ジョーンの秘密_面白い実話をつまらなく映画化【4点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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実話もの
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(2019年 イギリス)
“M”ことジュディ・デンチがMI5に逮捕される元スパイ役という変わったドラマなのですが、スパイの苦悩も、彼女が国家に反逆していたことを知った家族のドラマも不完全燃焼を起こしており、上映時間が短いこと以外に良い点はありませんでした。

作品解説

現実のスパイ事件がモデル

本作は、実在した女性諜報員メリタ・ノーウッドをモデルとしています。

1912年にイギリス国民として生まれ育ったメリタは、1932年からイギリスの公務員として働き始め、また1937年にKGB(当時はNKVD)の諜報員となりました。

それから公務員を退職する1972年までの長きに渡ってイギリスの国家機密をソ連に流し続け、1958年にはソ連から労働赤旗勲章も授与されています。

その活動の中でも最もインパクトの大きかったのは、第二次世界大戦下のイギリスの原子爆弾開発プロジェクト「チューブ・アロイズ」の情報を流したことでした。

一応、イギリスの公安からはマークされていたらしいのですが、諸般の事情で逮捕は見送られ続けて定年退職。

その後、1999年に87歳の高齢で元KGBであることが暴かれたのですが、郊外で静かに暮らす老女がスパイであり、長きに渡って一般人に紛れていたことから、衝撃が走りました。

ただし本作はメリタの伝記映画ではなく、彼女をモデルにした小説の映画化なので、史実と異なる部分がかなりあります。

映画のジョーン・スタンリー実際のメリタ・ノーウッド
学歴ケンブリッジ大学で物理学を専攻し、主席で卒業サウサンプトン大学でラテン語と倫理学を学んだが1年で中退
共産主義との関係大学時代に友人の誘いで共産主義運動に参加しただけで、ソ連へのシンパシーは抱いていない共産主義者の両親の影響で、自身もゴリゴリの共産主義者
配偶者ネタバレになるので自粛
※実際の夫とはかなり違います。
ロシア系で熱心な共産主義者である化学教師
子供一人息子が弁護士一人娘が一般人

感想

ジュディ・デンチの登場場面が少ない

スパイ容疑でMI5に逮捕される老女ジョーン・スタンリーを演じるのは、大女優ジュディ・デンチ。

ちょっと前まで『007』シリーズでジェームズ・ボンドの上司Mを演じていたデンチが、今度はMI5に逮捕される側になるという点が興味を引きますね。

そこは大女優だけあって、180度違う役柄を難なくモノにしており、今回は郊外で暮らす平凡な老婆にしか見えません。

さすがは僕たちのM!と感動したものの、作品の大半は若き日のジョーンの回想場面であり、デンチの登場場面はかなり少ないことが残念でした。

ドラマが全部面白くない

で、本作で描かれるものって一体何なのっていうと、おおよそこの3つかなと思います。

  1. 共産党シンパである大学同期達との関係
  2. スパイになるに至った若い頃のジョーンの逡巡
  3. スパイ活動発覚後の老齢のジョーンと家族の関係

国際的な諜報活動を巡るサスペンスよりも、ジョーンという女性の個人史を描いたメロドラマ的な要素が強いのですが、これらすべての要素が面白くないという、とても残念なことになっています。

大学の同期達はどいつもこいつも胡散臭くて、かつ、好感を抱ける人物像でもないので、彼らの行く末にさほどの関心を持てませんでした。

特に、ジョーンからミンクのコートをパクるソニアって奴はどうしようもなかったのですが、そういう奴に限ってよく出てくるので、「もういいって」という感じだったし。

スパイになるに至ったジョーンの逡巡も、分かったような分からんようなものでした。

ゴリゴリの共産主義者だった実際のメリタとは違い、本作のジョーンはさほど共産主義に傾倒しているわけでもなく、ソ連との接点もさほど持っていません。

そんな彼女がソ連に核兵器の開発技術を横流しするに至った動機がピンとこないんですよね。

ジョーンは広島と長崎の被害状況を見てショックを受け、それはアメリカのマンハッタン計画の成果であって自分達が直接的に手を下したものではないとはいえ、私はこんなものに加担していたのかと愕然とします。

そこでジョーンは核抑止論らしきものを唱えてソ連に技術の横流しをするのですが、人的被害への恐怖心から核抑止論へという思考過程がうまく整理されていません。

核兵器の被害状況に心を痛めた者がやるべきこととは、これ以上作らせないよう働きかけることなのに、なぜ他国にも作らせるよう動くのか、そこが感覚的に掴みづらくなっているのです。

物語の核心に関わる部分なのだから、核抑止論を理論的に掘り下げるべきだったと思うのですが。

そして、家族の関係性もイマイチでしたね。

ジョーンには弁護士の息子がいて、役所関係にもかなり顔が利く人のようで、逮捕拘束された母の姿にショックを受けた息子は、「不当逮捕だ!俺が何とかさせる!」と憤ります。

しかしジョーンと話してみると、かけられた嫌疑がすべて本当のことだと知ってショックを受け、「もう母さんの弁護なんてできるわけないだろ」と言い出します。

この親子関係がどうなるのというのが作品の要だったわけですが、回想パートと現在パートが交互に映し出されるという構成のまずさもあってか、二人のドラマがぶつ切り状態で緊張感が持続せず、この後どうなるのかがさほど気になりません。

最終的には「まぁそうなるよな」という形に収まっていくので、特に感動的でもなかったし。

また、ジョーンの夫は一体誰なのかという点も作品の大きなカギとなっているのですが、意外性こそあれど胸に迫ってくるものはありませんでしたね。

総じてつまらない映画で、良かった点と言えば上映時間が短かったことくらいですね。

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