ノーマ・ジーンとマリリン_悪い意味でテレビ的【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(1996年 アメリカ)
マリリン・モンローの伝記もの。題材が良いのでそれなりに見られるものの、面白くなりきることなく終わるという残念な内容でした。主演二人は頑張っていたんですが、テレビレベルから脱することのなかった演出に難ありでした。

あらすじ

19歳のノーマ・ジーン(アシュレイ・ジャッド)はスターを目指す女優の卵であり、チャンスを掴むためなら有力者への枕営業も厭わない。そんな活動でつながった敏腕エージェントのジョニー・ハイド(ロン・リフキン)はノーマに一方的な思いを寄せ、持てるコネクションを駆使して大役を獲得してきた。ただしスタジオ幹部はノーマに整形することを要求し、整形後のノーマはマリリン・モンロー(ミラ・ソルヴィノ)という芸名を名乗る。

スタッフ・キャスト

監督はテレビディレクターのティム・ファイウェル

本作はHBO製作のドラマなので、監督もテレビ畑のティム・ファイウェルです。

1951年ロンドン出身。1982年よりテレビドラマの演出するようになり、映画界へのステップアップを試みることもなくずっとテレビ界で働いています。

代表作は高評価を獲得したミニシリーズ『ケンブリッジ・スパイ』(2003年)であり、全エピソードを監督しています。2020年現在もテレビ界での仕事は続いており、その息の長いキャリアから業界でかなり重宝されている人物であることが伺えます。

ノーマ・ジーン役はアシュレイ・ジャッド

整形前の無名女優ノーマ・ジーンを演じるのはアシュレイ・ジャッド。

1968年カリフォルニア州出身。幼少期に両親が離婚し、母親に引き取られてケンタッキーに転居。酷い時には電気も水道も止められるような極貧生活だったのですが、その後母がカントリー歌手として売れたので、生活は安定しました。

ノーベル賞学者も輩出している地元の名門ケンタッキー大学に入学したものの女優を目指すために中退し、ハリウッドに移住。

1991年頃からテレビドラマで役を得るようになり、併せて映画にも端役で出演するようになりました。

話題作『ヒート』(1995年)と『評決のとき』(1996年)に出演した辺りから次世代のスター女優としての期待をかけられるようになり、モーガン・フリーマンの相手役を務めた『コレクター』(1997年)、トミー・リー・ジョーンズと共演した『ダブル・ジョパディー』(1999年)などに出演。

ただし決定打となるようなヒット作や名作を出せなかったため、2000年以降はパッとしないキャリアとなっています。

マリリン・モンロー役はオスカー女優ミラ・ソルヴィノ

整形後の大スター・マリリン・モンローを演じるのはミラ・ソルヴィノ。

1967年ニュージャージー州出身で、父は性格俳優ポール・ソルヴィノ。

ハーバード大学を優秀な成績で卒業した後、1993年に父の反対を押し切って女優業へと進み、ウディ・アレン監督の『誘惑のアフロディーテ』(1995年)でアカデミー助演女優賞を受賞。女優業への進出後、僅か2年でのオスカーという快挙でした。

アシュレイ・ジャッドと同じく90年代後半の彼女の推されようは凄まじく、毎年複数の出演作が公開されたのですが、これまたジャッドと同じくヒット作や名作の類を生み出せなかったので21世紀に入るとキャリアは落ち着きました。

ハーバードでも相当優秀な部類に入っていたほどの才媛でありながら、なぜか社会の底辺や頭の悪い人の役を得意としているという不思議な個性を持った人でもあります。

作品概要

マリリン・モンローの人生

本作はマリリン・モンローの伝記映画ですので、モンローの人生について調べたことを備忘的に記しておきます。

幼少期から10代

1926年LA出身で、本名はノーマ・ジーン・ベイカー。幼少期に両親が離婚して母に引き取られたものの、母は精神を病んでいたために母の友人だったグレース・マッキーがいったん保護者となり、その後は複数の孤児院や里親の元をたらい回しにされるという不遇を受けました。

