青春の殺人者_悪い意味で時代を感じる【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
実話もの
実話もの

(1976年 日本)
Amazonプライムで何となく見たのですが、当時流行っていた前衛的なスタイルを現在の目で見るとダサく感じました。経済的に充たされることの空虚さみたいなメッセージも、本当の不況を経験した世代にとっては「だから何?」という感じだし、あの時代でなければ成立しない映画なのだろうと思います。

作品解説

現実の殺人事件がモチーフ

本作は中上健次の短編小説『蛇淫』(1975年)を原作としており、その原作は1974年に千葉県市原市で起こった市原両親殺人事件をモチーフとしています。

当該事件の犯人は風俗嬢との交際を反対されたためにまず父親を、続いて母親を殺害したとされており、1984年に地裁で死刑判決を受け、1992年に最高裁で死刑が確定したのですが、一貫して無罪を主張し続けており、現在でも東京拘置所に収監され続けています。

キネマ旬報ベストテン第一位

初公開時、本作は非常に高い評価を受け、キネマ旬報ベストテンでは第一位を獲得しました。

感想

前衛スタイルが厳しかった

本作を製作したのは株式会社日本アート・シアター・ギルド(通称ATG)。

ATGとは通常の商業ベースには乗りづらい作品を多く製作していた映画会社であり、内容の難解さを指摘されていたものの、その敷居の高さが逆に当時のモードとなり、60年代から70年代にかけて若者からの支持を得ていました。

本作もまさにその文脈の中で作られた作品であるため、当時のモード全開。ちょっと外したセリフ回しや楽曲選択など作り手側の自意識が全開であり、見ていて恥ずかしいほどでした。

前衛映画ってアイドル映画と似たようなもので、当時の空気の中でこそ見るべきものであり、時代を越えると少々厳しいものがありますね。

主演二人の演技については微妙。決して下手ではないのですが、上手くもないかなと。

前衛を気取った映画なので「普通の演技をするな」みたいな特殊なオーダーもあったかもしれないし、主演二人はお疲れさまという感じでしたが。

全体として厳しかった。それが本作の率直な感想です。

当時の若者しか共感できない内容

内容はと言うと、金を出すが口も出してくる小金持ちの親に辟易としていた順(水谷豊)がまず父親(内田良平)を、続いて母親(市原悦子)を殺してしまい、恋人のケイ子(原田美枝子)と共に数日ほどフラフラとしていろいろと思い悩むが、結局何のケジメも付けられないというものでした。

こうしてあらすじだけ書くと、テレンス・マリック監督の『地獄の逃避行』(1973年)みたいな映画を作りたかったのかなとも思います。

で、金を持っているからと言って威張り散らす親世代への反発と、かと言って自立もできない若者世代のどうしようもなさの両面が描かれるのですが、高度経済成長期後・バブル期直前という日本社会の絶頂期の空気の中で見ないと伝わりづらい作品となっています。

こちとら不況の中で育ってきた世代ですからね。

うちに金はないと言われて国立大に進学したはいいが、就職氷河期の末期にあって就活ではお祈りされまくり。「良い大学に入ればなんとかなる」と洗脳されていた私としては、甚だ心外な展開でした。社会人になったらなったでリーマンショックに襲われ、私は手に職を付けることに決めて公認会計士になったのでした。

段々と『ガンダムSEED DESTINY』でカガリに毒づくシン・アスカみたいになってきたのでこの辺でやめにしておきますが、こういう日本経済の地獄巡りをさせられてきた世代にとっては、「経済的に豊かであっても心は空虚である」みたいな話は全然入ってこないんですよね。「金がない辛さを知ってるかい?君たち」と言いたくなるので。

いくら毒親であってもわが子に車を買い与え、店の経営まで任せてくれるのであれば御の字だし、それでも気に食わないのであれば親元を離れて自立すればいいのです。

それができないどうしようもなさがテーマだということは分かるのですが、作品は主人公を突き放すわけではなくむしろ同情的な面が大きいので、やはり共感の接点が後の世代とはかなりズレているように感じます。

もちろん時代性を取り払った後にも生き残ることができる作品というものも存在しますが(『地獄の逃避行』もその一つ)、本作はそのタイプではなかったと思います。

清貧と貪欲の対比が陳腐

そして、順の毒親も昔は苦労してきたということが明かされます。元はアイスキャンデー売りでギリギリ生きる糧を得ていたところ、降って湧いた成田空港建設計画によって二束三文の土地が金の成る木に生まれ変わり、そこで財を得たという設定となっています。

主人公は親がアイスキャンデー売りをしていた時代を思い出して涙を流すのですが、ここでの清貧と貪欲という対比は陳腐だし、観念的にも感じましたね。

「衣食足りて礼節を知る」なんて言葉もある通り、金がない方が毎日の生活に追われて心にゆとりがありませんよ。ちょっとしたことで家庭内は荒れるし。

金を持つと疑心暗鬼に陥ったりいろいろ大変だとは聞きますが、それは大金持ちの話。順の親のような小金持ちレベルにはそんな心配もなく、生活には困らないし、金が原因のトラブルも起こらないしという、精神衛生上、最も良い状態にあるはずです。

にも関わらず「貧しかった頃は良かったなぁ」なんて考えるのは、経済と生活というテーマを作り手側が煮詰め切れておらず頭で考えた図式に当てはめただけとも受け取れます。

この映画には前衛的なスタイルこそあれど、現実の一側面を突くような鋭い批評性はありません。それこそがの最大の問題点であり、時代の空気を共有していない者には伝わらない原因なのだろうと思います。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク
公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント