(2022年 アメリカ)
マリリン・モンローの波乱万丈の人生を、きわめて退屈に描いた失敗作。芸術性に配慮して製作には口出ししないというネットフリックスの方針が悪い方に転んでいる。
感想
退屈極まりない伝記映画
絶好調のアナ・デ・アルマスがマリリン・モンローに扮したうえ、Netflix史上初の成人指定映画と、何かと話題の作品だったので配信開始日に観たんだけど、つまらなくて驚いた。
映画はエピソードのぶつ切り状態で、2時間46分という長尺を貫く大きなテーマがない。しかも説明的な描写もないので、そもそもマリリン・モンローの生涯を知らない人にとっては分からない部分も出てくるのではなかろうか
本作の企画は2010年頃から存在していたらしく、当時はナオミ・ワッツが主演の予定だった。
その後ワッツが降板し、2014年頃にはジャシカ・チャステインがキャスティングされたがこれまた流れ、最終的にネットフリックスが金を出すということで企画は実現し、アナ・デ・アルマスがキャスティングされた。
10年以上もかけられた作品だけに、脚本と監督を務めたアンドリュー・ドミニクはすっかりこの話に新鮮味を感じなくなっていたのかもしれない。
ドミニクは当たり前の前提部分をすっ飛ばすという奇抜な構成をとったが、これが初見の観客との絶望的な溝を生み出すに至っている。
またカラーとモノクロ、スタンダードとシネスコを混在させた映像表現も効果を発揮しているとは言い難い。何を基準に色分けしているのかがよく分からんのである。
アシュレイ・ジャッドとミラ・ソルヴィーノが二人一役でマリリンに扮した『ノーマ・ジーンとマリリン』(1996年)も大した映画ではなかった。
ただし同作には、上昇志向の強いノーマ・ジーンが男どものスケベ心を利用してのし上がるも、実力で掴んだ成功ではないのでステージが大きくなればなるほど自信喪失し、自分をも見失っていくという、明確なドラマが存在していた。
本作にはそうしたものすらない。
マリリンの身に起こった不幸が乱雑に継ぎ接ぎされているだけなので、ドラマの展開を固唾を飲んで見守るとか、見終わった後に考えさせられるということがない。
しいて言うならばその魅力を消費されるマリリンの不幸がテーマだったのかもしれないが、意味があるとは思えない場面でもアナ・デ・アルマスをヌードにするという演出は、図らずもそのテーマの逆を行っている。
この映画もまた、女優の性的魅力を売り物にしてしまっているのだから、作中に出てくる下劣な男たちと同じ穴の狢ではないか。これではテーマに説得力を持たせられない。
むしろ肌の露出一切なしでマリリンの人生を描き切るくらいのチャレンジをしてみても良かったのではなかろうか。
アナ・デ・アルマスだけは素晴らしい
そんなわけで演出には大いに疑問なんだけど、アナ・デ・アルマスの演技そのものは素晴らしかった。
終始何かに怯え、自分でも何を求めているのかも分からない中で環境に翻弄されるマリリンを、痛々しさ全開で演じている。
普段は自分を抑えてマリリン・モンローであり続けているのだが、家族が絡む問題になると感情を爆発させるという演技の濃淡も凄かった。女優魂全開である。
ラテン系のアルマスがマリリンを演じることに批判もあったらしいが、字幕や吹替で見る我々日本人にとっては彼女のキューバ訛りなど大した問題ではない。
現代最高の美人女優がレジェンド女優に扮した熱演を、ノイズに邪魔されず素直に楽しめたことは幸運だった。
願わくば、話がもっと面白ければ。
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