16歳で高校を中退して整備工と結婚。19歳の時にたまたまカメラマンの目に留まって陸軍の機関誌に写真が掲載されたことから、ハリウッドを目指すことにしました。ただし夫が理解を示さなかったために離婚。

キャリア

初期はぱっとせず、生活に困ってヌードモデルをやったりもしていたのですが、有力なエージェント・ジョニー・ハイドとの出会いでキャリアは一転します。

『アスファルト・ジャングル』(1950年)、『イヴの総て』(1950年)に出演して注目され、主演作『紳士は金髪がお好き』(1953年)、『七年目の浮気』(1955年)が大ヒット。短期間でトップスターとなりました。

演技力の不足を補うためにアクターズスタジオのリー・ストラスバーグの指導を受け、舞台にも立ったのですが、この頃から精神状態が不安定になり、入院することもありました。

私生活

その間、メジャーリーガーのジョー・ディマジオ(1954-1955年)、劇作家のアーサー・ミラー(1956-1961年)と結婚したもののいずれも長続きせず、1959年頃からはジョン・F・ケネディとの不倫関係にありました。

1962年8月5日に自宅の寝室で死亡しているところを家政婦が発見。死因は睡眠薬の大量服用と発表されましたが、麻薬のオーバードーズとの説もあります。

死亡理由の謎

当初はキャリアを悲観視しての自殺と考えられていたのですが、後に出てきた資料によってフォックスとの間ではモンローの要求を飲む形での前向きな話し合いが行われていたことが判明し、ミュージカル大作への出演も決まっていたため、決してキャリアは不調ではありませんでした。

死亡現場の不自然な状態から(睡眠薬を服用するためのコップがない、日記帳が消えている、受話器を握りしめて死んでいたのに電話会社に通話記録が残っていない)、通話記録を改ざんできる権力者によって殺害されたという説も存在しています。

ケネディ大統領のみならず弟のロバート・ケネディとも不倫関係にあったことや、マフィアと関係の深いフランク・シナトラを通じてケネディ兄弟と知り合ったことが、公権力やマフィアの絡んだ謀殺説の論拠となっているようです。

本作の日本国内での鑑賞方法

本国アメリカでは1996年5月18日にHBOで放送されたのですが、日本では劇場用作品として公開されました。ただしオリジナルの放送時間135分に対して日本版の上映時間は113分であり、20分以上もカットされています。

