入観一色に染まっていた世論に対して、別角度からの新鮮な視点を与えています。

また、貧困層出身のトーニャの周囲にはバカしかおらず、バカな亭主がバカな友人に伝言ゲームをしているうちに「ライバルのケリガンに怪我をさせて競技に出られなくしろ」という話がいつの間にか出来上がり、世紀のスキャンダルへと発展したという経緯も描かれています。最終的に、トーニャ自身が意図したものではないにも関わらず、幼少期から20代半ばまでのすべての時間・労力を注いできたフィギュアスケートを奪われるという厳しい処分が下されたのですが、果たしてトーニャは被害者なのか加害者なのかという判断を観客は求められます。身も蓋もない言い方をすると、バカは罪なのかという問題です。

バカは罪なのか

家族の経済力や親の教育方針は本人ではコントロール不可能なファクターです。これに恵まれなかったトーニャは被害者だと言えるのですが、成人後にも育ちの悪さや周囲の環境の悪さを克服する努力を怠った点では、トーニャにも落ち度があったのかもしれません。ただし、出自に起因する問題を克服する力を持った人間なんて、この世に存在するのかという新たな疑問も浮かびますが。問題を克服するためには前向きな思考という基礎が必要になるのですが、バカ親に育てられるとバカ親の思考回路までを引き継いでしまうのです。

日常でたまに見かけてイヤな思いをする光景として、いかにもヤンキー上がりという風体の親が、幼い子供を汚い言葉で叱りつける様というものがあります。「お菓子は買わねぇって何度言わせんだ。バカかおめぇは!」と大して悪いことでもないのに激しい言葉で叱りつけるヤンキー親と、「ごめんね、ママ」と健気に謝る子供という図はまことに見るに堪えないのですが、10年も経てばこの子は同様の口調で親に悪態をつき、忍耐がなく触るものみな傷つけるようになるのです。これが次世代ヤンキーの生産過程なのですが、十数年にも渡って親の思考回路の影響をどっぷり受けたこの子に今更ヤンキーじゃない道を自力で探せと言っても、後の祭りですよね。

トーニャも同じくです。彼女の愚かさや態度の悪さは、すでに染みついて簡単には取れないものとなっていたのです。ケリガンが怪我をしたという厳然たる事実がある以上、まったく責めを負わないというわけにはいかないのですが、トーニャにも同情すべき背景や、彼女自身ではどうにもできなかったことが多くあった点にも留意してあげる必要があったと思います。

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I,Tonya
監督:クレイグ・ガレスピー
脚本:スティーヴン・ロジャース
製作:ブライアン・アンケレス、スティーヴン・ロジャース、マーゴット・ロビー、トム・アカーリー
製作総指揮:レン・ブラヴァトニック、アヴィヴ・ギラディ、クレイグ・ギレスピー、ヴィンス・ホールデン、トビー・ヒル、ザンヌ・ディヴァイン、ローザンヌ・コーレンバーグ
出演者:マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャネイ
音楽:ピーター・ナシェル
撮影:ニコラス・カラカトサニス
編集:タティアナ・S・リーゲル
製作会社:ラッキーチャップ・エンターテインメント、クラブハウス・ピクチャーズ、AIフィルムズ
配給:ネオン(米)、ショウゲート(日)
公開:2017年12月8日(米限定公開)、2018年1月19日(米拡大公開)、2018年5月4日(日)
上映時間:121分
製作国:アメリカ合衆国

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