(2019年 アメリカ)
アメリカの中東支配と、それに反発するテロをモチーフにしたと思われるSF作品で、現実社会を反映した批評性や、論理的な隙の無さなど、褒めるべきところは多いのですが、まったく面白くないことが欠点でした。
感想
アメリカの中東政策がモチーフ、多分
宇宙人による統治下の世界が舞台のSF。
侵略というプロセスは遠の昔に終わっており、新体制による統治と、それに反発する反体制テロリスト達の動きをテーマにした点が、本作の新奇性であると言えます。
そして宇宙人の目的はというと、地球の資源を根こそぎ採掘することであり、その開発を進めやすくするために地球人にも協力者を作り上げています。
こうした一連の図式から連想させられるのはアメリカによる中東政策であり、宇宙人の拠点に一撃を与えようとする地球人テロ組織は、ワールドトレードセンターやペンタゴンに突っ込んでいったアルカーイダと重なりました。
そして、テロを起こす側を英雄的に描く視点は、SFでなければ許容されえないほどの過激なものだと言えます。
SFとは現実世界の写し鏡とも言われますが、フィクションというフィルターを通さなければ描けない現実を描いた本作は、まさにSF的な作品であると言えます。
頭の良い人が作ったインデペンデンス・デイ
そうした崇高なテーマに負けないほど、本編もいろいろと作り込まれています。
宇宙人は地球の電力を止めることで力の違いを見せつけ、武力を使わずに地球人を屈服させます。ドンパチすれば宇宙人側だってかなりの労力を使うことになるし、もしかしたら損害が出るかもしれないので、無血開城を迫る方法は理に叶っています。
また、あくまで資源が目的なので無闇に人を殺したり、建造物を破壊したりせず、採掘がスムーズにいくことを目的として、反乱が起こらないための体制作りに専念している点もクレバー。
そして地球人側にも宇宙人統治の恩恵を受ける階層を作り上げ、彼らに不満分子を監視させるという方法をとっている点も合理的です。
そういえば、ローランド・エメリッヒ監督の『インデペンデンス・デイ』(1996年)の宇宙人も地球の資源を目的にやってきましたが、一義的な目的ではない都市破壊と軍隊の壊滅に精を出した結果、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた人類の反撃を喰らって敗退するという阿呆なことになっていました。
インデペンデンス星人は致命的なまでに戦略をミスったわけですが、本作のウニ星人達はその辺りを驚くほどうまくこなしています。
ハイテク監視網にローテクで立ち向かうテロリスト
クレバーと言えば地球人テロリスト側も同様であり、口頭でのコミュニケーションや伝書鳩を使った通信といったアナログによって、ハイテク監視網を掻い潜っています。
ちなみに、ローテクによってハイテクを欺くという方法は、リドリー・スコット監督の『ワールド・オブ・ライズ』(2008年)でも描かれていたものです。
テロリストたちが昔ながらの伝達手段を使うようになった結果、米軍がその動きを追えなくなったという当時のトピックを扱ったのが『ワールド・オブ~』でしたが、本作のテロリスト達も現実世界のイスラム系テロリストと同じ対抗手段で体制と戦っているわけです。
更には、構成員達にはテロ計画の断片しか伝えず、もし逮捕・拘束されても情報が漏れない仕組みにしている点も、よく考えられています。
硬派すぎて面白くない
と、褒めるところの多い作品ではあるのですが、欠点はちっとも面白くないということです。
徹頭徹尾クールに徹した結果、ドラマ性も状況説明も極限まで削ぎ落とされており、誰だかもよく分からない人が出てきては、逃げたり殺されたりを繰り返すだけ。
見る側の感情が乗っかっていないので、一世一代の爆弾テロが成功するかどうかという運命の瞬間においてもハラハラドキドキさせられず、事の顛末を黙って見守るという状態となっています。
また、先ほどは『インデペンデンス・デイ』を揶揄したものの、エメリッヒのようなサービス精神に欠けている点もマイナスでした。
侵略ものらしい派手な見せ場の一つや二つは欲しいところでしたが、本作はあまりに禁欲的でまったくサービスがないので、そうはいっても面白いものを見たい多くの観客のニードには応えられていません。
本作を紹介するスチールで頻繁に登場するガンキャノンみたいな巨大ロボも単なる背景にすぎず、動いている画が一つもないことは残念・無念でした。
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