カットされたのはノーマの幼少期のエピソードが中心で、日本公開版では仄めかされる程度だった里親からの性的虐待が、よりはっきりわかる形になっているとのことです。

劇場公開後にはVHSとレーザーディスクがリリースされたのですが、以降のソフト展開はなく、DVD化すらなされないまま20年以上が経過しています。

マリリン・モンローの生涯を題材にし、アシュレイ・ジャッドとミラ・ソルヴィノという2名の有名女優が出演している作品でありながら、この扱いは不遇です。

現在の日本で本作を鑑賞するには、日本語の入っていない輸入盤DVDを購入するか、中古のVHSやレーザーディスクを購入するしか方法がありません。

今回、私はVHSを購入して鑑賞しましたが、4Kのストリーミングで映画を鑑賞する時代に20年以上前のVHSの画質はかなりしんどかったです。

登場人物

  • ノーマ・ジーン(アシュレイ・ジャッド):モデルエージェンシーに所属する売れない女優。女の魅力さえあればハリウッドで勝ち進むことができると考えており、演技などのスキルを軽視している。目的のためなら枕営業も厭わない。
  • マリリン・モンロー(ミラ・ソルヴィノ):スタジオ幹部の指示で整形手術をした後のノーマ・ジーンが名乗った芸名。スターにはなったものの、ノーマ時代からは一転して弱気な性格となっており、常に精神状態が不安定。
  • エディ・ジョーダン(ジョシュ・チャールズ):ハリウッドの俳優の卵で、ノーマと交際している。地道に演技力を磨く姿勢をノーマにからかわれている。
  • ジョニー・ハイド(ロン・リフキン):ハリウッドの敏腕エージェント。ノーマに一方的な思いを寄せており、持てるコネクションをフル活用してノーマに大役を与え、大スター・マリリン・モンローを生み出した。
  • ダリル・F・ザナック(ジョン・ルービンスタイン):20世紀フォックス創業者。ジョニー・ハイドのゴリ押しに負けて自社でマリリン・モンローを使っているが、ザナック本人は彼女をまったく評価していない。
  • ジョー・ディマジオ(ピーター・ドブソン):モンローの2番目の夫で、当時もっとも有名だったメジャーリーガー。仲間と遊んでばかりでモンローを家政婦同然の扱いにしたため、すぐに離婚した。
  • アーサー・ミラー(デヴィッド・デュークス):モンローの3番目の夫で、高名な劇作家。知的レベルがあまりに違いすぎてモンローとの生活が成り立たなかった。

感想

勝ち気なノーマが成り上がる前半

ノーマ・ジーン(アシュレイ・ジャッド)はスターを夢見る女優の卵。

確かに彼女の容姿はどこにいても周囲の視線を釘付けにするほどなのですが、何より彼女本人が自分自身の魅力を熟知しており、いつか必ず売れるのだという揺るぎのない自信を持っています。

そして、どうすれば男にウケるのかを知り尽くした彼女は、鼻の下を長くしたおっさん達を次々と討ち取っていきます。

有力者に出会えば枕営業を匂わせて懐に入り込み、オーディションがあれば露出度の高い服を着て行って仕事をすべてもぎ取る。

その結果、彼女は敏腕エージェントのジョニー・ハイド(ロン・リフキン)という強力な後ろ盾を獲得し、大手スタジオが製作する作品への出演を実現します。

彼女の戦い方はダーティなのですが、ここまでくると爽快ですらあります。

これを演じるアシュレイ・ジャッドは当時伸び盛りだったこともあって、野心を隠さない勝ち気なノーマ・ジーンを見事に体現しています。この前半部分はテンポも良くてなかなか見ごたえがありました。

行き詰ったマリリンがひたすら悩む後半

かくして大役を勝ち取ったノーマですが、スタジオ幹部からはだんご鼻を整形し、髪をブロンドに染めるよう指示されます。

こうして生まれたのがマリリン・モンロー(ミラ・ソルヴィノ)。

スタジオ幹部の思惑通りモンローは瞬く間に大衆人気を獲得します。ただしイロモノ的な立ち位置だったので演技者としての敬意は勝ち得ておらず、業界内での評価も低いものでした。

20世紀フォックスのトップであるダリル・ザナックに至っては、どうやら人気があるようなので使ってはいるが、ザナック自身はマリリンをまったく評価していないという状態でした。

「美貌と枕営業で売れる」というノーマ・ジーン時代の戦略のツケを、ここで払わされることとなります。演技や歌唱といった基本のトレーニングを軽視してきたために、マリリンは美人であること以外に売り物となる技術を持っていなかったのです。

いかに自分の出来が悪いかを思い知らされる毎日で、勝ち気だったノーマ時代から一転して弱気になるマリリン。

不安定な精神状態の中で薬物やアルコールに逃避し、話し相手がいないので内に秘めたノーマ・ジーンとの対話を繰り返し、どんどんおかしくなっていきます。

ここではミラ・ソルヴィノが光っており、常に何かに怯える被虐的な演技はよく出来ていました。アシュレイ・ジャッドの加虐的な演技との相性も良く、二人の対話は見応えがありました。

終始平板で盛り上がりに欠ける演出

そんな感じでマリリンの物語は興味深いし、主演二人の演技も良いので評価できる点の多い作品ではあるのですが、全体としては盛り上がりきらなかったことが難点でした。

マリリン・モンローの人生をトレースしているだけで、特に強調したい点や、その中から導き出したい結論などがなく、演出側の主張があまりにもないためにドラマに力がないのです。

本作は悪い意味でテレビ的な作品であり、素材や演技の良さが平板な演出によって台無しにされていました。

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